著者
高橋 信博 Nobuhiro Takahashi
雑誌
東北大学歯学雑誌 = Tohoku University dental journal (ISSN:02873915)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.18-32, 2002-06-01

歯科の二大細菌性疾患, う蝕と歯周病の発症と進行に関わる最大の病原因子は歯垢である。とりわけ, う蝕原性細菌としてのミュータンス・レンサ球菌, 歯周病原性細菌としてのPorphyromonas gingivalisについては多くの研究がなされてきた。しかし, 歯垢中のこれらの病原性細菌の割合は高くはなく, むしろ, 病状の進行とともに歯垢内環境が変化し, その結果として徐々に病原1生細菌が増加することを示唆している。筆者らは, 歯垢を歯垢細菌と歯垢環境が相互に影響し合う関係の総体(歯垢生態系dental pIaque ecosystem)として捉え, 歯垢生態系を構成する細菌の生態, とくにその代謝活性とそれに伴う病原性の発現について生化学的に検討してきた。その結果, 歯肉縁上歯垢生態系では糖の供給と糖代謝に伴う歯垢環境の嫌気的酸性化が, 歯肉縁下歯垢生態系では歯肉溝浸出液からのタンパク質・ペプチド・アミノ酸の供給とその代謝に伴う歯垢環境の嫌気的中性化が, それぞれの歯垢生態系を特徴づける因子であると考えられた。さらにこれら生態系に生息する細菌の代謝活性が, それぞれの歯垢生態系のう蝕病原性と歯周病原性の発現に直接関係していることが明らかになった。我々は無菌動物にはなれず「如何にパラサイトと共存してゆくか」が重要である。口腔からはじまる消化管細菌生態系をコントロールするためには, その環境と細菌叢を構成する個々の細菌の生態, すなわち生態系の理解が不可欠である。
著者
菅原 準二 木村 和男 曽矢 猛美 三谷 英夫 川村 仁 茂木 克俊 junji Sugawara Kazuo Kimura Takemi Soya Hideo Mitani Hiroshi Kawamura Katsutoshi Motegi
出版者
東北大学歯学会
雑誌
東北大学歯学雑誌 = Tohoku University dental journal (ISSN:02873915)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.7-22, 1990-07-10
被引用文献数
5

上顎骨にまで変形が及び咬合平面の左右傾斜をきたしている重度の顔面非対称症に対しては, Le Fort I型骨切り術と下顎枝骨切り術を併用した上下顎同時移動術(Two-Jaw Surgery)が有効かつ確実な治療法である。本稿においては, 我々が日常的に行っている顔面非対称症の臨床的評価方法と, Two-Jaw Surgeryの適応症について述べるとともに, 具体例としてTwo-Jaw Surgeryを適用した3治験例についてそれらの診断および治療内容を報告する。第1症例は, 15歳11ヵ月の女子で, 咬合平面の左下がり傾斜と軽度のClassIII顎関係を有する顔面非対称症例である。第2症例は, 23歳3ヵ月の女性で, 咬合平面の右上がり傾斜と軽度のClassIII顎関係を有する顔面非対称症例である。第3症例は, 16歳6ヵ月の女子で, 咬合平面の左上がり傾斜と過大な下顎骨によるClassIII顎関係を有する顔面非対称症例である。顔面非対称の臨床的評価方法においては, 1)顔面正中線の設定, 2)歯列正中線の偏位, 3)根尖歯槽部正中線の偏位, 4)オトガイ正中線の偏位, 5)上顎咬合平面の左右傾斜度, 6)Smiling Lineにおける歯冠露出度などが重要な検討項目である。我々は, このような評価結果に基づいて, Two-Jaw Surgeryの適応症を3つのカテゴリーに大別しているが, 今回報告する3症例は, いずれも上顎咬合平面の左右傾斜が著しく, 矯正治療単独による修正が極めて困難な部類に属する患者である。
著者
中村 雅典 Masanori Nakamura
出版者
東北大学歯学会
雑誌
東北大学歯学雑誌 = Tohoku University dental journal (ISSN:02873915)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.9-17, 2002-06-01

破骨細胞が骨破壊の主たる細胞であることはいうまでもないことであるが, 他の細胞による骨破壊が完全に否定されているわけではない。ビスフォスフォネート(BP)は破骨細胞による骨吸収・破壊を特異的に抑制する薬剤である。そこで, 我々はBPを投与したコラーゲン誘導関節炎(CIA)マウス, 並びに重症慢性リウマチ性関節炎(RA)患者の骨破壊機構についてFlow Cytometryと形態学的に解析を行った。CIAマウスでは, BP投与・非投与に関わらず著しい骨破壊が認められた。非投与群における骨破壊部位には活性化した破骨細胞はなく, 多くの好中球が集積し, 一部はruptureし, この部位の骨基質からコラーゲン線維が消失していた。RA患者腸骨骨髄では, 著しい顆粒球造血, 特に未熟好中球の増加が認められた。この未熟好中球は骨梁表面に集積しており, CIA同様に一部はruptureし, 骨基質からコラーゲン線維が消失していた。以上の結果から, 関節炎の骨破壊時には好中球造血の異常な亢進が起こり, この好中球による骨破壊が強く示唆される。近年, また, 関節炎だけでなく, 歯周疾患のような骨破壊を主体とする他の疾患(歯周疾患など)においても同様な造血異常が報告されてきており, 造血という全身に立脚した骨破壊性疾患の解析が期待される。Osteoclasts are the main cells responsible for bone destruction and resorption However, whether cells other than osteoclasts destruct bone remains controversial.Bisphosphonates(BPs)are specific inhibitors of bone resorption by osteoclasts.We examined the effects of BPs on bone destruction in mice with collagen-induoed arthritis(CIA).Severe bone destruction was confirmed in BP-treated CIA mice, indicating bone destruction by cells other than osteoclasts.Histological and flow cytometrical studies showed Increased granulopoiesis and bone destruction by neutrophils.Similar results were obtained in studies of patients with severe rheumatoid arthritis. In this paper, we describe the process of and data derived from our experimental strategy and review possible mechanisms of bone destruction by neutrophils.
著者
木村 和男 菅原 準二 三谷 英夫 Kazuo Kimura Junji Sugawara Hideo Mitani 東北大学歯学部 東北大学歯学部 東北大学歯学部 Department of Orthodontics Tohoku University School of Dentistry epartment of Orthodontics Tohoku University School of Dentistry epartment of Orthodontics Tohoku University School of Dentistry
出版者
東北大学歯学会
雑誌
東北大学歯学雑誌 = Tohoku University dental journal (ISSN:02873915)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.51-61, 1989-06-30
被引用文献数
5

頭部X線規格写真は, 時を変えて同一個体を撮影する場合, 頭部固定を全く同一条件に設定することが難しい。とくに正面写真では, 耳桿を中心とした頭部の上下方向の回転によりX線像が著しく変化するという欠点を有する。すなわち, 中心X線軸とフランクフルト平面が一致している場合のX線像と, そうでない場合のX線像とでは, 顎顔面頭蓋を構成する各骨影像の位置および形態が変化し, 読影を困難にしている。正面頭部X線規格写真に関する研究で, 頭部回転に伴うX線像変化について述べた報告は, 本橋ら1)のものをみるのみであり, 顎顔面頭蓋を構成する各骨について, 詳細に検討した報告例は見あたらない。そこで本研究では, 耳桿を中心とした頭部の上下方向の回転により, 顎顔面頭蓋を構成する各骨が, 正面写真でどのようなX線像変化をおこすのかを解明することを目的として, ヒト乾燥頭蓋骨のX線像解析を行った。研究は, ヒト乾燥頭蓋骨1体を用い, 個々の骨を各縫合部において順次分離し, その度ごとに中心X線軸とフランクフルト平面が平行な場合と, フランクフルト平面を上・下10^^。ずつ回転させた場合の正面頭部X線規格写真撮影を行った。それらを順次重ね合わせ, 消失した影像を追跡することにより各骨の影像を認識し, 頭部回転に伴う各骨の位置および形態変化を分析した。