著者
橋本 健一
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-8, 2002-03-25
被引用文献数
3

1. モンシロチョウPieris rapae crucivora Boisduvalの沖縄県石垣島個体群(24°20′N)における蛹休眠誘起の光周反応, 幼虫期および蛹期の発育速度と発育零点, 休眠蛹の蛹期間について調べた.2. 15℃での臨界日長は約11時間10分であると推定された.しかし, 20℃では, 明期8時間・暗期16時間(以下, LD8 : 16), LD10 : 14でも, 休眠率は前者で, 21%, 後者で, 20%であり, LD12 : 12, LD14 : 10では休眠蛹は生じなかった.25℃では, LD8 : 16∿LD14 : 10の範囲では非休眠蛹のみを生じた.3. 幼虫期および蛹期の発育速度(V)と温度(T℃)との関係は, 幼虫期がV=0.0053T-0.0453(r=0.99), 蛹期がV=0.0088T-0.0747(r=0.99)の回帰直線式で示され, 幼虫期および蛹期の発育零点はともに8.5℃であった.4. 20℃・LD10 : 14で得られた休眠蛹の蛹期間は, 20℃・全暗で57.9±11.4日(平均値±標準偏差)であった.20℃・LD8 : 16で得られた休眠蛹の中には蛹期間が100日以上の個体もあったので, 休眠の深さの個体変異は大きいと思われた.5. 石垣島個体群の休眠の誘起は, 20℃で抑制される傾向にあり, 25℃では完全に抑制された.また, 休眠蛹の蛹期間は東京個体群と比べて短かった.このような特性は, 最寒月でも発育零点以上の温量が得られる同地の気候条件への適応と考えられる.
著者
村田 浩平
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.105-113, 2009-09-25

水田内におけるヒメイトアメンボH.proceraの発生消長,捕食行動および餌動物の種構成に関する調査を実施し,以下のような結果を得た.1.野外における本種の捕食行動は,餌動物に近づき,口吻を伸ばして構えた後,餌動物の胸部側面に口吻を刺し体液を摂取するなど,室内においてこれまで観察されている捕食行動と同様であった.2.本調査により確認された餌動物は,セジロウンカ,ツマグロヨコバイ,ユスリカ科の1種,トビムシ目の1種など水田面にいる3目5科6種の昆虫と1科のクモであった.3.本種の水田内個体数が最も多くなる9月中旬の個体数のピークは,トビイロウンカの個体数のピークとよく一致し,トビムシ目やツマグロヨコバイの発生消長とも一致する傾向がみられた.また,6月の越冬後のピークはセジロウンカのピークと一致することがあり,これらの水田昆虫が水田面において本種の餌動物になっていることが示唆された.4.本種の卵巣は,田植直後の5月下旬には未熟であり,6月下旬までに成熟し,7月中旬まで成熟個体の割合が高いこと,その後は,10月にかけて卵巣発育個体の割合は低下し,卵巣の発育を休止して越冬する可能性が高いことが示唆された.5.本種の発育零点は14.0℃,発育有効積算温量は250日度であった.これらの結果から,本種は,水田面において多様な餌動物を捕食し,ウンカ・ヨコバイ類など水稲害虫を餌の1つとしていることが明らかになった.また,トビイロウンカやツマグロヨコバイが少なくなった9月以降,越冬までの間は,トビムシ目を餌の1つとしていることが示唆された.