- 著者
-
田 栄富
励 利
- 出版者
- 久留米大学経済社会研究会
- 雑誌
- 経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.1, pp.27-57, 2019-11-25
介護保険制度の実施は介護サービスの準市場への移行であり,この準市場において事業者間の競争の存在が確認された。介護サービスの需要と供給動向は介護の社会化を示しており,制度導入の効果ということができる。しかし,介護サービス市場は一般自由市場と異なり,サービス報酬が公定価格のため短期にはサービスの供給は需要の大きさに依存する。介護報酬の改定,第1号被保険者数の増加,要介護認定率,介護サービス受給率等の要因変動は介護サービス市場に大きな影響を与えるが,介護サービスの需要と供給曲線の形は短期と長期で異なったものとなる。また,政府と保険者の政策変化による影響が顕著になっており,準市場としての欠陥も明らかになっている。介護保険財政は賦課方式を採用し,公費投入と介護保険料で賄っている。少子高齢化が進む中で介護財政を維持していくために,政府は公費投入の増加及び介護保険料の引き上げを実施し,介護サービスの需要と供給をコントロールしてきた。しかしながら,これからの認知症高齢者とチャイルドレス高齢者の増加は確実に介護サービス需要増へと繋がり,さらに,介護職員不足の顕著化はサービス供給にも深刻な影響を与える。人口構造と社会経済が大きく変化する中,現在の介護保険制度,準市場としての介護サービス市場はもはや限界に近く,制度を持続可能的に維持していくための抜本的な改革が求められている。