著者
田中 彰吾
出版者
東海大学
雑誌
総合教育センター紀要 (ISSN:13473727)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-14, 2008

バウムテストに代表される描画法心理テストでは,解釈のさいに空間象徴と呼ばれる仮説を適用する。この仮説は経験的にはきわめて有効であることが知られているが,その根拠は必ずしも明確にされていない。本稿は,現象学的方法に依拠しつつ,空間象徴を理論的に基礎づけようとするものである。現象学では,われわれが経験しているありのままの空間を「生きられた空間」と呼ぶ。生きられた空間は,身体の姿勢と構造に対応して,上下・前後・左右という三つの方向に分節されている。しかも,われわれは身体を通じて,上と下,前と後,右と左を,それぞれ対照的な意味合いとともに経験している。生きられた空間の意味と空間象徴モデルを照らし合わせると,空間象徴には一定の根拠があることが明らかとなる。とくに,モデルに示された上下の意味については,ほぼ全面的に信頼できる。左右の意味については,従来より限定的に解釈すべきだが,やはり一定の妥当性がある。
著者
菅野 孝彦
出版者
東海大学
雑誌
総合教育センター紀要 (ISSN:13473727)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.57-67, 2003-03-30

リルケは, 1915年に訪れたミュンヘン在住の作家ヘルタ・ケーニヒ夫人宅の一室に飾られていたピカソが描いた『軽業師の家族』(Famille de saltimbanques, ワシントンナショナルギャラリー,212.8×229.6cm,油彩)に深い感銘をうけ,かつてパリで見た軽業師たちの技の数々をも思い起こしつつ,後に1922年『ドゥイノの悲歌』の第五歌を書き上げた。われわれは,ここで,ピカソとリルケとの間に伝記的交流を見ることはできない。しかし,『軽業師の家族』という一枚の絵を通じたピカソとリルケの結びつきを,すなわち一人の画家と一人の詩人との間の真の交流をかいま見ることができるのではなかろうか。それはまた,『軽業師の家族』という絵画作品と『ドゥイノの悲歌』という詩作品との間に架橋される橋を現出させる試みとなるのではなかろうか。