著者
石原 若奈 Ishihara Wakana イシハラ ワカナ
出版者
大阪大学大学院文学研究科 日本語学講座 現代日本語学研究室
雑誌
現代日本語研究
巻号頁・発行日
no.10, pp.35-52, 2018-03-31

インターネット掲示板サイト「2ちゃんねる」の「同人板」で使用される「伏字」と呼ばれる特殊表現について,それらが作品等の名称をどのように変形しているかを分類した上で,計量的な調査・分析を行い,どのような変形上の特徴を持った「伏字」が多用されるのか,そこには使用者のどのような意識が反映しているのか,を検討する。分析の結果,全体として「当字」「省略」など名称を材料として変形するタイプの「伏字」が好まれる一方で,特別な知識を必要とする変形が避けられる傾向があること,そこには,「伏字」によって大型サーチエンジンから「検索避け」をし,「同人」の知識がない人間を忌避しながらも,「同人板」にたどり着き,「同人」について知識があると想定される人間に対しては,書き込みについて理解し,共感してほしいという,「伏字」使用者の相反する意識が反映していることがわかった。
著者
王 淦 Wang Gan
出版者
大阪大学大学院文学研究科 日本語学講座 現代日本語学研究室
雑誌
現代日本語研究
巻号頁・発行日
vol.10, pp.53-65, 2018-03-31

行為や状態の実現の困難を表す接尾辞「-にくい」と「-づらい」を比較すると,「-にくい」は意志動詞にも無意志動詞にも付くのに対して,「-づらい」は意志的な行為を表す動詞に付きやすく,行為の遂行に苦痛が伴うためにその遂行が困難であることを表すと一般に言われる。本稿では,「-づらい」の上接動詞をウェブコーパスによって調査し,無意志動詞と組み合わせられる場合,しばしば表現の背後に実現の困難を感じる主体の存在が想定されることを述べる。
著者
韓 娥凜 Han Ahreum
出版者
大阪大学大学院文学研究科 日本語学講座 現代日本語学研究室
雑誌
現代日本語研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.72-90, 2019-03-31

政見放送は,放送という公の場を借りて行う選挙運動一つである。本稿では,選挙の際に日韓の有力候補が行う政見放送を分析し,トピック構成と聞き手設定の相違について考察した。分析の結果,日本では,当選した後の政策を説明するトピックが多かったが,韓国では対立する政党の候補への批判や相手からの政治的攻撃を反駁するトピックが多いことが分かった。そのため,日本では最初から最後まで有権者が主な聞き手として設定されているが,韓国では有権者の他にも対立する候補がもう1人の聞き手として設定される傾向がみられた。同じ目的で行われる政見放送であっても日本は「政治家-有権者」の単一聞き手設定による情報伝達重視の談話を,韓国は「政治家-有権者-対立候補」の多重聞き手設定から感情共有重視の談話を展開していくことが明らかになった。
著者
田野村 忠温 Tanomura Tadaharu タノムラ タダハル
出版者
大阪大学大学院文学研究科 日本語学講座 現代日本語学研究室
雑誌
現代日本語研究
巻号頁・発行日
no.12, pp.18-37, 2020-12

動詞-名詞という形をした日本語の漢語複合名詞には,"N をV"などの動詞句に相当する意味と"V したN"などの連体修飾句に相当する意味の両方を表すものがある。しかし,前者の意味しか表さないものもあれば,後者の意味しか表さないものもある。複合名詞の事例ごとに事情が異なり,全体としてきわめて複雑な様相を呈しているが,その中にも一定の原理があるのではないかという見込みに基づき,動詞-名詞型漢語複合名詞の意味のあり方を統一的に説明するための観点を仮説として提示する。ここで論じる問題を大きく支配しているのは,中国語を範とした語形成と日本語の感覚による再解釈という2つの要素である。現代日本語の共時的な分析では見えてこない現象の論理を,通時的な要素を加えた考察を通じて探ってみたい。
著者
佐々井 明里 Sasai Akari ササイ アカリ
出版者
大阪大学大学院文学研究科 日本語学講座 現代日本語学研究室
雑誌
現代日本語研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.60-75, 2017-03

「切ない」という形容詞は、辞書等では「胸が締め付けられるように苦しい思い」を表すと定義されているが、近年その意味が変化し新たな意味・用法が生じている可能性があるため、近現代のコーパス等を用いて調査した。その結果、「切ない」は、近代から現代にかけて使用される文章ジャンルが拡大し、①芸術批評などを通してその作品の内容を客観的にプラスに評価する「属性的な意味」、②日常的で深刻度の低い出来事に対してなんとなく残念であるとの心情を表す「軽い意味」、という新たな意味が生じていると結論付けた。これらの新たな意味の成立には、「切ない」が本来持つ「他者への感情移入」と「理想・期待と現実とのギャップ」という二つの意味特徴が機能していると考えられる。