- 著者
-
橋本 健一
澤 友美
- 出版者
- 一般社団法人 日本生物教育学会
- 雑誌
- 生物教育 (ISSN:0287119X)
- 巻号頁・発行日
- vol.61, no.1, pp.10-16, 2019 (Released:2020-04-13)
- 参考文献数
- 19
小学校3学年理科B生命・地球(1)身の回りの生物の単元では,昆虫の体は頭・胸・腹からできていることについて学習する.手軽に得られ,簡単に観察できる材料として,アブラゼミ(Graptopsaltria nigrofuscata)などのセミの抜け殻を教材とした授業実践を行い,その有効性について検討した.授業に先立つ事前アンケートで,「セミの抜け殻を見たことがあるか」に対しては,東京都渋谷区立笹塚小学校(以下笹小)3年生児童120名(男子55名女子65名)の95%,私立津田学園小学校(以下津小)(三重県桑名市)4年生児童45名(男子21名女子24名)の87%,津小1年児童35名(男子17名女子18名)の94%が「ある」と回答した.また,「セミの抜け殻を拾ったり触ったりしたことがあるか」に対しては,笹小3年児童の71%,津小4年児童の67%,津小1年児童の65%が「ある」と回答した.セミの抜け殻は児童にとって身近な存在であり,比較的多くの児童が興味を持つ存在である思われる.2015年9月4日に笹小3年児童26名(男子13名女子13名)を対象に,アブラゼミの抜け殻を用いて,昆虫の体のつくりを調べる授業実践を,連続した2単位時間の授業として行った.抜け殻は児童1人に1個体配布し,先ず,自由に観察・スケッチした後,図中に頭・胸・腹を境目がわかるように示すよう指示した.次いで,頭は触角や眼のあるところ,胸は翅や肢がついているところなどの観察の視点を与えた上で2回目のスケッチを行わせ,再度,図中に頭・胸・腹を境目がわかるよう示すことを指示した.その結果,視点を与えていない1回目のスケッチでは,頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていたと思われる児童は19%であったのに対し,視点を与えた後の2回目のスケッチでは58%に増加した.また,2016年10月12日に,笹小3年児童64名(男子27名女子37名)を対象に,授業時間は1単位時間とし,最初から観察の視点を与えた上でスケッチさせた.その結果,児童の61%が頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていた.この結果から,多くの児童がセミの抜け殻の体のつくり,特に,頭・胸・腹の区別を観察により捉えることができ,特に,予め,観察の視点を与えることにより,効果的な授業展開が可能と思われた.セミの抜け殻は終齢幼虫の脱皮殻であるが,セミ類は不完全変態の昆虫であるため,その体のつくりの成虫との差は完全変態の昆虫ほど大きくはなく,昆虫の体のつくりの基本を確認することができる.都市部でも容易に見つかり,均一な材料を多数,簡単に集められ,長期間の保存にも耐えうるので,昆虫の体のつくりを調べる教材の一つとして有効に活用できるものと考えられる.