著者
橋本 健一 Ken-ichi HASHIMOTO 千葉県立衛生短期大学(生物学) Chiba College of Health Science
雑誌
千葉県立衛生短期大学紀要 = Bulletin of Chiba College of Health Science (ISSN:02885034)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.3-9, 1994

In the velvet swallowtail butterfly, Papilio bianor dehaanii, there is a seasonal morph such as the spring-and summer-forms. When larvae were reared under a short photoperiod (less than LD 8 : 16hr.), all of them entered into pupal diapause and subsequently developed into small adults of the spring-form. On the other hand, under a long one (under room conditions), they all averted diapause and developed into large summer-form adults. The front wing length and size of the pupae were significantly different between diapause and non-diapause groups. It thus appears that a seasonal morph reflected in the size was deter-mined simultaneously by photoperiod during the larval period. When diapausing pupae were kept under various periods of chilling at 4℃, the longer the chilling brought the earlier onset of adult emergence and a narrower range of emergence. A well synchronized emergence from diapausing pupae was brought about by chilling for 140 days. In the Japanese swallowtail butterfly, Papilio xuthus, when larvae were reared under natural conditions in autumn, all of them entered into the pupal diapause. Three groups of diapausing pupae, that had overwintered from late autumn under natural conditions, were transfered to 20℃ conditions on Jan. 14, Mar. 2 and Apr. 4 respectively. In most of the diapausing pupae which had been transfered on Mar. 2 or Apr. 4, adult emergence occured within 20 days after the onset of incubation at 20℃. It thus seems that pupal diapause of them had terminated during their overwintering period.
著者
橋本 健一 Ken-ichi HASHIMOTO 千葉県立衛生短期大学
雑誌
千葉県立衛生短期大学紀要 = Bulletin of Chiba College of Health Science (ISSN:02885034)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.1-7, 2008

ナガサキアゲハPapilio memnon thunbergii SieboldおよびクロアゲハPapilio protenor demetrius Stollの千葉県鴨川市個体群(35°07'N)の20℃での蛹休眠誘起の臨界日長はナガサキアゲハでは約12時間40分,クロアゲハでは14時間以上であり,ナガサキアゲハの臨界日長は同所的に生息するクロアゲハより1時間以上短かった。ナガサキアゲハ鴨川市個体群の臨界日長は既に報告されている鹿児島市,和歌山市,箕面市,清水市および三浦市の各個体群での値(Yoshio and Ishii 1998, 2004)とほぼ同様であるので,本種は休眠性の変化を伴わずに北方へ分布を拡大しているものと思われる。このような分布の拡大は,秋季の気温の上昇により休眠世代の幼虫が蛹化に至るまでの温量が得られるようになったことが要因の1つであると考えられる。
著者
飯島 和子 橋本 健一
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.80-88, 2020 (Released:2020-08-07)
参考文献数
32

高等学校「生物基礎」では「生物の多様性と生態系」の章で植生の遷移について学習する.しかし,実際に同一場所で植生の遷移の過程を観察し続けることは長期間を要することから,教育現場での実践は困難である.著者らは,1987年に千葉県立衛生短期大学(当時,現千葉県立保健医療大学,千葉県千葉市)キャンパス内の一画に裸地化した調査区画(1 m × 2 m,2面)を設け,30年間にわたり全く人手を加えず二次遷移の過程を追跡・調査した.裸地化1年目(1987年)にはスズメガヤ,メヒシバなどの夏型1年生草本が優占した.これらの植物は埋土種子由来と考えられる.2年目にはオオアレチノギク,ヒメムカシヨモギなど冬型1年生草本が優占種となった.これらの植物は風散布型の種子を持つので調査区画外から飛来したものと考えられ,冬は耐陰性の強いロゼット葉で越冬するため,2年目には夏型1年生草本に先駆けて成長するようになったと考えられる.3年目からはチガヤ,ヨシなどの多年生草本が優占種となり,その状態がしばらく続いた.これらの植物は地下茎での越冬が可能なので,春の初期成長が速いため,優占種の状態が継続したと思われる.10年目になると,ヨシ群落の下層部にトウネズミモチ,オオシマザクラなどの木本類の成長が認められ,15年目には,これらの木本類が優占種となった.さらに,20~30年目になると,トウネズミモチ,オオシマザクラがさらに成長して調査区画全体を覆うようになったが,林床部には,暖温帯の海岸地域での極相林の構成種であるタブノキやクスノキなどの陰樹の幼植物が多数出現するようになった.このまま遷移が進行すれば,やがて陰樹への交代が見られ極相を構成する樹種が生育する状態に達するものと思われる.そこで,今回の調査結果を,身近な場所で実際に見られた二次遷移の実例として,「生物基礎」での資料としての活用を提案したい.活用にあたっては,遷移の現象面のみならず,草本段階の遷移の要因として越冬時の生活型の違いが大きく関わっていることなど,生徒に考えさせる素材としても提供できるものと思われる.
著者
橋本 健一
出版者
千葉県立衛生短期大学
雑誌
千葉県立衛生短期大学紀要 (ISSN:02885034)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.21-25, 1987
被引用文献数
1

DANILEVSKY(1961)の総説によれば,アオムシコマユバチApanteles glomeratus L.は,多化性のオオモンシロチョウPieris bΓassicae L.を宿主としたときは比較的低温でしかも短日の条件のときに前始期での休眠に入るが,1イヒ性のエゾシロチョウAporia cratagei L.に寄生した場合は1令期に宿主の休眠幼虫体内で越冬し,春になってエゾシロチョウ幼虫の休眠が終了しない限り,活性化されない。一方,日本ではアオムシコマユバチ(以下ハチと略記)はモンシロチョウP. rapae crucivora BOISDUVAL幼虫(以下アオムシと略記)を主要な宿主としている。著者は,10〜11月に野外で採集したアオムシから脱出・営繭したハチ繭が25℃全暗の条件下で脱出後8〜12日めに羽化してしまうことから,少なくとも東京地方ではアオムシを宿主とするハチは休眠状態に入らずに越冬していると考えられることを報じた(橋本, 1981)。しかし,TAGAWA et. al(1984)が,京都付近のキャベツ圃場より11月および2月に得たハチ繭は前蛹での休眠に入っていることを報じ,さらに,石井他(1987)は本種の休眠要因として,アオムシ体内で寄生時代に経験する低温が重要であることを報告した。そこで,千葉市産の本種個体群を用いて前蛹休眠および休眠誘起条件について実験を行ったところ若干の知見を得たので報告したい。
著者
橋本 健一 澤 友美
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-16, 2019 (Released:2020-04-13)
参考文献数
19

小学校3学年理科B生命・地球(1)身の回りの生物の単元では,昆虫の体は頭・胸・腹からできていることについて学習する.手軽に得られ,簡単に観察できる材料として,アブラゼミ(Graptopsaltria nigrofuscata)などのセミの抜け殻を教材とした授業実践を行い,その有効性について検討した.授業に先立つ事前アンケートで,「セミの抜け殻を見たことがあるか」に対しては,東京都渋谷区立笹塚小学校(以下笹小)3年生児童120名(男子55名女子65名)の95%,私立津田学園小学校(以下津小)(三重県桑名市)4年生児童45名(男子21名女子24名)の87%,津小1年児童35名(男子17名女子18名)の94%が「ある」と回答した.また,「セミの抜け殻を拾ったり触ったりしたことがあるか」に対しては,笹小3年児童の71%,津小4年児童の67%,津小1年児童の65%が「ある」と回答した.セミの抜け殻は児童にとって身近な存在であり,比較的多くの児童が興味を持つ存在である思われる.2015年9月4日に笹小3年児童26名(男子13名女子13名)を対象に,アブラゼミの抜け殻を用いて,昆虫の体のつくりを調べる授業実践を,連続した2単位時間の授業として行った.抜け殻は児童1人に1個体配布し,先ず,自由に観察・スケッチした後,図中に頭・胸・腹を境目がわかるように示すよう指示した.次いで,頭は触角や眼のあるところ,胸は翅や肢がついているところなどの観察の視点を与えた上で2回目のスケッチを行わせ,再度,図中に頭・胸・腹を境目がわかるよう示すことを指示した.その結果,視点を与えていない1回目のスケッチでは,頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていたと思われる児童は19%であったのに対し,視点を与えた後の2回目のスケッチでは58%に増加した.また,2016年10月12日に,笹小3年児童64名(男子27名女子37名)を対象に,授業時間は1単位時間とし,最初から観察の視点を与えた上でスケッチさせた.その結果,児童の61%が頭・胸・腹の区別をほぼ正確に捉えていた.この結果から,多くの児童がセミの抜け殻の体のつくり,特に,頭・胸・腹の区別を観察により捉えることができ,特に,予め,観察の視点を与えることにより,効果的な授業展開が可能と思われた.セミの抜け殻は終齢幼虫の脱皮殻であるが,セミ類は不完全変態の昆虫であるため,その体のつくりの成虫との差は完全変態の昆虫ほど大きくはなく,昆虫の体のつくりの基本を確認することができる.都市部でも容易に見つかり,均一な材料を多数,簡単に集められ,長期間の保存にも耐えうるので,昆虫の体のつくりを調べる教材の一つとして有効に活用できるものと考えられる.
著者
橋本 健一 八谷 和彦
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.229-236, 2006
参考文献数
23
被引用文献数
1

The photoperiodic induction of diapause in a newly established population of Pieris brassicae (L.) in Hokkaido, Japan was investigated. The critical photoperiod for pupal diapause was about 13hr50min at 20℃. In the fields of Sapporo City in Hokkaido, diapausing pupae were obtained late in September. The present results obtained in the laboratory correlated well with the photoperiodic conditions of the diapause incidence observed in the field late in September. A well synchronized emergence from diapausing pupae was induced by chilling at 5℃ or 10℃ for 160 days. The conditions were comparable to the period of cold season in the habitat of this population.
著者
横川 博一 定藤 規弘 田邊 宏樹 橋本 健一 吉田 晴世 原田 康也
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成28年度は,外国語処理における繰り返し接触による気づき・注意機能の発現と自動化に関する理論的・実証的研究として,主として以下の3つの研究課題を設定し,次のようなことが明らかとなった。(1)「相互的同調機能の発現が日本人英語学習者の第二言語産出に及ぼす影響」を研究課題として設定し、日本人英語学習者を対象にプライミング手法を用い、相互的同調機能を支えるメカニズムである統語的プライミング効果について検証した。その結果,英語母語話者を対象とした実験で見られた、プライムを音声提示、ターゲットを音声または文字産出した際の統語的プライミング効果が日本人英語学習者に対しても見られることが明らかになった。(2)「日本人英語学習者の文理解における統語構造および意味構造の構築の検証」を研究課題として設定し、初級および中級熟達度の日本人英語学習者を対象に、目的格関係節文と受動文とを用いて、音声提示および文字提示で心理言語学的実験を行った。その結果、中級熟達度の学習者は、意味役割の再付与はある程度自動化しており、音声と文字とでは同程度に処理ができるが、複雑で複数の統語処理が必要な場合、文理解が困難になることがわかった。一方、初級熟達度の学習者は、意味情報に依存して文を理解し、意味役割の再付与に困難性があり、統語構造の構築が困難であることがわかった。また音声のほうが文字よりも処理が困難であることが判明した。(3)「タスクによる注意機能が第二言語文理解時における言語情報処理に与える影響:自己ペース読み課題による検討」を研究課題として設定し,句構造規則違反では、低熟達度群は統語情報に注意を向けなければ意味主導の処理を行っていることが、また、意味違反では、高熟達度群は意味情報から注意をそらしても意味違反を即座に検出したが、依然として日本人英語学習者は意味主導の処理を行っていることが明らかになった。
著者
橋本 健一
出版者
千葉県立衛生短期大学
雑誌
千葉県立衛生短期大学紀要 (ISSN:02885034)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.25-32, 2007

1.授業の展開にワークシートを活用することにより,学習者は授業の流れを把握でき,教師は学習者の反応を考えながら設問を設定するため,効果的な授業の展開が期待できると思われる。2.ワークシートを「授業中の設問や学習者の作業を特定の流れに沿って配置し,学習者がそれらに対し,シート上に記入していきながら,ある理解に到達することを目的とした教材」と定義した。すなわち,この教材の展開にあたっては,教師の指導を前提とし,学習者の自学自習を目的としたものではない。3.わかりやすく,学習者に興味・関心を持たせるワークシートとして,次のような配列で設問を設定することを提案した。(1)導入または知識の確認の設問(2)ある事象に対し,一般的にどのように認識されているかに関する設問(3)一般的な認識に関し,疑問を生じるような設問または作業(4)生じた疑問に関し,新たな発見があったり,疑問を解決するような設問または作業(5)新たに得られた知識や理解を整理する設問(6)発展的な学習や知識・理解を定着させるような設問
著者
長井 千枝子 籔内 智 橋本 健一 菅井 康祐 横川 博一
出版者
全国英語教育学会
雑誌
ARELE : annual review of English language education in Japan (ISSN:13448560)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.61-70, 2010-03

This study investigated the use of verb subcategorization information during sentence comprehension by Japanese EFL learners, using a self-paced reading task with the embedded anomaly technique. In order to observe when the syntactic structure was determined, filler-gap sentences were constructed as stimuli. Four types of verbs were used: simple transitive verbs, dative verbs, infinitive complement verbs and intransitive preference verbs. The plausibility of the direct object of the embedded verb was also manipulated. The results demonstrate that the high proficiency learners utilize verb subcategorization information of simple transitive verb; however they do not use it automatically as natives. The results also indicate that they cannot utilize that of other types of verbs. The low proficiency learners show the difficulty in processing the sentences with long-distance dependencies.
著者
橋本 健一 飯島 和子 小川 賢一
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.201-206, 2008-11-25 (Released:2009-03-18)
参考文献数
23
被引用文献数
1

The photoperiodic response curve for pupal diapause induction of the white cabbage butterfly, Pieris rapae crucivora Boisduval was determined in several populations of the Japan Archipelago. Larvae were reared under different photoperiods ranging from 8L16D to 16L8D at 20±0.5°C. The critical photoperiods for pupal diapause induction were 14 h 40 min for the Iwamizawa population (43°10′N), 13 h 15 min for the Sendai population (38°15′N), 13 h 10 min for the Nagaoka population (37°23′N), 12 h 08 min for the Okayama population (34°39′N), 11 h 50 min for the Matsuyama (33°50′N) and Kagoshima (31°35′N) populations and 11 h 15 min for the Naze population (28°23′N). The critical photoperiod increases as latitude increases. This result suggests that adaptation to a cool climate in a higher latitude region shifts the critical photoperiod for pupal diapause induction towards a longer range. The developmental zero for the larval stage in the Sapporo (43°03′N) and Matsuyama populations was calculated as 9.8°C and 9.6°C for the larval stage, respectively. These results are discussed in relation to seasonal adaptation for each population.
著者
橋本 健一
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-8, 2002-03-25
被引用文献数
3

1. モンシロチョウPieris rapae crucivora Boisduvalの沖縄県石垣島個体群(24°20′N)における蛹休眠誘起の光周反応, 幼虫期および蛹期の発育速度と発育零点, 休眠蛹の蛹期間について調べた.2. 15℃での臨界日長は約11時間10分であると推定された.しかし, 20℃では, 明期8時間・暗期16時間(以下, LD8 : 16), LD10 : 14でも, 休眠率は前者で, 21%, 後者で, 20%であり, LD12 : 12, LD14 : 10では休眠蛹は生じなかった.25℃では, LD8 : 16∿LD14 : 10の範囲では非休眠蛹のみを生じた.3. 幼虫期および蛹期の発育速度(V)と温度(T℃)との関係は, 幼虫期がV=0.0053T-0.0453(r=0.99), 蛹期がV=0.0088T-0.0747(r=0.99)の回帰直線式で示され, 幼虫期および蛹期の発育零点はともに8.5℃であった.4. 20℃・LD10 : 14で得られた休眠蛹の蛹期間は, 20℃・全暗で57.9±11.4日(平均値±標準偏差)であった.20℃・LD8 : 16で得られた休眠蛹の中には蛹期間が100日以上の個体もあったので, 休眠の深さの個体変異は大きいと思われた.5. 石垣島個体群の休眠の誘起は, 20℃で抑制される傾向にあり, 25℃では完全に抑制された.また, 休眠蛹の蛹期間は東京個体群と比べて短かった.このような特性は, 最寒月でも発育零点以上の温量が得られる同地の気候条件への適応と考えられる.