著者
平山 和宏
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.17-23, 2005 (Released:2005-07-05)
参考文献数
86
被引用文献数
4

近年大豆イソフラボン類の健康増進効果や疾病予防効果が注目されている.大豆イソフラボン類はエストロジェン様活性を示し,乳癌や前立腺癌,骨粗しょう症,高コレステロール血症,心疾患などに予防効果があることが示されている.大豆に含まれるイソフラボン類は主にgenisteinとdaidzeinであるが,発酵食品を除けばそのほとんどは配糖体として存在している.大豆イソフラボン類は配糖体のままでは腸管から吸収されないことが知られており,その吸収には加水分解によりアグリコンとなることが必要である.加水分解には腸内フローラの β-グルコシダーゼの活性も重要な役割を果たしていると考えられる.また,吸収された大豆イソフラボン類は肝臓で抱合されて胆汁中へと排出されるが,腸管内で脱抱合されて再びアグリコンとなって腸肝循環をする.この脱抱合に腸内フローラの β-グルクロニダーゼが関わっている.大腸に達した大豆イソフラボン類はさらに代謝されている.たとえばdaidzeinはエストロゲン様活性や抗酸化作用が強いequolと活性のない O-desmethylangolensinに代謝されるが,これらの代謝には腸内フローラの存在が必須である.daidzeinからのequolの産生には非常に大きな個体差があることが知られており,その個体差は腸内フローラの違いによるものと考えられている.このことは,同様に大豆イソフラボン類を摂取しても腸内フローラの構成の差により得られる保健効果が個体によって異なる可能性を示している.しかし,これらの代謝を担う菌種や菌株を分離,同定した報告は少なく,今後の研究が期待される.