著者
片本 恵利
出版者
沖縄国際大学
雑誌
沖縄国際大学人間福祉研究 (ISSN:13483463)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.103-114, 2003-03-31

わが国における近代化の過程の中で、多くの人々、特に女性が、共同体のために自分を滅して奉仕するしがらみから逃れることにかなり成功したと同時に支えも失い、不安や孤独感を抱いている。本稿では、1999年から2000年までの沖縄本島北部の一人の神人(カミンチュ)Cさんと筆者の関わりの経過を報告し、現代の共同体と個人との関わりについて考察を試みた。1999年、Cさんとともに村の海神祭に参加した筆者は、Cさん達神人が地にひれ伏して祈る姿に心を打たれた。2000年、筆者はCさんの村に住むことになり、Cさんは、方々に頭を下げ筆者のことを取り計らってくれた。筆者が行事などに参加し地域に分け入るために琉球古典音さんしん楽を唄えること(歌・三線)が思わぬ効果をあげており、Cさんも喜び励ましてくれた。村のアサギの完成祝いでも筆者は三線を弾くように誘われたが、三線の試験に向けた合宿のため参加できなかった。その祝いの席でCさんは倒れて亡くなった。2002年、筆者はCさんの村に関する夢を見た。罠にはまり暴徒と化した少年達の生け賛になるところを、カウンセラーとして振舞うことで生き残れるかもしれない可能性が示唆されて目覚めた。地縁・血縁によって自動的に組み込まれる共同体のしがらみからの解放と同時に守りも失った現代人は、Cさんのような生き方や、Cさんのような存在に甘えながら共同体を成り立たせるやり方をもはや選ぼうとせず、自らの帰属先を選び、共同体側も成員を選ぶプロセスが展開している今日、神人として生ききったCさんの死により、師と、自らを滅して我々を甘えさせてくれる母とを同時に失った筆者にとって、共同体と個人のかかわりを自分の目で見、自分の声で語る道の模索が今後も課題となろう。いみじくもこの課題は、三線の訓練で、本当の自分の声で歌うことが目指されているのと重なってくる。多くの現代人にも通じる課題である。
著者
片本 恵利
出版者
沖縄国際大学
雑誌
沖縄国際大学人間福祉研究 (ISSN:13483463)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.37-53, 2005-03-31

わが国の大学における心理査定に関する教育は、これまで実施法・解釈法その他の概説のあとひたすら実践するという方法がとられてきた。この方法は、臨床心理士養成へのニーズの高まりや倫理面で問題をはらんでいる可能性がある。また初学者は、解説書に基づいて所見を作成する段階でつまずくことが多い。これらの問題に対応するために考えられた、筆者が作成した架空の樹木画作品の対提示を用いたバウムテストの解釈仮説の立て方の実習について報告し、初学者が、検査結果に主体的に関わりこころを動かしてアセスメントができるような、体験と解説書とを橋渡しする試みを考察した。この実習の特徴として以下の5点が挙げられる。(1)体験的に心理検査の成り立ちについて学習できる。(2)心理検査の解釈仮説の立て方を体験的に学習できる。(3)心理検査実施の基礎全般について体験的に学習できる。(4)筆者が描いた架空の描画作品を用いることで、学習に柔軟に活用できる。(5)受講者のレディネス、志向、授業時間によって学習内容を工夫できる。
著者
神里 博武
出版者
沖縄国際大学
雑誌
沖縄国際大学人間福祉研究 (ISSN:13483463)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-24, 2005-06

本稿は、2004年1月に実施した「小地域福祉活動の取り組み状況調査」を通して、長崎県の小地域ネットワーク活動の現状と課題を考察した。調査は長崎県社会福祉協議会(長崎県社協)の協力を得て、県下市町村社協に対して行った。調査の目的は、長崎県の小地域ネットワーク活動の現状を把握すること、特に、小地域ネットワークの対象にどのような広がりが見られるか。又、活動内容が、見守り・安否確認といった従来のネットワーク活動から、当事者の生活課題に対応した生活支援活動にまで拡大しているか。さらに、ネットワーク活動がどのような効果をもたらしたか、等を明らかにすることであった。今回の調査研究で明らかになったことは、対象が高齢者だけでなく、障がい者、子育て家庭にまで拡大し、活動も見守り以外に、買い物、介助等の生活支援も行われていることである。今後の課題としては、市町村社協が、小地域ネットワークを重要な社協活動として認識し、民生委員・児童委員、関係者と連携して主体的に取り組むことが求められる。また、対象が高齢者だけでなく、障がい者等まで拡大してきているが、現状は、依然として高齢者が中心で、障がい者等のネットワークは弱い。特に、地域で児童の虐待問題が深刻化しているが、子育て支援のネットはほとんど構築されていない。地域の福祉課題に応えるネットワークの構築が急がれる。そのためには、ネットワーク会議や社協が主催するネットワーク推進会議の設置とその機能化が不可欠である。
著者
武田 富美子 古賀 徳子
出版者
沖縄国際大学
雑誌
沖縄国際大学人間福祉研究 (ISSN:13483463)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.115-124, 2005-09-01
被引用文献数
1

筆者の一人は、教職総合演習において、環境問題をテーマに「学びの即興劇」を実践してきた。それを中学・高校で活用するために他のテーマに応用したいと考え、同教科に参加型学習を取り入れているもう一人の筆者に合同演習を呼びかけた。彼女は、「平和の文化」を身につける方法として「学びの即興劇」に関心を持ち、合同演習が実現した。そのねらいを「教師となった時におこるであろう問題を、即興劇を通して擬似的に体験することで、自分なりの考えをもつきっかけとすること」とし、「いじめ」「非行」「不登校」「学級崩壊」を劇の題材にした。学生たちは想像力を働かせ、登場人物の思いを言葉にし、とまどいや苛立ち、怒りを身体で表現した。教育の諸問題を解決するために、教師が生徒や親の視点をもつことは重要であり、「学びの即興劇」はその有効な手段のひとつと考えられた。また、問題を平和的に解決するための学習として効果的であった。