著者
田野村 忠温 Tanomura Tadaharu
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.32, pp.25-35, 2020-02

福沢諭吉編訳『増訂華英通語』(1860(万延1)年)の語彙集にカレーの項目が含まれ、curry の発音が「コルリ」と記されているという事実が多くの人の短絡的判断を招き、福沢が「カレー」の語を日本に初めて伝えたとする説が─さらには、福沢がカレーを日本に伝えたとか、カレーの調理法を伝えたといった話まで─広く流布している。しかし、『増訂華英通語』の理解を前提として言えば、それらの説はすべて誤っている。ここでは、『増訂華英通語』の「コルリ」の本性を明らかにし─その過程で、同書にカレーが「加兀」と書かれているという話の誤りも明らかになる─、併せて関連するいくつかの問題に考察を加える。
著者
田野村 忠温 Tanomura Tadaharu タノムラ タダハル
出版者
大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
雑誌
阪大日本語研究 (ISSN:09162135)
巻号頁・発行日
no.33, pp.33-60, 2021-02

コーヒーの名称の漢字表記「珈琲」は日本で作られたと多くの言語研究者が言う。そして、その考案者を蘭学者の宇田川榕庵として特定する説まであり、通俗書やインターネットを通じて広く流布している。しかし、そうした通説、俗説はすべて正当な根拠を欠く想像に過ぎない。言語の歴史を想像に頼って論じることはできない。ここでは、資料の調査と分析に基づいて、「珈琲」という表記の現在確かめ得る最初期相を明らかにするとともに、それがその後日中両国でたどった歴史を跡付ける。
著者
田野村 忠温 Tanomura Tadaharu タノムラ タダハル
出版者
大阪大学大学院文学研究科 日本語学講座 現代日本語学研究室
雑誌
現代日本語研究
巻号頁・発行日
no.12, pp.18-37, 2020-12

動詞-名詞という形をした日本語の漢語複合名詞には,"N をV"などの動詞句に相当する意味と"V したN"などの連体修飾句に相当する意味の両方を表すものがある。しかし,前者の意味しか表さないものもあれば,後者の意味しか表さないものもある。複合名詞の事例ごとに事情が異なり,全体としてきわめて複雑な様相を呈しているが,その中にも一定の原理があるのではないかという見込みに基づき,動詞-名詞型漢語複合名詞の意味のあり方を統一的に説明するための観点を仮説として提示する。ここで論じる問題を大きく支配しているのは,中国語を範とした語形成と日本語の感覚による再解釈という2つの要素である。現代日本語の共時的な分析では見えてこない現象の論理を,通時的な要素を加えた考察を通じて探ってみたい。