著者
三木 雅博
出版者
梅花女子大学文化表現学部
雑誌
梅花女子大学文化表現学部紀要 = Baika Women's University Faculty of Cultural and Expression Studies Bulletin (ISSN:24320420)
巻号頁・発行日
no.19, pp.72-93, 2023-03-20

平安朝漢文学の担い手といえば、大学寮で高度な漢学の研鑽を積み、漢語を自在に用いて作詩や作文が行える文人官僚たちを、多くの人は思い浮かべるであろう。菅原道真や大江朝綱、大江匡衡、菅原文時、院政期に降っては大江匡房などがその代表的存在として挙げられる。しかし、平安時代、漢語を用いて漢文を綴っていたのは、これらの名だたる文人官僚たちばかりではない。これらの文人官僚たちの下もと、朝廷で下働きをする官人、あるいは地方の国衙やその出先で働く在地の官人、都や地方の寺院で文書の作成に携わる僧侶など、多くの場所に様々な漢文を綴ることを生業なりわいにしていた人々がいた。こうした人たちが作成する漢文の大半は日常的な文書の類たぐいであり、その役目が終わると廃棄されてしまい、残されたものも歴史の「史料」とはなっても「作品」と呼べるものはほとんど残っていない。とはいえ、中にはそう呼べるものもいくつか存在し―本稿で扱う『尾張国解文』『将門記』『仲文章』などが挙げられる―、細々ほそぼそとではあるが現在まで伝わっている。本稿では、こうした下層の官人や僧侶たちが生み出したと思われる作品や、その作品を形成している漢文の世界に焦点をあて、それらが前述の名だたる文人官僚たちの作成した漢文の世界―彼らの代表作が収められた書物『本朝文粋』の名を取り「『本朝文粋』的漢文世界」と仮称する―と相対的にどのような関係にあるのかを考察し、こうした下層階級の漢文作品の存在意義について述べてみたい。
著者
北村 伊都子
出版者
梅花女子大学文化表現学部
雑誌
梅花女子大学文化表現学部紀要 = Baika Women's University Faculty of Cultural and Expression Studies Bulletin (ISSN:24320420)
巻号頁・発行日
no.19, pp.36-43, 2023-03-20

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、日本だけでなく世界中で感染対策のため、マスクの着用が普及した。これにより、鼻と口、つまり顔の下半分を互いに隠した形で他者とコミュニケーションをとることが余儀なくされ、表情の印象評定が困難になった(e.g.,Carbon, 2020)。この印象評定の困難さの度合いが文化によって異なるのかを、齊藤・元木・高野(2021)はオンライン実験によって日米比較を行った。結果、表情の印象評定はマスク着用によって影響があり、その度合いに日米差が見られた。特に、マスク着用の笑顔表情においては、アメリカ人は印象評定が阻害されるが、日本人では阻害がされなかった。この違いは、印象評定の際、人の顔のどの部分に注目するのかという文化の違いが影響を及ぼしていると考えられている(Yuki, Maddux, & Masuda, 2007)。加えて、なぜ注目する部分が違うのかについて、Tsai(2017)はその文化における理想的な感情表現・表情表出のルールにのっとっているからではないかとしている。本論文では、このようなマスク着用時における笑顔の印象評定の文化差について、日本を含む東アジア・北米に焦点をあて、文化的な背景を比較しながら検討を深めた。
著者
好田 由佳 香山 喜彦
出版者
梅花女子大学文化表現学部
雑誌
梅花女子大学文化表現学部紀要 = Baika Women's University Faculty of Cultural and Expression Studies Bulletin (ISSN:24320420)
巻号頁・発行日
no.14, pp.34-41, 2018-03-22

本研究は,文化財デジタルアーカイブの現状を調査し,研究用データベースとしての有益性を検証する.特に日本の文化財データベースのなかの服飾資料に注目し,研究資料としてどのような活用方法があるのかの実践を試みる.その上で,Microsoft 社のKinect センサーを活用した服飾資料の3D デジタル化の方法を提案する.Google Arts & Culture の“We wear culture”は,有数の博物館・美術館が協力した世界規模の文化財デジタルアーカイブであり,研究用データベースとしての活用を目的とした今後の展開が期待される.一方で,資金をもたない大学機関の貴重服飾資料が消失されないように,早急なデジタルアーカイブシステムの構築が望まれている.本研究では,立体的な形状の資料をデジタル化するために,コスト面・技術面の負担を抑えた新手法として,Kinect を活用した3D モデルの合成を試みた.撮影方法に検討が必要ではあるが,新しいデジタルアーカイブを構築する可能性を提示できた.
著者
川戸 明子 太田 仁 伊丹 昌一
出版者
梅花女子大学心理こども学部
雑誌
梅花女子大学文化表現学部紀要 = Baika Women's University Faculty of Cultural and Expression Studies bulletin (ISSN:13499750)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.43-66, 2014

特殊教育から特別支援教育への改革により、教育界では、特別支援学校のみならず、通常の学校においても特別支援教育の知識や経験が必要とされてきている。しかし、学校においては、団塊の世代の大量退職以降日本の教員の年齢構成の不均衡が蓄積された教育実践力の伝承を困難なものとしている。これまでの専門的な知識や技能、有用な教材教具の継承を実現することは教育現場の喫緊の課題である。本報告は、授業の流れに沿った障害種別ごとの児童生徒への配慮点に焦点を当て、経験の少ない教員が授業における配慮点を理解し、指導に生かすことを目的として、配慮事項を一覧表として示し、自己チェックできる「授業改善にむけてのふりかえりシート」(以下「ふりかえりシート」)を、大阪府立支援学校の管理職や教員の協力を得ながら5 年かけて作成した経緯を『特別支援学校における「指導実践改善シート」~1作成までの経緯~-視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱・発達障害児の適性指導の共有に向けて-』としてまとめたものである。