著者
村田 浩平 松浦 朝奈 岩田 眞木郎
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-10, 2007-03-25

ヒメイトアメンボは,水田に生息する水生カメムシの1種である.本研究では,本種の飼育条件下における捕食行動を明らかにするとともに,餌昆虫の1つであるセジロウンカに対する天敵としての能力を評価すること,長日条件下(16時間明期,8時間暗期)において,23℃,25℃,30℃,35℃の異なる飼育温度における本種の繁殖能力を評価した.餌昆虫の密度に対する本種の機能の反応は,セジロウンカ,キイロショウジョウバエいずれを供試した場合も飽和型を示し,セジロウンカに対する日あたり攻撃量の最大値は1.65個体,キイロショウジョウバエに対しては1.48個体であった.捕食率(捕食数餌/密度)は,両餌昆虫とも捕食数の増加とともに減少した.セジロウンカを供試した場合の寄主発見能力,攻撃摂食時間,攻撃摂食時間から予想される日あたり攻撃量の限界値は,キイロショウジョウバエを供試した場合に比べて高かった.本種の産卵行動は,水面上や容器壁面,キムワイプ上に1卵ずつ行われた.本種の産卵前期間は,およそ1〜2日であった.産卵期間は,23℃区で10.5日,25℃区で20.8日,30℃区で19.5日,35℃区で7.5日となり,25℃区と30℃区における産卵期間は23℃区と35℃区のそれらとの間に有意差は認められなかったものの,後者では産卵期間が短くなる傾向が示された.1メスあたりの平均総産卵数は,23℃区で100.8卵,25℃区で186.2卵,30℃区で223.2卵,35℃区で55.4卵となり,23℃区および35℃区における1メスあたりの平均総産卵数は25℃区,30℃区に比べて少ない傾向を示した.卵から成虫までの生存率は,25℃区で最も高く,次いで23℃区,30℃区の順で35℃区は,全卵が孵化しないか孵化失敗により死亡した.本種の卵期間は,23℃区で8.7日,25℃区で7.4日,30℃区で5.9日であり,飼育温度が高くなるにつれて有意に減少した.幼虫期は,通常5齢までであったが,25℃区,30℃区において各1個体,計2個体のみ幼虫期が6齢の個体が見られた.1齢から終齢までの幼虫期間は,23℃区で15.6日,25℃区で13.1日,35℃区で10.9日であり,温度が高くなるにつれて有意に減少した.
著者
山口 卓宏 小西 和彦 水谷 信夫 守屋 成一
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.179-184, 2008-12-25
参考文献数
29

茨城県つくば市ならびにつくばみらい市において,2006年と2007年の5月に,レンゲソウまたはカラスノエンドウで採集したアルファルファタコゾウムシ蛹から羽化した寄生性天敵を調査した.その結果,ヒメバチ科のシンクイトガリヒメバチ,マツケムシヒラタヒメバチ,アカハラタコゾウヤドリヒラタヒメバチ,ミイロトガリヒメバチ,Bathythrix kuwanae,タコゾウアカヤドリバチ,Gnotus sp.の7種とコバネコバチ科のTrichomalopsis shirakii,Dibrachoides sp.の2種,ならびにヤドリバエ科のBessa parallela 1種が認められた.このうち,ミイロトガリヒメバチとT.shirakiiの2種は,アルファルファタコゾウムシに対する寄生は初記録であった.寄生性天敵の寄生率は2006年が2.8%,2007年が4.3%であった.シンクイトガリヒメバチとマツケムシヒラタヒメバチの2種が優占種であった.
著者
小島 弘昭 森田 正彦 小檜山 賢二
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.39-42, 2013-01-05

An image database of the Japanese weevils (excluding Scolytidae and Platypodidae), which was awarded the Akitu Prize 2008 by the Entomological Society of Japan, is introduced. The database site consists of the following eight pages: 1) home about the database; 2) comments on weevils; 3) image search; 4) text search; 5) collecting records plotted on Google Maps; 6) checklist; 7) images in nature, and 8) photo collage. The pages 3 to 8 are linked by a relationship with the keyword of the species name. Species information includes scientific and Japanese names, systematic position (family, subfamily, tribe and subtribe), distribution, host or collected plants, body length, synonym, notes, original description, collecting records and images including type specimens.
著者
鈴木 誠治
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.120-124, 2011-04-05

モンシデムシ属は小型脊椎動物の死体を幼虫の餌として育児を行うことで知られている.雌雄双方が育児に参加し,幼虫に口移しで給餌したり,外敵から幼虫を防衛したりする.本稿はモンシデムシ属のオスによる育児参加に関する最近の研究をその適応的意義と給餌量調節という二つの観点からレビューし,現在残されている問題点を議論した.
著者
渡部 美佳 干場 英弘 落合 弘典 岡島 秀治
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.31-38, 2013-01-05

ハイイロマルハナバチとホンシュウハイイロマルハナバチの室内飼育を行った.成虫の頭幅は,自然巣および飼育巣のいずれも働き蜂・オス蜂ともに0.30-0.39cmの間に集中した.繭数は自然巣においても飼育巣でも巣ごとにばらつきがみられたが,大きさについてはいずれも0.70-0.89cm間に頻度が高かった.これらの結果から,飼育における体サイズの縮小化はほとんど見られなかったと考えられた.飼育下における特徴としては,第一巣室とその後の巣室で産卵・育児習性に大きな違いが見られないこと,営巣期間が他種マルハナバチと比較すると短いことが挙げられた.また,ホンシュウハイイロマルハナバチでは働き蜂数が少なくても生殖虫の生産が可能であることが明らかとなった.
著者
籠 洋 横川 昌史 藤澤 貴弘 野間 直彦
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.87-96, 2013-04-05

全国各地で放棄竹林が問題になっており,地域の生物多様性の保全の観点から適切な竹林の管理方法が必要とされている.放棄竹林でのタケの伐採が地表性甲虫群集(コウチュウ目オサムシ科)に与える影響を評価するため,タケの密度を4段階に変えた実験区を設定し,無餌ピットフォールトラップを用いて地表性甲虫群集の調査を行った.落葉広葉樹とマダケが混交する滋賀県彦根市の犬上川河辺林において,タケ全稈伐採区(0本/m^2)・強間伐区(0.5本/m^2)・弱間伐区(0.7本/m^2)・放置区(1.8本/m^2)を設定し,2010年7月から12月の間で週に一度トラップの回収を行った.調査の結果,全稈伐採区で25種676個体,強間伐区で18種703個体,弱間伐区で15種829個体,放置区で12種531個体の地表性甲虫が捕獲された.統計解析の結果,地表性甲虫類の種数・多様度指数・下層植生の体積は全稈伐採区で最も高かった.2つの間伐区の地表性甲虫類の種数は放置区よりも高かった.除歪対応分析によって,地表性甲虫群集の序列化を行ったところ全稈伐採区の種組成は,他の3つの処理区と異なることが明らかになった.全稈伐採区を特徴づける種群はゴモクムシ亜科数種,コガシラアオゴミムシやアトボシアオゴミムシなどであった.ゴモクムシ亜科数種,コガシラアオゴミムシは草地性種であり,これらの草地性種が全稈伐採区に侵入した結果,全稈伐採区で種数や多様度指数が増加し,種組成が変化したと考えられた.間伐強度が異なる4つの処理区について1反復で調査を行ったため,処理の効果を明言することは難しいかもしれないが,本研究の結果は,落葉広葉樹林に侵入したタケの全稈伐採や間伐を行うことで,多様な地表性甲虫群集を維持できる可能性を示している.
著者
中野 貴瑛 瀧本 岳
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-20, 2011-01-05

ヒロヘリアオイラガParasa lepidは庭木や街路樹にしばしば大量に発生する外来生物で,幼虫が毒棘を有することからも日本の侵略的外来種ワースト100に記載されている.ヨコヅナサシガメAgriosphodrus dohrniも外来生物であり,ヒロヘリアオイラガを捕食することが知られている.しかし,両者の関係は詳しく調べられていない.本研究では,ヨコヅナサシガメの存在がヒロヘリアオイラガの営繭数に与える影響を明らかにすることを目的とした.2009年の8月と10月に,千葉県内の4ヶ所の桜並木において,計355本のサクラを対象に,ヒロヘリアオイラガの当期繭数,ヒロヘリアオイラガの世代,ヨコヅナサシガメの有無を記録した.ヒロヘリアオイラガの当期繭数を応答変数として一般化線形混合モデルの当てはめを行った.赤池情報量基準に基づくモデル選択の結果,ヒロヘリアオイラガの世代とヨコヅナサシガメの有無,およびそれらの交互作用項を説明変数に含むモデルが,最適なモデルとして選ばれた.この結果から,ヨコヅナサシガメが木にいることは,その木のヒロヘリアオイラガの当期繭数を減らす効果があり,その効果は第2世代で特に強いことが分かった.ヒロヘリアオイラガの個体群動態に関する先行研究からは,第2世代成虫期から翌年第1世代繭期への個体群増加率が,成虫密度の増加に伴って上昇することが示唆されている.このことから,ヨコヅナサシガメの捕食によってヒロヘリアオイラガの第2世代の繭数が減少することは,翌年第1世代の発生量を抑制している可能性があると推測できる.また本研究が明らかにしたヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメの外来生物間相互作用は,これらの外来生物対策には群集生態学的な視点が重要であることを示唆している.
著者
初宿 成彦
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.205-211, 2012-10-05

気象台が記録している初鳴日と日平均気温に基づき,大阪市内の36年間(1976〜2011年)のクマゼミ成虫発生量の年変動を推定した.クマゼミは1980年代初めに増加し,現在まで多い状態が続いている.発生量には明瞭な周期性は見られなかった.
著者
奥島 雄一 岩田 泰幸
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.264-274, 2012-10-05

筆者らは,害虫防除業者によって駆除されたスズメバチの巣を用いて,自然史博物館の普及イベントの中でハチの巣の解体ショーを実施した.博物館と防除業者が連帯することによって,イベントを円滑に実施することができた.双方の連帯によって,博物館としては,一般市民の興味の高い素材の入手経路を確保できる点,防除業者としては廃棄物の有効的な利用法と啓蒙活動への参画となる点でメリットがある.イベントの実施は,大型の巣が入手しやすくなる9月以降に企画するのが理想的であり,計画的に確保しておく必要がある.また,自然史博物館におけるスズメバチ駆除虫のその他の活用事例も紹介した.
著者
塩川 太郎 岩橋 統
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.157-165, 2000-12-25
被引用文献数
2

オキナワノコギリクワガタの雄は, 体サイズ及び大アゴの形態により, 大型(L), 中型(S2), 小型(S1)の3つの型に分けられる.雄間闘争で不利であると考えられる最も小形の雄(S1型)が, 野外で多数発見されることから, これらの雄は大形の雄(L型)とは異なる方法で交尾成功を得ていると考えられた.そこで野外における雌と各型の雄の時刻別の出現頻度と交尾率を調べた.その結果, L型の交尾率は, 雌の出現数が最大となった22∿23時にピークとなる一山型を示したのに対し, S1型の交尾率は, 日没後の20∿21時と明け方の4-5時にピークを持つ二山型となった.また, 中形の雄(S2型)は, L型と同じ時刻にピークを持つ一山型の交尾率を示した.観察された交尾数は, L型とS1型がともに同じ(70)であった.しかし, 1日の交尾率で比較すると, L型は46.1%であるのに対して, S1型は18.6%とL型の2分の1以下となった.以上のことより, S1型は, L型及びS2型とは異なる時刻に交尾成功を得ていることが分かったが, 1日当りの交尾成功が低いことから, シーズンを通した交尾成功の調査が必要と考えられる.
著者
日和 佳政 吉川 貴浩 井出 幸介 草桶 秀夫
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.11-20, 2004-03-25

ヘイケボタルのmtND5遺伝子をコードする塩基配列を用い,地域個体間の遺伝的類縁関係を調べた.その結果,83地域から得られた239個体について917bpの塩基配列を調べたところ,129のハプロタイプが検出された.次に,塩基配列に基づき分子系統樹を作成したところ,これらのハプロタイプは北海道・東北・甲信越・関東の広い東日本地域,東北地域,フォッサマグナ地帯の甲信越地域,西四国地域,東四国地域,および,北陸・近畿・中国・九州の広い西日本地域の6つの地域集団に分けられることが明らかとなった.これらの6地域の遺伝的集団のうち4つの地域集団は地理的に異なった地域に分布した.このように,日本のヘイケボタルは地域集団間で遺伝的変異をもつことが判明した.
著者
片山 栄助
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-10, 2004-03-25
参考文献数
23

クズハキリバチの営巣場所と巣の構造について,2002年8月に栃木県黒磯市で採取した巣で調査した.ハキリバチ類の育房では一般に最内側の葉片数枚が,透明な粘着物で緊密に接着されているが,本種では粘着物による接着は認められなかった.しかし葉片の縁をところどころ大顎でかんで,外側の葉片に密着するよう加工していた.特に育房蓋の最内側葉片では周縁部を丹念に加工して,側壁の葉片に強く密着させていた.育房側壁の卵形葉片では,葉表が育房の外側向きと内側向きに使用された葉片が混在していて,一定の傾向は見られなかった.しかし育房蓋の円形葉片では,葉表を内側向きに使用した葉片が明らかに多かった.育房蓋の葉片数は完成巣の最終育房を除くと2〜4(平均3.4)枚で,育房の配列順序に従って増加または減少するという傾向は見られなかった.これに対して完成巣の最終育房では10〜18(平均14.0)枚で,極端に多かった.育房当たり総葉片数は平均49.5枚で,本種の従来の記録に比べてきわめて多かった.本種の営巣場所である樹木の空洞などは,営巣空間の大きさが個々に大きく変異するので,営巣空間を充てんするのに必要な葉片数は事例ごとに変動する.老熟幼虫または繭を含んでいる育房では,蓋の最内側葉片に無数の微小孔が見られた.また,ときどき育房側壁の最内側葉片の上端部付近にも,同様の微小孔が見られた.これらの微小孔は老熟幼虫が大顎で葉片表面をかじることによって作られたと考えられるが,この行動の意味については不明である.
著者
岩崎 拓
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.65-70, 2000-06-25
参考文献数
5
被引用文献数
1

1990年から1998年にかけて大阪府南部と和歌山県北部の数カ所の草地で, オオカマキリTenodera aridifoliaとチョウセンカマキリT. angustipennisの越冬卵嚢を採集し, オナガアシブトコバチPodagrion nipponicumの越冬世代成虫の羽化を毎日記録した.羽化がみられたのはオオカマキリの卵嚢のみからで, その期間は4月上旬から5月上旬にかけてであった.このコバチの羽化は, ほとんどの卵嚢において, オオカマキリのふ化よりも早かった.1卵嚢あたりの羽化数は1から55で, 平均は11.5個体であった.総個体数の比(オス : メス)は, 74 : 272であった.越冬世代成虫を準自然条件下で飼育した結果, すべての個体が7月中旬までに死亡し, カマキリの卵嚢が産まれる秋まで生存した個体はいなかった.
著者
澤田 義弘 広渡 俊哉 石井 実
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.161-178, 1999-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
2

1. 1992年12月から1994年1月にかけて大阪府北部の里山的環境を残す三草山のヒノキ植林, クヌギ林およびナラガシワ林において, 土壌性甲虫類の群集構造および多様性を明らかにするために, 3地点の土壌から土壌性甲虫類をツルグレン装置で抽出し, 種の同定を行った後, 科数・種数・個体数を集計し, 種多様度(1-λ)および地点間の類似度・重複度を算出することにより群集構造を比較した.2. その結果, 今回の調査で三草山の3地点から, 合計24科104種1431個体の土壌性甲虫類が捕獲された.優占5科はハネカクシ科, ムクゲキノコムシ科, ゾウムシ科, タマキノコムシ科, コケムシ科, 優占5種はムナビロムクゲキノコムシ, イコマケシツチゾウムシ, オチバヒメタマキノコムシ, ナガコゲチャムクゲキノコムシ, スジツヤチビハネカクシの1種であった.三草山全体としての土壌性甲虫類の群集構造は種数, 個体数, 種多様度ともに四季を通じて安定していた.3. ナラガシワ林(地点3)では20科82種755個体が捕獲され, 種多様度(0.93), 平均密度(20.9個体/m^2)ともにもっとも高く, ナガオチバアリヅカムシ, ハナダカアリヅカムシなど41種がこの地点だけで確認された.ナラガシワ林における土壌性甲虫類の密度は1年を通じて高いレベルを維持し, 大きな変化はなく安定していた.4. クヌギ林(地点2)では17科47種512個体が捕獲され, 種多様度(0.91), 平均密度(14.2個体/m^2)ともに高かったが, この地点でのみ確認された種はアカホソアリモドキ, アナムネカクホソカタムシなど11種で, 固有性は地点3より低かった.この地点における種数, 密度は夏季にやや減少する傾向が見られたものの, 種多様度は地点3と同様, 安定していた.5. ヒノキ植林(地点1)では7科34種164個が体捕獲され, 種多様度(0.87), 平均密度(4.6個体/m^2)ともにもっとも低く, この地点でのみ確認された種はホソガタナガハネカクシ, チビツチゾウムシ類の1種など9種であった.地点1では, 種数, 密度, 種多様度が夏季に増加したが, これはハネカクシ科のスジツヤチビハネカクシの1種の増加によるものであった.6. 各地点間の類似度(QS)ならびに重複度(Cπ)は0.2∿0.5と低く, 各地点の土壌性甲虫類の群集構造はかなり異なっていることを示した.しかし, 地点2と3の間ではQS, Cπともにやや高い値(約0.5)を示したことから, 優占樹種が異なっても落葉広葉樹の優占する地点では土壌性甲虫類の群集構造は比較的似ていると考えられた.7. 以上の結果から, 三草山の里山林では, とくに落葉広葉樹の優占する地点における土壌性甲虫類の群集構造が多様性に富み, 四季を通じて安定していることが示された.また, 環境の異なる各地点に特有の群集が成立していたことから, 将来, 土壌性甲虫類は有用な環境指標として利用できると考えられる.
著者
小山 達雄 井上 大成
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.143-153, 2004-12-25
参考文献数
30
被引用文献数
6

従来,近畿地方以西に分布していたムラサキツバメは,近年,関東地方のほぼ全域で発生している.現段階での本種の定着北限に近いと考えられる関東地方北部において,2002〜2003年に野外における発生経過と幼生期の捕食寄生者および随伴するアリ類について調査した.1.野外における成虫・卵・幼虫の個体数調査の結果から,茨城県つくば市では,本種は部分4化であることが示唆された.第二〜第四世代の卵数のピークは,それぞれ6月下旬〜7月上旬,8月下旬,9月中旬であった.また第一世代に相当すると思われる卵が4月上旬に発見された.2.これまで,本種は4齢幼虫が終齢であるとされていたが,飼育観察と野外で採集された幼虫の頭幅の測定結果から,蛹化するまでに5齢を経過することが明らかとなった.3.幼虫あるいは蛹化後の蛹には,7種のアリ類が随伴していた.4,本種の卵期における捕食寄生者はこれまでに報告されていなかったが,本研究によって少ないながら卵が寄生されていることが明らかになった.また,幼虫期の寄生は確認できず,蛹期の寄生も数例のみに限られた.
著者
守屋 成一 初宿 成彦
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.99-102, 2001-09-25
被引用文献数
2

The ragweed beetle, Ophraella communa LeSage, was found in Chiba Pref. in August 1996 for the fist time in Japan. The beetle severely damaged the ragweed, Ambrosia artemisiifolia L. and expanded its distribution rapidly. The insect has been found in 35 of 47 Prefectures till the end of 2000.
著者
窪木 幹夫
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.97-110, 1999-09-25
参考文献数
21

日本列島の気候の特徴の一つである太平洋側の気候と日本海側の気候の境界に位置する尾瀬・奥鬼怒地域でPidonia相とその垂直分布, 訪花植物, 幼虫の生活を調べた.1974年から行ってきた全国各地でのPidoniaの生態調査とウルム氷期最盛期以降の植生変遷に関する研究を参考に, この地域でのPidonia相の形成について考えた.1. 1993年7月27日から31日の調査で, 合計24種のPidoniaを確認した.2. 落葉広葉樹林のPidoniaは, その分布域が太平洋側または日本海側のどちらかの地域に片寄る種が尾瀬・奥鬼怒地域でみつかった.P. obscurior, P. insuturata, P. semiobscura, P. limbaticollis, P. oyamaeは太平洋側地域を, P. hakusana, P. hayashii, P. miwai, P. takechiiは日本海側地域を中心に分布していた.3. P. insuturataとP. hayashii, P. obscuriorとP. hakusanaのように, 系統的に近縁な種間に対応的分布関係が調査地域内でみつかった.4. 尾瀬地域のPidoniaはミズキやオガラバナのような木本類を, 奥鬼怒地域のPidoniaはオニシモツケ, シラネセンキュウのような草本類を主要な訪花植物とする傾向があった.5. 1989年7月30日, 燧ヶ岳の亜高山帯の枯れたオオシラビソの樹皮内から摂食中のP. bouvieriの幼虫が見つかった.6. 1995年7月25日, 鳩待峠付近のダケカンバの生木の樹皮内から, P. chairoの蛹室が見つかった.それらの高さは, 11例中8例が地上1m以内, 3例が1∿2.8mであった.7. 日本海側地域では冬の積雪が樹皮内で生活するPidonia幼虫を乾燥から守っている.8. 尾瀬・奥鬼怒地域のPidonia相は後氷期の森林の移動に伴って, 太平洋側と日本海側からこの地域に分布を拡大したPidoniaによって形成された.
著者
村田 浩平 野原 啓吾 阿部 正喜
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.21-33, 1998-06-25
被引用文献数
6

阿蘇地域におけるオオルリシジミの生息地は, 外輪山内壁と内輪山の標高400∿800mの地域に集中しており, クララの自生している地域に多く生息していることが解った.本種の生息地は, 毎年, 早春に野焼きを実施している草原に限られる.ルートセンサス法による個体数の年次変動の調査の結果, 早春の野焼きを継続している地域では, 本種の個体数が減少することもなく, 逆に早春の野焼きを停止した地域では, 個体数が著しく減少していることが判明した.しかし, 2∿3年のうちに野焼きを再開すると個体数が回復の方向へ推移することがわかった.阿蘇地域の本種が利用する吸蜜植物は, 現在までに8属8種を確認したが, 野焼き停止後数年を経過すると, これらの吸蜜植物ばかりでなく食草であるクララも減少し, ススキ等のイネ科植物の侵入によって生態系が大きく変化していることが観察された.また, 野焼きの停止は, クララの生長を悪化させることがわかった.このことから, 野焼きの停止による生息環境の変化は, 本種の個体数を著しく減少させる大きな要因の1つであると考えられる.早春における野焼きの実施は, 食草であるクララや吸蜜植物を保護し, 本種の生息環境を維持する上で有効な管理法であり, その実施は, 本種が羽化する2∿3カ月前に行う必要がある.また, クララの生育期間中の除草や採草も回避するべき作業であると考えられる.しかしながら, 畜産農家の高齢化や人手不足などから, 野焼きの実施地域は年々減少傾向にあり, 本種の存続には憂慮すべき状態となりつつある.現在, 熊本県, 阿蘇町および白水村によって全国的にも貴重な本種の保護を目的とした条例が制定されており, その内容は, 本種の全ステージの採集を禁止するものであるが, 採集禁止のみによる保護では甚だ不充分で, 野焼きの実施による生息環境の維持管理に意をそそぐ必要があると考えられる.
著者
善養寺 聡彦
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.159-167, 2008-12-25

ナミテントウが晩秋の暖かい日に,明るい色の標的に向かって飛来集合することは,一般によく観察される.しかし,飛来集合する特定の日がどのように決まるかに関しては,これまで明らかにされていなかった.千葉市内の2か所における9年間の観察記録をもとに,この飛来集合を引き起こす環境条件を検討したところ,日長の短縮あるいは低温のわずかな経験では不十分であることがわかった.それよりはむしろ,ある基準温度以下の低温にさらされる経験が累積してはじめて,この行動が引き起こされると推察された.集められたデータを分析した結果,もっとも妥当性がある基準温度は14.0℃で,これ以下の累積低温量が257.8を超え,さらにその後の好気象条件(12時の気温が16.2℃以上,風力4以下,晴天あるいは薄曇り)の日に,ナミテントウの飛来集合が起こると考えられた.