著者
中村 康則 大木 浩司
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.259-264, 2010 (Released:2010-11-25)
参考文献数
20

乳酸菌Lactobacillus helveticusは,発酵中に乳蛋白質を分解し,潜在するペプチドvalyl-prolyl-proline,isoleucyl-prolyl-prolineを産生する.両ペプチドは,アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有する.この酵素は,アンジオテンシンIに作用し,強力な血圧上昇物質アンジオテンシンIIを産生することで知られる.動物実験および in vitro試験の結果は,経口摂取された両ペプチドの一部が,インタクトな形で消化管より吸収され,組織レニン・アンジオテンシン系に作用し,血圧を降下させることを示唆している.我々が実施したヒト飲用試験では,両ペプチドを含有する発酵乳の摂取により,高血圧者の収縮期および拡張期血圧が有意に降下することを確認した.アンジオテンシン変換酵素は,NO産生を促進するブラジキニンを分解・失活する酵素でもある.従って,両ペプチドには,NOによる血管内皮機能の維持,動脈硬化予防の可能性が期待される.NO合成酵素阻害剤NG-nitro-L-arginine methyl ester hydrochlorideを投与したラットの胸部大動脈を摘出し,アセチルコリンに対する内皮応答性を調べた結果,いずれのペプチドも阻害剤と同時摂取させたとき,阻害剤による応答性低下の改善を認めた.また,我々が実施したヒト試験では,両ペプチドの摂取により,プレスティモグラフィーにおける上腕の駆血解放後の血流量の増大が認められ,このとき,血圧に変化はなかったため,両ペプチドによる,血管内皮機能の改善が示唆された.以上のことから,両ペプチドは,血圧降下という作用のみならず血管内皮機能改善作用によってメタボリックシンドロームの予防,改善に寄与するものと考えられる.
著者
名倉 泰三 八村 敏志 上野川 修一
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.7-14, 2004 (Released:2005-03-04)
参考文献数
35

アレルギー発症と腸内細菌叢に関する疫学的調査から, ヒト腸内に生息するBifidobacterium やLactobacillus などの乳酸菌がアレルギーの予防に寄与することが推測される. 乳酸菌はTh1免疫応答を亢進させることで, アレルギー発症に関わるTh2免疫応答を抑制することが報告されている. 難消化性オリゴ糖の摂取は, 腸内に住み着いている乳酸菌, 特にBifidobacterium を増殖させることがよく知られている. 我々は, オリゴ糖の一種であるラフィノースがTh1/Th2応答に与える影響について, 卵白アルブミン特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウスを使って調べた. トランスジェニックマウスへの卵白アルブミン経口投与によって誘導された腸管膜リンパ節細胞のIL-4産生や血中IgE上昇は, ラフィノース添加食によって有意に抑制された. ラフィノース食によって培養可能なマウス盲腸内細菌の菌数変化が認められなかったため, この免疫応答の変化に関係する腸内細菌の種類は不明であるが, ラフィノースの摂取は, 経口抗原によって誘導される不利益なTh2応答を抑制することが示唆された.
著者
鮫島 由規則 鮫島 隆志 平川 あさみ 丹羽 清志 永田 祐一 鮫島 加奈子 松元 淳 渋江 正
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.67-79, 2003 (Released:2010-06-28)
参考文献数
37
被引用文献数
3

ビフィズス菌は腸内腐敗の抑制, 免疫力の増強など宿主の健康維持に大きな役割を果たしている.今回, 筆者らは新しい形態のプロバイオティクスである「ビフィズス菌含有大腸崩壊性カプセル」を臨床応用する機会を得た.このカプセルを潰瘍性大腸炎に用いた場合, 腸内細菌叢に作用して腸内有用菌の増殖を促進するとともに, 腸内有害菌の増殖を抑制して腸内細菌叢のバランスが改善された.この結果, 腸内環境が浄化され, 症状の改善ならびにQOLの向上がもたらされた.
著者
内山 成人 木村 弘之 上野 友美 鈴木 淑水 只野 健太郎 石見 佳子
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.221-225, 2007 (Released:2007-08-17)
参考文献数
13
被引用文献数
1

我々がエクオール産生乳酸菌としてヒト腸内より単離したラクトコッカス20-92株は,Lactococcus garvieae(以下Lc. garvieae)と同定された.ラクトコッカス20-92株の安全性評価のために,Lc. garvieaeの食歴およびヒト腸内常在性について検討した.イタリアの伝統的チーズおよび日本人の健常人女性より採取した糞便からのLc. garvieae検出は,Lc. garvieaeに特異的なPCRプライマーを用いたRT-PCR法あるいはリアルタイムPCR法により行った.イタリアおよび日本で入手したイタリア産の伝統的なチーズ7種類(トーマ・ピエモンテーゼ,ラスケーラ,ブラ・ドゥーロ,ブラ・テネーロ,ムラッツアーノ,カステルマーニョ,ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ),21検体にLc. garvieaeが検出された.また,ヒト糞便サンプル135検体中,49検体にLc. garvieaeが検出された(検出率36.3%).本研究結果より,Lc. garvieaeが伝統的に食されてきたチーズ中に存在していることが確認できたことから,その食歴を明らかにすることができた.さらに,健常人の腸内に常在していることも明らかとなり,Lc. garvieaeの安全性は高いものと考えられた.したがって,ヒト腸内由来のラクトコッカス20-92株も,同様に安全性の高い菌株であることが示唆され,今後,食品としての利用が可能と考えられた.
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.211-222, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
36

私は,生まれつき内気で.小学校では,絵・ポスター・書の制作,昆虫標本・模型の製作に熱中した.成蹊高校尋常科に入学し,よき師友に出会い,草川信先生により「クラッシック音楽」に開眼,中村草田男先生から「純粋に生きる尊さ」を教わり,これが,私の終生の信条となった.終戦とともに授業が再開され,植物学の前川文夫先生の講義に深い感銘を受けた.高等科に進学した頃,人生に悩んだが,その時,私の心を支えてくれたのは河合栄治郎著『学生に与う』と矢内原忠雄先生の言葉であった.東大に入学し,再びよき師友にめぐり合うことができ,研究者となることを決意した.大学院で,越智勇一先生の指導を受けたことが,私の人生を決定づけた.BL培地を開発し,成人の腸内にビフィズス菌が優勢菌として検出されることを発見,これが今日までの研究の基礎となった.1964年から2年間のベルリン留学により海外のよき研究者と知己を得,その後の研究に計り知れない恩恵を受けた.帰国後,多菌株接種装置および腸内フローラの包括的検索法を開発,腸内フローラの生態学的法則を明らかにし,“腸内細菌学”を開拓し,次いで発酵乳・オリゴ糖の効用を発見し,“バイオジェニックス”を提唱した.創造には,「直観」が重要である.直観は,純粋な心で,強靭な忍耐力をもって真理を探求する過程で突如として現れる.研究者は,清廉潔白に徹せねばならない.私は『創造の成果は,純粋な心で,努力を重ねた結果,授けられるものである』と確信している.
著者
伊藤 善翔 小井戸 薫雄 大草 敏史
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.13-18, 2021 (Released:2021-02-03)
参考文献数
25

膵疾患は急性膵炎といったcommon diseaseから自己免疫性膵炎や癌まで様々である.そのなかで,膵臓癌は我が国においてだけでなく,全世界的に未だ予後不良の疾患であり,その対応には急務が求められている.近年,様々な消化器癌において腸内細菌(Gut microbiota)の関与が報告されているが,膵疾患領域においても細菌叢の解析が蓄積されてきている.膵疾患においても良悪性疾患を問わず細菌が疾患に関係することが示唆されてきており,細菌叢から疾患を考察することは,未だ解明されていない癌化プロセス等の解明に繋がると考える.
著者
飯島 英樹 清野 宏
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.205-214, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
77

消化管の内部には,多数の細菌,真菌などの微生物が生体と共生し,生体の機能に重要な役割を果たしている.消化管内の腸内細菌は,直接的に,あるいは代謝物を介して生体の構成細胞に影響を与え,免疫系の発達と機能をサポートする.消化管管腔内のみならず,小腸パイエル板などの粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue: MALT)内にも細菌が共生しており,生体の機能に影響を与える.食事成分も,腸内細菌叢の構成に影響を与え,生体の消化管粘膜バリアに始まり粘膜免疫系だけではなく全身系の免疫学的状態にも影響を及ぼす.共生微生物,生体の免疫系,食事により摂取された成分は相互に関係することにより生体機能に影響し,さまざまな疾患病態にも関連している.特に,分子に付加される糖鎖や細菌から産生される短鎖脂肪酸などの代謝物が免疫シグナルをはじめとする細胞―微生物間のメディエーターとして働くとともに,腸管に共生する微生物叢の構成に影響を与え,生体機能の制御に大きな役割を与えている.
著者
渡辺 幸一
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.129-139, 2016

ビフィズス菌は,主にヒトや動物の腸管から分離されるグラム陽性の多形性桿菌であり,系統分類学的には<i>Actinobacteria</i>門の<i>Bifidobacteriaceae</i>科に属する6属58菌種で構成される.なかでも<i>Bifidobacterium</i>属は,50菌種10亜種で構成され,その中心を占めている.微生物の分類体系は,菌種同定や分類法の技術の進歩と密接な関係にある.DNA-DNA相同性試験(DDH)法は,1960年代から用いられ,現在でも菌種を区別するための最も重要な基準である.一方,16S rRNA遺伝子配列データに基づく系統解析は,煩雑な操作と熟練を必要とするDDHに替わる菌種分類の標準法として位置づけられている.しかしながら,16S rRNA遺伝子単独では菌種の分類同定が不可能である菌種グループが数多く存在する.近年,ハウスキーピング遺伝子の塩基配列に基づく多相解析法[Multilocus Sequence Analysis(MLSA)あるいはTyping(MLST)]および全ゲノム塩基配列の相同性(ANI)など,DDH法を補完・代替する分類方法が開発されている.ここでは,ビフィズス菌の分類法の現状と動向について解説する.<br>
著者
平山 洋佑 遠藤 明仁
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.17-28, 2016 (Released:2016-02-18)
参考文献数
41
被引用文献数
5

乳酸菌はプロバイオティクスのみならず,発酵食品スターター,サイレージのスターター等,産業的に利用される場面が多いため,幅広い研究が行われている.乳酸菌分類は16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統解析が利用されて以降,大きな変化を遂げている.新菌種として提案される乳酸菌の数は増え続け,現在は35菌属300菌種以上が乳酸菌として登録されている.これらの菌種の中には従来表現性状により分類されていた時とは異なる菌属に再分類されている菌種も見られる.このような分類の急激な変化は,多くの研究者に少なからぬ混乱を生じている.そこで本総説では,現在の乳酸菌分類状況について概説する.また,2014年に国際細菌分類命名委員会のビフィズス菌・乳酸菌分類小委員会が「Bifidobacterium, Lactobacillus及びその類縁菌の新菌種提唱に推奨される最少基準」を発表したので,これについても本総説で紹介する.
著者
太田 敏子
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.137-143, 2019 (Released:2019-07-29)
参考文献数
24

人間は1 Gで進化した高等生物である.その人間が0 Gの宇宙環境に曝されると,とりわけヒトには大きな生理的変化が生じる.その変化はどのようなものか,その対応はどうしたらよいのか,これまでに蓄積されてきた知見を紹介する.宇宙環境で起きる人体の生理的変化は,加齢と同じような現象(起立性低血圧,骨量減少,筋萎縮,心肺機能低下,免疫低下など)が急速に進むという特徴をもつ.これらのメカニズムの解明は,地上の高齢者の医療に対する新たな治療法の開発に貢献する.さらに,宇宙生活の概略を説明し,各種の宇宙技術は地上の社会生活に大きく寄与していることを紹介する.
著者
藤澤 倫彦
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.177-190, 2016 (Released:2016-10-27)
参考文献数
45
被引用文献数
1

現在,細菌(原核生物)では,Archaeaドメインが5つの門(phylum),Bacteriaドメインが30の門に分類されているが,このうちヒトの腸内に見出されるのは,Archaeaドメインの1門とBacteriaドメインの11門であり,なかでもBacteriaドメインのFirmicutes,Bacteroidetes,Actinobacteria,Proteobacteriaの4門だけで菌叢のほとんどを占めるとされている.ところで,ヒトの腸内には1,000種以上にもおよぶ多種多様な細菌が生息・存在しているといわれている. 近年,ヒトの腸管に生息・存在するBacteriaドメインの957菌種およびArchaeaドメインの8菌種が示された.本稿ではこの報告を基にBacteriaドメインの2門,すなわちFirmicutes門およびActinobacteria門を中心に,グラム陽性細菌,とりわけ主な偏性嫌気性グラム陽性細菌について新菌属,新菌種の提案や学名の変更など,分類の現状に触れてみる.
著者
Keith A. GARLEB Maureen K. SNOWDEN Bryan W. WOLF JoMay CHOW
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.43-54, 2002 (Released:2010-06-28)
参考文献数
119

フラクトオリゴ糖は医療用食品に理想的な発酵性食物繊維源である.医療用食品の典型は液体であり, 多くはチューブを介して患者に給与される.チューブから給与される液体医療用食品は粘度が低くなければならない.フラクトオリゴ糖は可溶性であり, 栄養チューブに詰まらず, 製剤の粘度を大きく上昇させることがない.医療用食品にフラクトオリゴ糖を使用する理論的根拠として腸管機能の正常化, 大腸完全性の維持, 腸管定着抵抗性の回復, 窒素排泄経路の変化, カルシウム吸収の改善が挙げられる.腸管機能の正常化とは, 医療用食品を給与されている患者での便秘または下痢の治療もしくは予防を指す.フラクトオリゴ糖は結腸内の細菌による嫌気性発酵と短鎖脂肪酸の産生を介して大腸萎縮の予防や遠位潰瘍性大腸炎の治療に有用と思われる.またビフィドバクテリウム属の増殖を選択的に助ける, またはある種の病原微生物の増殖を促進しない環境 (例: 短鎖脂肪酸濃度の上昇, pHの低下) を作ることから, 腸管定着抵抗性の回復に役立っ.フラクトオリゴ糖の嫌気性発酵では細菌細胞の成長と結腸pHの低下が起こるため, 窒素の排泄経路が尿から糞に移ると考えられる.カルシウム吸収が改善されるのは短鎖脂肪酸吸収と大腸pH低下が関与するメカニズムを介するためと思われる.総合すると, 液体製剤との適合性と患者に対する数多くの生理的利点が, 医療用食品にフラクトオリゴ糖を使用する十分な根拠となる.
著者
瀧口 隆一 望月 英輔 鈴木 豊 中島 一郎 辮野 義己
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-17, 1997 (Released:2010-06-28)
参考文献数
18

Lactobacillus acidophilus SBT2062およびBifidobacterium longum SBT2928の人工消化液耐性試験, および腸内有害細菌 (Escherichia coliおよびClostridium perfringens) との混合培養試験を実施した.人工胃液耐性試験では, pH4, 37℃3時間保持においてB.longum SBT2928の菌数は1/10に低下したが, L.acidophilus SBT2062は初期の菌数を維持した.しかし, 人工腸液耐性試験では両菌とも高い耐性が認められた.また, 腸内有害細菌との混合培養では, L.acidophilus SBT2062およびB.longum SBT2928の初発培養菌数が105cfu/gにおいて有害細菌は完全に抑制され, さらに104cfu/gに低下しても強い抑制効果が認められた.よって, L.acidophilus SBT2062およびB.longum SBT2928は, 摂取後も生菌の状態で腸内に到達し, そこで腸内有害細菌を抑制する可能性が認められた.
著者
内藤 裕二 髙木 智久 鈴木 重德 福家 暢夫
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-11, 2020 (Released:2020-01-31)
参考文献数
45

京都の伝統的な漬物である「すぐき」から分離された乳酸産生菌Lactobacillus brevis KB290が,ビタミンA併用投与によりマウス腸炎モデルの腸炎発症進展を抑制することを明らかにしてきた.この腸炎抑制効果には,大腸粘膜において炎症抑制的に作用するCD11c+マクロファージと炎症促進的に作用するCD103−樹状細胞の比率を増加させることが関与していた.さらに,Lactobacillus brevis KB290とβ-カロテン併用療法による下痢症状に対する有効性を検証するために,下痢型過敏性腸症候群様症状の日本人を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施したところ,排便頻度が低下し,腹部症状による労働生産性の低下を改善した.また,糞便細菌叢の解析でBifidobacterium属が有意に増加し,Clostridium属が有意に減少することが示された.
著者
浅野 敏彦 湯浅 一博 近藤 亮子 伊勢 直躬 竹縄 誠之 飯野 久和
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-9, 1997 (Released:2010-06-28)
参考文献数
20
被引用文献数
2

便秘傾向の成人女性を対象にしてグルコン酸カルシウム (GCA) の便性および菌叢に及ぼす影響について検討した.GCA摂取期間はGCAを含有するオレンジジュースを飲用し, 対照期間にはGCAを含有しない同じ組成のジュースを飲用させた.最初の試験として, GCAを1日6.0g (グルコン酸の重量として) 摂取した場合の糞便内菌叢, 有機酸および腐敗物質の分析を9名で, 排便に関するアンケート調査を107名で実施した.その結果, GCA摂取期間中のBifidobacteriumの菌数および排便回数は有意に増加したが, 水分含量, pH, 有機酸, 腐敗物質では顕著な変化は見られなかった.次に最小有効摂取量を求めるため, 糞便内菌叢については1日の摂取量を1.5g, 2.0g, 3.0gの順に設定して15名で, 排便に関するアンケート調査は1.5gおよび3.0gの順に摂取する群と, 2.0gおよび4.0gの順に摂取する群の各37名の2群に分けて実施した.その結果, 2.0g摂取以上でBifidobacteriumの菌数の有意な増加が見られ, 1.5g以上の摂取で排便回数は有意に増加し, 便の形状, 色でも一部で有意差が見られた.
著者
菅原 宏祐
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.179-185, 2017 (Released:2017-11-03)
参考文献数
24

近年の研究からヒトの腸内には固有の腸内細菌種が生息しており,腸内菌叢として様々な疾病と関連することが示されている.Bifidobacterium属細菌は,ヒト腸内菌叢の主要構成菌属であり,有益な生理機能が多数報告されている.一方,Bifidobacterium属細菌には多くの菌種が知られており,ヒト常在性ビフィズス菌(Human-Residential Bifidobacteria, HRB)とそれ以外のビフィズス菌(non-HRB)に分けることができる.筆者らは HRBの特徴とその生理機能の機序解析に焦点を当てた研究を行った.HRBとnon-HRBの本質的な差異として葉酸産生能を比較した結果,HRBはnon-HRBと比較して葉酸産生能が高いことを見出した.さらに,HRBに属するBifidobacterium longum subsp. longum BB536における生理機能の分子機構をメタボローム, メタトランスクリプトーム,メタゲノム解析からなるマルチオミクス解析を用いて解析した.その結果,B. longum BB536は腸内細菌との相互作用により腸内代謝産物へ影響を及ぼすことが示された.これらの結果から,ヒト常在性ビフィズス菌は直接的に代謝産物を産生するだけではなく,腸内細菌種の構成および活性に作用することで腸内環境を変化させ,宿主の健康状態に影響を与える可能性が考えられた.
著者
山野 俊彦 福島 洋一 高田 麻実子 飯野 久和
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.39-46, 2005 (Released:2005-07-05)
参考文献数
44

健康な成人男女27名を対象に,Lactobacillus johnsonii La1株を含む発酵乳の摂取がヒト血中貪食細胞活性に与える影響について検討した.試験食として L. johnsonii La1株(1×109 cfu /120 g)を含む発酵乳を,プラセボ食として L. johnsonii La1株を含まない発酵乳を用い,いずれか一方の発酵乳を1日1カップ120 gを21日間連続摂取させる無作為二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験を実施した.摂取第I期において,試験食を摂取した被験者の摂取21日目における血中貪食細胞活性は,試験食摂取前と比較して有意に上昇し (p<0.001),その活性は,同様に活性の上昇が認められたプラセボ食を摂取した被験者の活性よりも有意に高値となった(p<0.05).29日間のウォッシュアウト期間後においても活性の高い状態は維持された.摂取第II期において,試験食を摂取した被験者の血中貪食細胞活性は,摂取前と比較して有意に上昇したが(p<0.05),プラセボ食を摂取した被験者の活性に有意な上昇は認められなかった.また健康な成人男女10名を対象に, L. johnsonii La1株を含む発酵乳を摂取目安量の3倍量である1日3カップ360 gを14日間連続摂取させたところ,試験食摂取後の血中貪食細胞活性の有意な上昇が認められた(p<0.005).自覚症状,医師による検診,血液検査ならびに尿検査において試験食摂取による健康状態に異常が認められた者はなく,試験食の安全性が確認された.以上の結果から, L. johnsonii La1株を含む発酵乳の摂取は,血中貪食細胞を活性化してヒト自然免疫を賦活する作用が認められ,また過剰量の摂取において安全性に問題のないことが示された.
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.179-192, 2005 (Released:2005-08-31)
参考文献数
90
被引用文献数
6

皮膚,上気道,口腔,咽頭,胃,腸管,膣,尿道などには,それぞれ部位によって特徴的な常在細菌がすみつき,常在フローラを構成している.多くの常在菌は潜在的の病原性を有し,何らかの原因でこの平衡関係が破れると,いわゆる“日和見感染”を惹き起こす.平衡関係の乱れは,抗菌物質やステロイドホルモンの投与,外科手術,ストレス,糖尿病,過労,老齢などが原因となる.20世紀後半,腸内フローラの研究は飛躍的に進展し,腸内フローラの包括的培養法の開発,腸内嫌気性菌の菌種の分類・同定法,微生物生態学的法則,宿主の健康と疾病における役割などの研究が系統的に行なわれ,腸内細菌学が樹立された.腸内フローラ研究の発展がきっかけとなり,機能性食品(プロバイオティクス,プレバイオティクス,バイオジェニックス)が誕生した.1980年代,分子生物学的手法が腸内フローラの研究にも導入されたが,いまなお検討段階にある.これからの腸内フローラの研究として,以下が重要課題として挙げられる.(1)腸内に少数しか存在しない菌種を含めた腸内フローラの包括的分子生物学的定性定量解析法の一刻も早い開発が望まれる.さらに,分子生物学的手法によって認識される生息しているが培養困難な菌種の培養可能とし,その分類学的位置づけと生化学・病理学的性状の解明.(2)腸内フローラを構成する主要菌種の生化学的性状と細菌・宿主細胞・食餌成分間の相互関係.(3) 免疫刺激,解毒作用などを含む腸内フローラの機能の研究が推進されれば,機能性食品が生活習慣病・免疫低下・炎症性腸疾患などの予防・治療のために栄養補助食品および代替医療としての利用が可能となる.(4)このような研究を達成するには,1958~1992年に私が理化学研究所(理研)で行なったように,産学の共同研究組織をつくり,研究者の差別化を排除し自由かつ協調的に結集し,学界が中心となって研究を推進させることが望まれる.