著者
雨宮 美和子 安達 亙 唐澤 忠宏 柳澤 明美
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第58回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.93, 2009 (Released:2010-03-19)

〈はじめに〉疥癬患者と接触した医療スタッフに対する予 防的治療の是非およびその方法はいまだ確立されていな い。今回,角化型疥癬で入院中の患者に接触した看護ス タッフに,予防的治療の目的でイベルメクチンを投与した ためその結果を報告する。 〈疥癬症例〉87歳,男性。心不全の診断で老人保健施設よ り当院に緊急入院。入院1ヶ月前より上半身に皮疹があ り,皮脂欠乏性皮膚炎と診断され,軟膏を塗布されてい た。入院8日目に当院皮膚科で角化型疥癬と診断された。 体幹に浸出液を伴う痂皮化した発疹を多数認め,イベルメ クチンの投与と安息香酸ベンジルローションの塗布がなさ れ,7週間後に治癒した。 〈看護スタッフへの予防的治療〉角化型疥癬と診断された 直後より,疥癬患者に対する感染予防策を行うとともに, 本例の看護に携わった看護師9名中8名にクロタミトンの 全身塗布を,皮膚炎を有する2名の希望者にイベルメクチ ンの内服を行った。クロタミトン全身塗布の煩雑性とその 効果の不確実性,イベルメクチンの効果の確実性とその安 全性より,最終的に看護師9名全員にイベルメクチンの予 防的内服を行った。イベルメクチン内服の4か月後までに 疥癬の感染は確認されなかった。また,本治療に関連する 副作用は見られなかった。 〈結論〉入院8日目に角化型疥癬と診断された患者を看護 したスタッフ全員に,疥癬感染の予防的治療としてイベル メクチンを投与した。本治療後,看護スタッフへの感染は 確認されず,特別な副作用も認められなかった。以上よ り,イベルメクチン投与は疥癬患者接触者への予防的治療 として有用である可能性が高い。
著者
村藤 大樹 木村 和弘
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第58回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.178, 2009 (Released:2010-03-19)

アトピー性皮膚炎の治療は,一時期ステロイドバッシン グや民間療法の喧伝などにより混乱をきたしていたが, 2000年に日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎診療ガイ ドラインが作成されてからは徐々に治療の統一がなされ, ステロイド外用剤の適正使用と保湿剤によるスキンケアの 重要性が強調されている。しかし,スキンケアの重要性に 対する認識は個々の医師によって差があり,その方法もま ちまちなのが実状である。 我々は2003年に小児科の専門外来として「アトピー外 来」を開設し,2009年4月現在の患者総数は1,135人であ る。そのうち重症と判断した319人(うち小児193人)を対 象に,ウェットラッピング法を用いて治療を行った。 ウェットラッピング法とは,保湿剤(炎症の強い個所には ステロイド外用剤を併用)を塗布した後に水で濡らした下 着やクッキングペーパーで体を覆い,さらにその上から調 理用ラップで被覆して2~3時間過ごすという手技で,通 常のスキンケアで対応困難な重度の乾燥肌に対し,初期治 療として行うものである。 治療の標準化を図るために,クリニカルパスを用いて4 日間の入院治療を行った。入院中に計6~8回のウェット ラッピングを行い,退院後も含めて計10回行った後通常の 外用療法のみへ移行した。患者は早ければ治療2日目の朝 には皮膚状態の改善を実感し,退院時にはほぼ全例で乾燥 肌の明らかな改善がみられた。短期間に皮膚の状態が劇的 に改善することで退院後の外用療法に対する治療コンプラ イアンスが向上し,ひいては治療期間の短縮とステロイド 外用剤使用総量の減量を達成することが可能となった。 アトピー性皮膚炎治療ガイドラインに準拠した外用療法 にウェットラッピング法を併用することは,重症アトピー 性皮膚炎の高度な乾燥肌に対する初期治療として非常に有 用であると考えられた。
著者
伊藤 光洋 伊藤 良剛 吉川 秋利 大竹 正一郎
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第58回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.249, 2009 (Released:2010-03-19)

〈緒言〉整形外科の手術の際にC アーム型の外科用透視 装置が広く使用されているが,当院では2009年4月に本邦 初となる最新のO-arm を導入した。従来のC アームと同 様に透視が可能であるが,3D 画像を作成する際の収集 角度は,従来のC アームでは190°であるのに対し,O-arm では360°である。この収集角度の差によって,3D 画像 の精度,画質の向上が期待されている。今回はこの最新の 装置を使用した手術におけるスタッフの術中の被曝線量を 測定したので報告する。 〈使用機器〉O-arm : BI―700―00020(メドトロニック 社),半導体式電子ポケット線量計:PDM―112(アロカ株 式会社),プロテクター:MSA―25/鉛当量:0.25mmPb (株式会社マエダ),X 線防護衝立:H―22HKF/鉛当 量:1.0mmPb(クラレトレーディング株式会社) 〈方法〉整形外科の術中にO-arm を使用した3症例で, スタッフの被曝線量を測定した。半導体式電子ポケット線 量計を,整形外科医のプロテクターの内側と外側,放射線 技師のプロテクターの内側と外側,麻酔科医の前に立てた X 線防護衝立の内側と外側に装着して測定した。 〈撮影条件〉3D 撮影:120kV,25~32mA,100~128mAs (初期設定値),透視:62~90kV,5.0~6.6mA(AEC), 撮影中心部位からの距離は整形外科医:1m,放射線技 師:2m,麻酔科医:2m とした。 〈結果〉被曝線量が高かったのは,症例1では整形外科医 のプロテクターの外側で27マイクロシーベルト,症例2で は麻酔科医のX 線防護衝立の外側で26マイクロシーベル ト,症例3では整形外科医のプロテクターの外側で14マイ クロシーベルトであった。 〈考察〉O-arm の使用頻度を月8回として計算すると, 年間の整形外科医の被曝線量は0.027×8×12=約2.6ミリ シーベルトとなる。許容される年間の職業被曝線量である 50ミリシーベルトの5.2%と低い値であった。
著者
阿部 真由子 中島 まゆみ 木村 郁美 中野 はる代
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第58回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.96, 2009 (Released:2010-03-19)

〈はじめに〉年間平均10件の頸部郭清術が行われている。 今回,頸部リンパ節郭清を受けた患者から,退院間近に頸 部から肩,上肢にかけての疼痛と上肢の挙上困難の訴えが 聞かれ,また,家族より退院後の生活についての不安が聞 かれた。このことから,早期からの退院指導が必要である と感じ,頸部リンパ節郭清術後の退院後の患者の精神的・ 身体的・社会的苦痛について調査し明らかにした。 〈研究方法〉頸部リンパ節郭清を受け,現在腫瘍外来に通 院中の20名に対し,半構成質問紙法で調査を行った。 倫理的配慮では研究の主旨説明,プライバシーの保護, データを研究以外に用いないことを書面で説明し,署名で の同意を得た。 〈結果〉予測されていた肩,上肢の疼痛,可動域制限から 手に力が入りにくく,フライパンを握りづらい,運転時な ど後方確認などの振り向き動作が難しかったなどの日常生 活の苦痛が聞かれた。 〈考察〉患者の生活背景や性別により,個別の苦痛などが ある。入院中には気付かなかったことが退院後に明らかに なることがあり,早期から患者のライフスタイルに合わせ た指導,助言が重要である。退院の方向性がみえ医師と相 談した上で試験外泊を行ってもらい,患者・家族が不安を 軽減し退院できる援助が必要である。 〈おわりに〉今回インタビュー調査した事で退院後の患者 の現状を知る事ができた。スタッフ各々が患者の状態を把 握し,個別性を考えた指導が出来ることが重要である。そ のためにはアンケート結果を基にしたパンフレットを検討 していく必要がある。
著者
若林 剛
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第58回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.13, 2009 (Released:2010-03-19)

地域医療崩壊という言葉がマスメディアに頻繁に取り上 げられるようになったのは,2006年頃からであろうか。 私は2005年の秋に慶應義塾大学外科の講師から岩手 医科大学外科の教授になるために,岩手県盛岡市に赴任した。 岩手県は人口10万人あたりの医師数が179.1人で全国 8番目の少なさであるが,1平方キロあたりの医師数は北海道に 次ぎ全国で2番目の少なさである。赴任後に最初に気づいた ことは盛岡市内の開業医の多さであり,街を歩くと1ブ ロック毎に何らかの科の開業医を見つける。次に県内の関 連病院を視察し知ったことは,盛岡市内から車で平均2時 間位かかる人口過疎地に地域中核病院が点在しており,麻 酔常勤医がいない病院や外科常勤医が3人未満の病院が存 在することであった。2004年に導入された初期臨床研修制 度の負の効果として,若い医師の偏在が挙げられる。つま り,地方から都会へ,大学病院から市中病院へ,つらい診 療科から楽な診療科へと若い医師が流れた。幸い岩手医科 大学外科にはこの4年間で31名の若い医師が加わったが, 若い医師に魅力を提示できない多くの地方大学の診療科で は教室員は減少している。以下に私見を述べる。過疎地に は雇用が無いから人口が減り,医師が子息を学ばせたい進 学校がなく,過疎地中核病院勤務への心理的抵抗が生ず る。若い医師の偏在により,地方大学のつらい診療科は過 疎地の病院から大学へ医師を引き上げざるを得なく,忙し くなった地域中核病院勤務医はいわゆる「立ち去り型サボ タージュ」により開業を選択する。この負の連鎖を断ち切 るためには,早急に3つを提言する。1)初期臨床研修医 募集数と医学部卒業生の数を同程度にし,都道府県人口あ たり必要な初期研修医数を決め,初期臨床研修マッチング に過度な競争と地域偏在をなくす,2)医師は公共性が高 い職業であり,ある程度は行政が介入し開業への制限と各 診療科医師数の調整を行う,3)医療費抑制政策の撤回に より,地域医療崩壊の現場にインセンティブを与える診療 報酬を設定する。本質的には,地域医療の崩壊は地域社会 の崩壊と同義である。地域社会に産業の活性化と雇用の確 保を行えば,大都市への人口集中は防げるので地域社会の 教育や医療も充実できるはずである。