著者
矢澤 健太郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F14-1-F14-8, 2017 (Released:2019-09-26)

本稿は,ニューヨークにある世界一の金融街である「ウォール街(ウォール・ストリート)の現在」を問題として,パターン認識の技術を駆使したクオンツたちのステルス・モデルを,筆者自身の問題としていかに応用し,博士号を取得しても研究職に従事しない「ポスドク問題」に対する筆者自身の考えを述べたものである。 2010年のフラッシュ・クラッシュはクオンツ危機とも呼ばれ,アルゴリズムの異常検知によって危機が生じた。クオンツのモデルは極秘情報として一切公表されないが,極秘であったはずにも関わらず多数のモデルが同時連続的にクラッシュを起こしたという2010年の出来事から,いかなる問題と教訓を読み解くか。筆者は,クオンツ・モデルで駆使されたパターン認識の技術を推測・熟考し,この発展的応用が新しいビジネス創造を生み出すと考え,それは実験室や研究室の垣根を跳び越えた「ポスドク問題」への解決にもつながると思い,筆者自身の考えを述べた。
著者
菊澤 研宗
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.42-49, 2017 (Released:2019-09-26)

かつて世界で輝いていた日本企業は,変化の速いグローバルな環境に適応できず,現在,凋落している。なぜか。これまでさまざまな原因が指摘されてきたが,本論文では,今日,多くの日本企業が誤った新古典派的な資本主義理論とオーディナリー・ケイパビリティにもとづく経営を展開している点に注目する。何よりも,日本企業復活にとって必要なのは,正しいシュムペーター流の資本主義理論とデイビット・ティースによって展開されているダイナミック・ケイパビリティにもとづく経営であることを説明する。

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著者
加護野 忠男
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.26-31, 2017 (Released:2019-09-26)

バブル崩壊以降,金融庁と東京証券取引所が主導して行った企業統治制度改革は,日本の産業界にさまざまな影響を及ぼした。よい影響より悪い影響のほうが多かったと私は感じている。雇用の不安定化や非正規従業員比率の増大など,健全だった日本的雇用慣行が劣化した。このままでは日本企業の競争力が失われるのではないかと危惧する専門家も出てきている。長期のメリットよりも短期の利益が優先された結果だといえるであろう。配当や自社株買いなどのペイアウトが増大し,投資が縮退した。新事業開発投資は行われなくなり,低収益事業からの撤退が相次いだ。撤退はトップ主導で行うことができる。日本企業の強みであったボトムアップ経営は弱体化し,トップダウン経営が強化された。低収益事業からの撤退は,短期的には利益率の改善をもたらす。経営者の短期利益志向,リスク回避の傾向がより顕著になり,長期志向の抜本的な事業改革よりも短期的視野での利益率改善策が優先されるようになった。並行して行われた銀行融資制度の改革にともなってリスクヘッジとなる内部留保が必要以上に増大した。企業統治制度改革は,これらの経営劣化の唯一の原因だとは言うつもりはないが,少なくとも多様な原因の一つ,それも重要な原因の一つとなっていたとは言えるだろう。なぜこのような失敗が犯されたのか。これらの劣化から脱却し,企業の長期的活力を高めるために,金融庁や東京証券取引所などの市場規制当局や企業経営者自身は何をなすべきか。また経営学者は何をすべきか。これらの問題をこの講演で考えたい。
著者
松嶋 登
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.60-69, 2017 (Released:2019-09-26)

「社会の中での組織の機能」を問うには,社会や組織という概念の原点回帰が必要になろう。統一論題報告では,この原点回帰に取り組んできた制度派組織論の論争を振り返り,社会的事物として制度化された組織(制度としての組織)と,社会的環境である制度ロジックスの組織化が意味する理論的含意を再検討した。往々に人々を一意に規定する拘束的存在として捉えられがちな制度は,本来,多様な物質的実践を産出する超越的な言語であり,理念型とも呼ばれてきた。そうした制度は,矛盾を含んだ多元的な社会的価値(制度ロジックス)として存在しており,その中でも有機体として存続を求める価値を有する組織は,矛盾する価値を混合することで二律背反する多様な実践を産出してきた。社会の中での組織の機能は,いずれかの制度ロジックを色濃く反映した道徳的制度の機能として論じられる。例えば,経営戦略論,技術経営論,そして制度派組織論ではアイロニカルに使われた企業家研究もまた,独自の概念(用語)の価値に寄り添うことが理論的なアイデンティとなる。
著者
太田 肇
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.82-89, 2017 (Released:2019-09-26)

企業の関わる事件や事故などの不祥事が発生するたびに「管理の強化」が唱えられ,対策がとられる。しかし,同種の不祥事が後を絶たないばかりか,同じ組織体のなかで不祥事が繰り返される場合もある。その背景には,日本型組織の特徴が深く関係している現実がある。日本型組織の特徴として,非公式組織と公式組織の二重構造,職務の不明確さ,ならびにそこから生じる圧倒的に組織優位な組織と個人の力関係,集団無責任体制があげられる。それが存在するため,企業不祥事のなかでもとくに組織的性格の強い不祥事の場合,管理強化がプレッシャーと集団的機会主義を生み,不祥事防止に逆効果となるのである。したがって不祥事の防止には,日本型組織の特徴を踏まえた対策をとる必要がある。現実的な対策として,短期,中期,長期の3レベルの提案を行った。
著者
谷川 寿郎
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第87集 日本の経営学90年の内省と構想【日本経営学会90周年記念特集】 (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.G11-1-G11-10, 2017 (Released:2019-09-26)

本稿は日本の大企業の所有と支配について,伝統的な実証調査の方法である持株比率別分析と所有主体別分析を行い,現在における日本の株式会社の所有と支配について明らかにしようとするものである。会社支配論と経営者支配論については,日本においても,多くの実証研究が行われてきた。それらの研究は,日本の大企業は経営者支配であるという一定の結論をみた。また,日本の株式所有構造の特徴として,大株主の機関化と,それらに対する高い集中度を指摘する。本稿の実証調査の結果においても同様に,それらの特徴が確認された。しかし,大株主の主体の属性は大きく変化した。大株主として君臨した都市銀行や生命保険会社にかわって,現在では,資産管理専門銀行と外国人機関投資家が多くを占める。また,経営者支配の企業は対象200社のうち130社を占める。この約20年間で日本の大企業の所有と支配は大きく変化した。