著者
大矢野 栄次 Eiji Ohyano
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1-2, pp.1-19, 2018-06-25

調所広郷(安永5年(1776)-嘉永元年(1849)) は、江戸時代後期に薩摩藩主重豪に抜擢された経済官僚であり、後に家老となって重豪の命令によって薩摩藩の財政改革に貢献した。重豪亡き後は、次の藩主斉興の指示と了解に基づいて藩の財政改革を実行した優秀な官僚である。調所広郷は藩主島津重豪の命令のもとで商人から金を借り、行政改革や農政改革を実施した。薩摩藩の財政は巨額の債務として累積していたために、商人に対して強引に、500万両の借金を無利子で250年の分割払いにしてしまった。さらに琉球を通じて清との密貿易を行なった。大島・喜界島・徳之島などの「道之島」から取れる砂糖の専売制を行って大坂の砂糖問屋の関与の排除を行ったり、商品作物の開発などを行ったりなどの薩摩藩の財政改革を行い、天保11年(1840)には薩摩藩の金蔵に250万両の蓄えが出来る程にまで財政を回復させた。嘉永元年(1848)、幕府老中阿部正弘は薩摩藩の密貿易を糾弾し、責任者の調所広郷は進退きわまり、同年12月、江戸の薩摩藩上屋敷芝藩邸にて急死した。享年73歳であった。密貿易の責任追及が藩主斉興に及ばないようにすべての責を負った服毒自殺といわれている。
著者
宮松 浩憲 Hironori Miyamatsu
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1-2, pp.179-192, 2022-07-25

これまでの研究からは十分には見えてこなかった庶民・農民の生活史を,人名から多面的かつ詳細に捉える方法を提示する。本稿では,主として「食べる」を含む人名を通して,領主と従属民の関係に新たな光を当てる。
著者
田 栄富
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.19-46, 2020-05-25

本稿は介護サービス賃金上方硬直性について,女性非正規労働者の労働供給が弾力的であること,介護サービス業の短時間労働者の時間当たり賃金が優位性を持つこと,および介護サービスの特徴的なコスト構造という 3 つの点から検証を試みた。結果として,近年は特に45歳以上の女性非正規労働者供給が弾力的であり,介護サービスの主な 3 職業の時間当たり賃金は絶対額でも相対額でも一定の優位性を保っていた。3 点目については,サービスの生産・提供がマンパワーに強く依存するため,資本投入による生産性の改善が難しい一方,人件費コストが事業収入の7割弱を占めていることから,賃上げを難しくしている。これらの要因から賃金の上昇が抑制されている可能性が高い。2018年現在,30 ~ 54歳女性の労働力率は既に78%に達し,「M字カーブ」が解消され,これから女性労働力の供給が大幅に増加することは望めないだろう。今後,小売,飲食等の対人サービス業で資本投入が増え労働生産の改善が賃上げに繋がる事態が起これば,介護サービス業の賃金も追随する必要に迫られよう。
著者
田 栄富 盧 虹
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.41-60, 2019-09-25

介護サービス利用者数の増加及び介護重度化が介護費用を膨らませた。営利法人が参入できる居宅サービスや地域密着型サービスの給付費も大幅の上昇となっている。しかし,そのような介護保険サービス分野では,参入しやすい特徴があるため競争も激しい。各種サービスの収支差率が低下する傾向にある。大手介護企業の経営面においても,営業利益率は介護売上が大きいほど上位にあることが確認できた。つまり,介護業界でも経済の規模効果が存在する可能性は十分ある。また,介護売上原価率を比較した結果,介護売上上位の企業が原価以外の「販売費及び一般管理費」とのコスト管理は小企業より優れている可能性がある。さらに,臨時正規比率と1人当たり生産額を組み合わせで,臨時正規比率が低いほど1人当たり生産額は高い傾向にある。
著者
田 栄富 王 橋
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.25-44, 2019-01-25

日本介護保険制度が実行されてから,介護費用が膨らみ,介護財政を圧迫し,第1,2号被保険者は保険料負担の増加を強いられている。今後の負担は更に重くなる。一方,介護サービス業は国民経済におけるパフォーマンスを確実に増している。投入構造で確認できた介護サービス業は粗付加価値投入であり,そのなかで雇用者所得は93.5%に達している。介護保険三施設の長期労働生産性を計測した結果,全産業平均を大きく下回っている。同部門は日本の産業部門においても有数の成長部門であり,労働・資本等の生産要素がこの部門に集約しつつある。しかし,低労働生産であり,資源配分を歪める恐れもある。また,労働生産性と賃金の間には密接な関係が確認されている。介護サービス業の低労働生産性は必然的に賃金に影響する。つまり低労働生産性から低賃金へという成り行きは従業員の高離職率,低い定着率をもたらす。結局,介護サービス業は人手不足という事態に直面する。賃金を引き上げるには,公定価格の介護報酬のもとでいかに労働生産性を上昇させるかが重要な課題である。
著者
田 栄富 励 利
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.27-57, 2019-11-25

介護保険制度の実施は介護サービスの準市場への移行であり,この準市場において事業者間の競争の存在が確認された。介護サービスの需要と供給動向は介護の社会化を示しており,制度導入の効果ということができる。しかし,介護サービス市場は一般自由市場と異なり,サービス報酬が公定価格のため短期にはサービスの供給は需要の大きさに依存する。介護報酬の改定,第1号被保険者数の増加,要介護認定率,介護サービス受給率等の要因変動は介護サービス市場に大きな影響を与えるが,介護サービスの需要と供給曲線の形は短期と長期で異なったものとなる。また,政府と保険者の政策変化による影響が顕著になっており,準市場としての欠陥も明らかになっている。介護保険財政は賦課方式を採用し,公費投入と介護保険料で賄っている。少子高齢化が進む中で介護財政を維持していくために,政府は公費投入の増加及び介護保険料の引き上げを実施し,介護サービスの需要と供給をコントロールしてきた。しかしながら,これからの認知症高齢者とチャイルドレス高齢者の増加は確実に介護サービス需要増へと繋がり,さらに,介護職員不足の顕著化はサービス供給にも深刻な影響を与える。人口構造と社会経済が大きく変化する中,現在の介護保険制度,準市場としての介護サービス市場はもはや限界に近く,制度を持続可能的に維持していくための抜本的な改革が求められている。
著者
齊藤 豪大 Takehiro Saito
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.1-18, 2019-09-25

本稿の目的は17世紀中葉から18世紀前半にかけて展開されたスウェーデン漁業政策の一端を明らかにすることにある。とりわけ,同時期に発布された漁業法令や港湾法令の分析を通じて,水産業に対する奨励施策の問題やスウェーデン周辺海域での漁業行為をめぐる問題について上記の法令でどのように取り扱われていたのかを考察した。1658年のロスキレ条約以降に全国的な漁業法制の整備を進めていったスウェーデンは,水産業の発展を目的として漁業事業者・従事者に対して様々な優遇策を行っていった。一方,漁村における治安維持や水産加工品の品質管理に関する法規制の制度設計を行い,王国内における漁業行為の統御を本格的に進めていくこととなった。これらの施策は「スウェーデン人による漁業」の発展を目的とするものであり,18世紀中葉に発生した水産資源変動後の漁業政策にも大きな影響を与えることとなった。
著者
大矢野 栄次 Eiji Ohyano
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-19, 2018-06-25

調所広郷(安永5年(1776)-嘉永元年(1849)) は、江戸時代後期に薩摩藩主重豪に抜擢された経済官僚であり、後に家老となって重豪の命令によって薩摩藩の財政改革に貢献した。重豪亡き後は、次の藩主斉興の指示と了解に基づいて藩の財政改革を実行した優秀な官僚である。調所広郷は藩主島津重豪の命令のもとで商人から金を借り、行政改革や農政改革を実施した。薩摩藩の財政は巨額の債務として累積していたために、商人に対して強引に、500万両の借金を無利子で250年の分割払いにしてしまった。さらに琉球を通じて清との密貿易を行なった。大島・喜界島・徳之島などの「道之島」から取れる砂糖の専売制を行って大坂の砂糖問屋の関与の排除を行ったり、商品作物の開発などを行ったりなどの薩摩藩の財政改革を行い、天保11年(1840)には薩摩藩の金蔵に250万両の蓄えが出来る程にまで財政を回復させた。嘉永元年(1848)、幕府老中阿部正弘は薩摩藩の密貿易を糾弾し、責任者の調所広郷は進退きわまり、同年12月、江戸の薩摩藩上屋敷芝藩邸にて急死した。享年73歳であった。密貿易の責任追及が藩主斉興に及ばないようにすべての責を負った服毒自殺といわれている。
著者
解 慶子 秋本 耕二 Qingzi Xie Koji Akimoto
出版者
久留米大学経済社会研究会
雑誌
経済社会研究 = The journal of the Society for Studies on Economies and Societies (ISSN:24332682)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.1-13, 2019-12-25

本稿では,経済発展の根源的要素は人的資本であるとの認識のもと,人的資本と物的資本蓄積による経済発展の過程を分析する。そのために,Galor and Moav(2004)(以下,GMモデルと記す)に着目する。ただし,GMモデルにはいくつかの欠陥と呼んで差支えない構造が含まれている。たとえば,経済の初期段階から成熟期に渡る長期の過程を分析しているのにもかかわらず,モデルには技術革新が存在せず,不変の生産関数を仮定していることである。本稿では,技術革新をGMモデルに導入し,理論的にモデルを再構築したうえで,中国に注目し,同国の経済発展過程を実証分析する。本稿のオリジナルは,人的資本を測定するための新たな人的資本係数を導入している点にある。