著者
牛山 素行 寶 馨
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 第18回(2005年度)水文・水資源学会総会・研究発表会
巻号頁・発行日
pp.13, 2005 (Released:2005-07-25)

降水量極値更新の情報は,豪雨時に,豪雨の激しさを伝える情報としてわかりやすく,有用な豪雨防災情報である.近年のデータ蓄積により,多くの観測地点について,極値更新情報が得られるようになったため,その基礎的な統計的性質を検討した.AMeDASデータ(観測所数1109,統計期間1979_から_2003)を用いた検討では,極値が更新されるまでの平均期間,すなわち平均記録保持年数は,各統計量とも経年的に線形で増加する傾向が認められた.おおむね統計期間が2年増えると,平均記録保持年数が1年長くなる.極値更新観測所出現率は,観測開始後10年で約10%,20年で約5%となった.SDPデータ(観測所数141,統計期間1961_から_2002)による検討結果もほぼ同様であった.
著者
藤吉 康志 藤田 岳人 武田 喬男 小尻 利治 寶 馨 池田 繁樹
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.391-408, 1996-06-30
参考文献数
20
被引用文献数
4

濃尾平野を対象地域として, 複雑山岳地形の風下での降雪分布を決定する要因について, 2台のドップラーレーダを用いて調べた。レーダは, 観測範囲が関ケ原を含む山間部と濃尾平野をカバーするように配置し, 1992年12月から1993年5月まで観測を行った。降雪が生じた9回のうち, 平野部で降雪が見られ, かつ風速・風向が数時間もの間ほとんど変化していない4例について, 平均的なレーダエコー及び水平風の3次元分布を作成し, 異なった風向・風速によってエコー及び気流分布がどのように変化するかを詳細に調べた。伊吹山地の風下の弱風域の範囲は, 風上の風向が北寄りになるほど風下に広がっていた。一方, 風向が西寄りになるほど関ケ原の出口付近での風向変化が下層及び上層共に顕著であり, かつ, 鈴鹿山脈の風上側と風下側での下層にみられる風速変化, 及び鈴鹿山脈の北側での風向変化が顕著であった。エコー域はわずかな風向変化で大きく異なり, 高度1。5〜2 kmの平均風向にほぼ平行に延びていた。エコー域の幅は, 風向に直角な方向の若狭湾の幅と極めて良く一致していた。山のすぐ風下の強エコー域の存在と, 山から離れた地点にエコー強度のピークを持つ幅の狭いバンド状のエコー域の存在が, 風向によらないエコー分布の共通の特徴であった。山岳風下域に存在する多降雪域の範囲を求める指標として, 伊吹山地上空の風速と落下速度 1 ms^<-1>を用いることは, 良い近似であることが確認された。しかし, 山頂上空には強風域が存在し, 降雪粒子の到達距離をより正確に見積るためには, この山頂上空の強風域の広がりを考慮する必要があることも分かった。複雑山岳地形の風下では, 風上の地形によって風向・風速が場所によって微妙に変化し, その結果上昇流が発生し過冷却雲が形成される。山から離れた地点に存在したバンド状降雪域は, この過冷却雲が山頂から流されてきた氷晶によって「種まき」された結果であることが示唆された。また, このバンド状降雪域は, 山脈風下の弱風 (後流) 域, 及び, 山脈と山脈の間の谷筋の強風 (噴流) 域の何れにも存在していた。
著者
小林 健一郎 HINKELMANN Reinhard HELMIG Rainer 寶 馨 玉井 信行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.120-133, 2007

本稿では地下水位が回復した状態の閉鎖炭鉱で,残留炭層から脱着したメタンがどのように地表面に向かって流動するかを,仮想帯水層を設定し,多相流モデルを用いて数値実験を行うことにより考察している.ここではまず相間質量輸送を考慮しない基礎的な気液2相モデルを用いてシミュレーションを行い,このモデルがどのような場合に適用可能かを考察した.その後,2相(気・液)・3成分(空気・水・メタン)モデルを別途開発し,同様なシミュレーションを行った.結果,質量輸送を考慮しない基礎的な2相モデルによるシミュレーションでは仮想帯水層中のメタンは地上まで到達するのに対し,2相・3成分モデルによる計算結果はメタンの地下隔離が可能であると示すなど,状況に応じてモデルを使い分けなければ,結果に多大な差が生じることが示された.
著者
佐山 敬洋 田中 茂信 寶 馨
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2016

平成27年9月関東・東北豪雨を対象に鬼怒川上流域における洪水流出解析を行った。鬼怒川上流に位置する湯西川ダム流域では、140 mmの前期降雨が降った後、約20 mm/hの降雨が10時間以上降り続いた。102 km<sup>2</sup>のダム流域に10時間以上の降雨が降り続くことによって、降雨流出現象は概ね定常状態に達していることが想定された。実際に観測されたダム流入量は、約6時間にわたって流量がほぼ一定となっていた。ただし、降雨強度20 mm/hに対してその期間の観測流入量は5 mm/h以上小さくなっていた。この現象を分布型モデルで再現した結果、土壌から基岩への浸透など、主要な流出経路から損失を考慮する必要があることが分かった。さらに流出の時空間起源をモデル分析した結果、定常状態とみられる期間中に流域の遠方に降った雨水の流出成分は、同期間中にも増加していることが確認され、理想化した斜面からの定常状態とは異なっていることが分かった。
著者
中川 一 里深 好文 大石 哲 武藤 裕則 佐山 敬洋 寶 馨 シャルマ ラジハリ
出版者
京都大学防災研究所
雑誌
京都大学防災研究所年報 (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
no.50, pp.623-634, 2006

本研究では,インドネシア国第2の河川であるブランタス川の支川レスティ川流域における土砂流出特性を明らかにするために,雨量観測,土壌侵食の観測,河川における濁度や流量等の水理量の観測を実施するとともに,衛星データを用いた植生指数の分析を行っている。さらに,植生指数と降雨に伴う土壌侵食との関係から土砂流出のモデル化を行い,観測データとの比較検討によりモデルの妥当性を検証した。その結果,本モデルにより降雨・土砂流出特性がある程度再現できることが確認された。そして,植生指数によって耕地の攪乱等の人的行為を把握し,これを降雨による土壌侵食量の評価に応用することで土砂流出に与える人為的インパクトを定量的に把握することが可能であると推察された。
著者
山本 浩大 佐山 敬洋 近者 敦彦 中村 要介 寶 馨
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集 水文・水資源学会2017年度研究発表会
巻号頁・発行日
pp.81, 2017 (Released:2017-12-01)

近年、局所的な豪雨の影響により、計画規模に匹敵する、または、それを上回る洪水が発生し、都道府県が管理する中小河川では深刻な洪水被害が頻繁に生じている。中小河川災害の一つとして、2009年8月の台風9号による洪水災害が挙げられる。本災害では、千種川水系の上流部の中小河川で溢水・越水が発生し、特に佐用川流域では、山地からの流出や支川の氾濫が複合的に発生し、各地で深刻な被害が生じた。地球温暖化に伴うゲリラ豪雨の発生等に対して、治水整備のみで安全を実現するのは容易ではなく、洪水予測システムの情報に基づき、避難体制を構築することが重要である。洪水予測モデルとして、最近では分布型モデルも実務で使用されているが、それらのモデルは、雨量から流出量を予測し、流出流を河川水位に換算するものであり、氾濫を予測するものではない。また、洪水氾濫の影響が河川流量に大きく影響している場合は、従来の方法では、氾濫後の河川流量の再現性には問題があった。一方で、既存の氾濫モデルは、破堤地点上流の河川流量や水位を境界条件とし、特定の堤内地をにおける詳細な氾濫解析に適するものが多い。千種川のような中山間地域を含む流域では、河川沿いの氾濫が複数箇所で発生するため、降雨情報から各地で起きる浸水域を予測するには、流域全体で降雨流出過程と氾濫過程を一体的で解くモデルが望ましい。本研究で用いる降雨流出氾濫モデル(Rainfall-Runoff-Inundation model)は、流域全体で降雨流出から氾濫計算まで一体的に解析するものであり、溢水・越流などの氾濫を伴う洪水を解析するのにふさわしいと考えられる。既往の適用研究はアジアを中心とした低平地を含む流域が多く、モデルの評価に用いる水文データが不十分であったため、限られた観測点を対象に適用性を検証してきた。本研究は、水系全体で詳細な河道断面の情報を反映し、多地点の観測流量・水位情報を用いてモデルの適用性を詳細に検証した。その結果、モデルは浸水深の動向だけでなく、任意の断面で水位や流量が再現できることがわかった。
著者
佐山 敬洋 立川 康人 寶 馨
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B (ISSN:18806031)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.226-239, 2008 (Released:2008-10-20)
参考文献数
39
被引用文献数
2 4

広域分布型流出予測システムの観測流量によるデータ同化手法を提案する.予測システムは斜面部の流れを表現する流出モデルと河道流れを表現する河道追跡モデルからなる.これらのモデルが持つ全ての状態量を実時間で観測更新することは計算付加が高く,実時間予測システムとしての実行可能性に困難が伴う.そこで,本研究では河道追跡モデルにマスキンガム-クンジ法を用い,河川流量を観測更新すると共に,流出モデルに起因する予測のバイアスを河川流量と同時に逐次推定する方法を提案する.この手法を桂川流域の洪水予測に適用し,斜面部の流出予測バイアスを補正することによって洪水予測精度が向上することを明らかにした.
著者
河田 惠昭 林 春男 柄谷 友香 寶 馨 中川 一 越村 俊一 佐藤 寛 渡辺 正幸 角田 宇子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

フィリッピンのイロコス・ノルテ州を流れるラオアグ川を対象として,発展途上国の開発と防災戦略の事例研究を実施した.この州とラオアグ市にとってはコンクリート製の連続堤防はいくつかの点で歓迎すべき構造物である.それは,台風のたびに発生していた洪水や浸水から開放されること,第二に旧河道や氾濫原において氾濫を」前提としない開発が可能になること,第三に頻繁な維持管理を必要としない構造物は,行政の維持管理能力の低さを補うことができることである.しかし,異常な想定外の外力が働いた場合,氾濫を前提としない開発や生活が被災し,未曾有になる恐れがある.援助側の技術者は,非構造物対策,すなわち,1)構造物を長期にわたって維持管理するための対策,2)住民の防災意識を高めるための対策,3)気象情報の収集と伝達,危険地域の把握,避難勧告など被害抑止のための対策,4)救援活動など被害軽減のための対策が含まれることを知らなければならない.すべての対策において,援助が何らかの役割を果たすためには,まず行政や住民の災害への対応の現状と過去を知る必要がある.調査期間中,台風が来襲し,堤防が決壊し被害が発生した.その原因としては,堤防建設技術の未熟さが指摘でき,防災構造物建設のための必要な知識や技術の取得と移転,実際の建設時における遵守など,構造物を根付かせるための対策も援助側は考えなければならないことがわかった.援助側の技術者は,非構造物対策を考慮に入れた上で,どのような構造物が地域に根付くかを計画する必要がある.そのためには社会を研究している専門家の参加を得て,地域の履歴を知ることは開発援助ではとくに重要である.それは,1)記憶の蓄積と共有化,2)被災者像,3)防災意識の向上の過程,4)防災対策の有無,5)被災者の生活・生計を誰が助けたのか,6)復旧における住民の労働力提供の有無を調べることは価値がある.