著者
山本 浩大 佐山 敬洋 近者 敦彦 中村 要介 寶 馨
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2017年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.81, 2017 (Released:2017-12-01)

近年、局所的な豪雨の影響により、計画規模に匹敵する、または、それを上回る洪水が発生し、都道府県が管理する中小河川では深刻な洪水被害が頻繁に生じている。中小河川災害の一つとして、2009年8月の台風9号による洪水災害が挙げられる。本災害では、千種川水系の上流部の中小河川で溢水・越水が発生し、特に佐用川流域では、山地からの流出や支川の氾濫が複合的に発生し、各地で深刻な被害が生じた。地球温暖化に伴うゲリラ豪雨の発生等に対して、治水整備のみで安全を実現するのは容易ではなく、洪水予測システムの情報に基づき、避難体制を構築することが重要である。洪水予測モデルとして、最近では分布型モデルも実務で使用されているが、それらのモデルは、雨量から流出量を予測し、流出流を河川水位に換算するものであり、氾濫を予測するものではない。また、洪水氾濫の影響が河川流量に大きく影響している場合は、従来の方法では、氾濫後の河川流量の再現性には問題があった。一方で、既存の氾濫モデルは、破堤地点上流の河川流量や水位を境界条件とし、特定の堤内地をにおける詳細な氾濫解析に適するものが多い。千種川のような中山間地域を含む流域では、河川沿いの氾濫が複数箇所で発生するため、降雨情報から各地で起きる浸水域を予測するには、流域全体で降雨流出過程と氾濫過程を一体的で解くモデルが望ましい。本研究で用いる降雨流出氾濫モデル(Rainfall-Runoff-Inundation model)は、流域全体で降雨流出から氾濫計算まで一体的に解析するものであり、溢水・越流などの氾濫を伴う洪水を解析するのにふさわしいと考えられる。既往の適用研究はアジアを中心とした低平地を含む流域が多く、モデルの評価に用いる水文データが不十分であったため、限られた観測点を対象に適用性を検証してきた。本研究は、水系全体で詳細な河道断面の情報を反映し、多地点の観測流量・水位情報を用いてモデルの適用性を詳細に検証した。その結果、モデルは浸水深の動向だけでなく、任意の断面で水位や流量が再現できることがわかった。
著者
川崎 雅俊 安部 豊 恩田 裕一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2017年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.99, 2017 (Released:2017-12-01)

強間伐が流出に及ぼす影響を評価する為、隣接する2つの小流域を用いて強間伐の有無による流域比較試験を行った。その上で、林内雨量、表面流量の強間伐前後の変化も踏まえ、強間伐が流出に及ぼす影響発生メカニズムの考察を行った。その結果、強間伐施業を行った流域で総流出量が増加したが、その増分は渇水時に発生しており、豊水時の変動は僅かであった。渇水期に流量が増加した原因として、流域内貯留量、特に渇水時に安定的に水を供給する岩盤中の地下水の増加が推測される。そこで、岩盤地下水の地下水位とのよく相関する先行降雨指数(API)を用いて解析を行った。その結果、強間伐実施後、特に夏期の降雨シーズン後において、同じAPIでも流量が増加する傾向が見られた。この結果は、強間伐による林内雨量の増分が、貯留量、特に岩盤中の地下水貯留量の増加に寄与したことを示していると考えられる。APIに対する岩盤地下水位や流出の応答特性は、地質によって異なることが知られている。本サイトで基底流出と良い相関がみられたAPIの半減期(10日)は、堆積岩サイトと比べて長く、この緩やかな降雨流出応答の特性が、強間伐による林内雨量増を渇水時の流量増に変換した可能性が考えられる。今後は、地質の異なる他流域の観測結果との比較を行い、強間伐による流況の平準化に必要な要素について、検討を試みる予定である