著者
石井 圭
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B-27, 2020 (Released:2021-03-31)

人が生きていく上で随意的に体を動かす能力は重要である。体を動かすためにはどのような生体制御システムが必要だろうか? 運動制御システムは当然必要だが,それだけでは不十分である。筋活動を継続的に行うためには血中の酸素を用いてエネルギー合成をする必要があるため,心臓から血液を送り出し,筋肉への血流量を増やして酸素を供給する。このように循環系を制御するシステムは,運動を支える重要な生体制御システムの一つである。 運動時の循環制御システムの一つはセントラルコマンドである。例えば,自発的に体を動かそうとすると高位脳中枢から信号が下降し,運動系だけでなく,自律神経を介して循環系を見込み的に制御する。セントラルコマンドによる見込み制御は運動意図や運動努力に伴い生じると考えられている。しかし,循環制御におけるセントラルコマンドの実質的な役割やその神経機構の詳細は不明であった。 我々はセントラルコマンドによる骨格筋血流量の調節に焦点をあて研究に取り組んできた。その結果,セントラルコマンドは血管拡張作用の交感神経を介して運動に応じた骨格筋血流量調節を行うことを明らかにした。これにより酸素を必要とする骨格筋に効率的に血液を供給することに貢献していると考えられる。また,セントラルコマンドに関与する脳領域も探索してきた。一つは中脳にある腹側被蓋野が考えられる。この領域は運動時に活性化し,刺激により運動と同期した循環応答が生じた。さらに,我々は運動の計画にも関係すると考えられている前頭前野領域がセントラルコマンド特有の応答(運動開始前および運動努力に応じた活性化)を示すことを明らかにした。この応答形式は一次運動野等の応答とは異なるものであった。 本シンポジウムではこれらの研究成果を紹介し,臨床応用へ繋げるためにどのように展開すべきか考え,議論したい。