著者
梅崎 昌裕 須田 亙 高安 伶奈 平山 和宏 冨塚 江利子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

人類集団のなかには、タンパク摂取量が極端に少ないにもかかわらず、タンパク欠乏にともなう臨床症状をしめさないものがあることが知られている。これは、「低タンパク適応」と呼ばれ、代表者のグループは特に腸内細菌叢の役割に着目しながら、そのメカニズム解明を目指してきた。本申請課題では、これまで研究をすすめてきたパプアニューギニア高地に加えて、タンパク摂取量が少ないことが想定される2つの地域を対象に加えることにより、「低タンパク適応」メカニズムの固有性と普遍性を明らかにする。
著者
井出 留美 伊藤 喜久治 平山 和宏 武藤 志真子
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.205-214, 2005 (Released:2006-08-04)
参考文献数
8
被引用文献数
3 2

穀物を加工して栄養素を強化したシリアルには様々な種類があり, 玄米シリアルのようにビタミン・ミネラルをバランスよく含むものや, 小麦ふすまシリアルのように食物繊維が豊富なものなどがある。過去の研究で, 全粒穀物シリアルを摂取することにより, 肌状態, 特に吹き出物や皮膚の赤みに良い影響を及ぼしたとするものがあるが, シリアルの成分の何が肌状態の改善に寄与しているかは, 明らかになっていない。また, 他の食品成分で肌状態が改善されたとする研究もあるが, タンパク質やカロテノイドに関するものなどであり, ビタミン・ミネラル全般や食物繊維に関する研究は少ない。今回は, シリアルの成分のうち, 2大特長とも言える, (1) ビタミン・ミネラルのバランス, (2) 食物繊維のどちらの要素がより皮膚の健康に寄与するかを検証するため, 朝食欠食の習慣がある22~35歳の女性21名について, それぞれ上記2つの特徴を持つ全粒穀物シリアルの, 皮膚に及ぼす影響について調べた。21名を3群に分け, 1群はコントロール群とし, その他は, ビタミン・ミネラルのバランスに優れた玄米シリアル群と, 食物繊維を豊富に含む小麦ふすまシリアル群とに二分した。実験期間は全部で6週間とした。最初の2週間は, どの群も普段通りの食生活とし, 食物繊維の効果を確認するため, 発酵食品全般や, 供試シリアル以外のシリアルは摂取しないように指導した。次の2週間は, コントロール群は普段通りの食事, それ以外の2群には, 全粒穀物シリアル (玄米シリアル, もしくは小麦ふすまシリアル) 40gを, 朝1回と, 昼か夜どちらかの1回, 計1日に2食のシリアルを毎日摂取させ, それまで摂っていた炭水化物をシリアルに置き換えるよう指導した。最後の2週間は, 3群とも, 発酵食品や食物繊維の多い食品を摂らずに, 普段通りの食生活とし, シリアルは摂取しないよう指導した。 (株) エフシージー総合研究所において, 2週間毎に測定した項目は次の通りである。体重, BMI, 体脂肪率, 皮膚水分量 (電気伝導度型SKICON-200), 皮膚弾力 (キュートメーター), 皮脂量 (透過光比率型セブメーター), 皮膚拡大写真撮影 (メディカルニッコール), 皮膚キメ写真, 排便回数, 美容専門家による視診触診, 皮膚状態・体調に関するアンケート。いずれの顔面皮膚計測も, 同研究室の23℃, 50% Room Humidityの恒温恒湿室にて15分間座位安静後実施した。また, 計42日間の食事記録 (シリアル摂取前14日, 摂取中14日, 摂取中止後14日)。食事記録は, 栄養計算ソフト「Basic4」で解析し集計した。なお, 本試験は, ヘルシンキ宣言に基づきその原則を遵守し, 被験者には試験目的を説明して同意が得られた上で実施した。その結果, 玄米シリアルグループ・小麦ふすまシリアルグループとも, 全期間を通して, 一日一回程度の定期的な排便回数を保った。この間の栄養素摂取状態は, 小麦ふすまシリアルグループは, 食物繊維とビタミンB1, B2と葉酸が非摂取期間に比べて有意に高い値を示した。玄米シリアルグループは, 主にカルシウムと鉄, ビタミンA・B1・B2, C, ナイアシン, ビタミンE, 食物繊維など, バランスよくビタミン・ミネラルと食物繊維の摂取量が有意に増加した。Fig.1と2は, それぞれ右目尻と右頬の水分量の変化を示しており, 玄米シリアル群で, 摂取期間の2-4週に, 水分量が増えていることがわかる。また, Fig.3は, 皮膚の弾力性の変化を示したもので, 有意差はないものの, やはり玄米シリアル群で, 摂取期間である2-4週に, 皮膚の弾力性が増えていることがわかる。Fig.4a~dは玄米シリアルを摂取した30代女性の皮膚のキメ写真である (キメとは, 皮膚の表面に広がる網目のような凹凸のこと。高い部分の “皮丘”, 皮丘の間を溝のように走る “皮溝”, “毛孔” で形づくられる。均一に整った格子状の美しい起伏が続く状態が, キメの細かい皮膚と言うことができる)。Fig.4aはウォッシュアウト前, Fig.4bはシリアル摂取前, Fig.4cはシリアル2週間摂取後, Fig.4dはシリアル摂取中止後2週間で, 摂取2週間後に皮膚のキメ, すなわち皮溝と皮丘の織り成す起伏が整ってきている。以下にシリアルによる今回の試験成績をまとめる。ビタミン・ミネラルと食物繊維のバランスに優れた玄米シリアルは, 肌に問題のある若年女性の肌状態を改善させた。食物繊維の豊富な小麦ふすまシリアルは, 肌状態の改善に寄与しなかった。シリアルは, 若年女性の栄養素摂取状態を良くするのに寄与した。特にカルシウムや鉄, ビタミンA・B1・B2, C, ナイアシン, ビタミンE, 食物繊維など, 皮膚の健康にとって大切な栄養素の摂取増加に寄与した。
著者
井出 留美 伊藤 喜久治 平山 和宏 武藤 志真子
出版者
日本食生活学会
雑誌
日本食生活学会誌 = Journal for the integrated study of dietary habits (ISSN:13469770)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.205-214, 2005-12-30
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

穀物を加工して栄養素を強化したシリアルには様々な種類があり, 玄米シリアルのようにビタミン・ミネラルをバランスよく含むものや, 小麦ふすまシリアルのように食物繊維が豊富なものなどがある。過去の研究で, 全粒穀物シリアルを摂取することにより, 肌状態, 特に吹き出物や皮膚の赤みに良い影響を及ぼしたとするものがあるが, シリアルの成分の何が肌状態の改善に寄与しているかは, 明らかになっていない。また, 他の食品成分で肌状態が改善されたとする研究もあるが, タンパク質やカロテノイドに関するものなどであり, ビタミン・ミネラル全般や食物繊維に関する研究は少ない。今回は, シリアルの成分のうち, 2大特長とも言える, (1) ビタミン・ミネラルのバランス, (2) 食物繊維のどちらの要素がより皮膚の健康に寄与するかを検証するため, 朝食欠食の習慣がある22~35歳の女性21名について, それぞれ上記2つの特徴を持つ全粒穀物シリアルの, 皮膚に及ぼす影響について調べた。<br>21名を3群に分け, 1群はコントロール群とし, その他は, ビタミン・ミネラルのバランスに優れた玄米シリアル群と, 食物繊維を豊富に含む小麦ふすまシリアル群とに二分した。実験期間は全部で6週間とした。最初の2週間は, どの群も普段通りの食生活とし, 食物繊維の効果を確認するため, 発酵食品全般や, 供試シリアル以外のシリアルは摂取しないように指導した。次の2週間は, コントロール群は普段通りの食事, それ以外の2群には, 全粒穀物シリアル (玄米シリアル, もしくは小麦ふすまシリアル) 40gを, 朝1回と, 昼か夜どちらかの1回, 計1日に2食のシリアルを毎日摂取させ, それまで摂っていた炭水化物をシリアルに置き換えるよう指導した。最後の2週間は, 3群とも, 発酵食品や食物繊維の多い食品を摂らずに, 普段通りの食生活とし, シリアルは摂取しないよう指導した。 (株) エフシージー総合研究所において, 2週間毎に測定した項目は次の通りである。体重, BMI, 体脂肪率, 皮膚水分量 (電気伝導度型SKICON-200), 皮膚弾力 (キュートメーター), 皮脂量 (透過光比率型セブメーター), 皮膚拡大写真撮影 (メディカルニッコール), 皮膚キメ写真, 排便回数, 美容専門家による視診触診, 皮膚状態・体調に関するアンケート。いずれの顔面皮膚計測も, 同研究室の23℃, 50% Room Humidityの恒温恒湿室にて15分間座位安静後実施した。また, 計42日間の食事記録 (シリアル摂取前14日, 摂取中14日, 摂取中止後14日)。食事記録は, 栄養計算ソフト「Basic4」で解析し集計した。<br>なお, 本試験は, ヘルシンキ宣言に基づきその原則を遵守し, 被験者には試験目的を説明して同意が得られた上で実施した。<br>その結果, 玄米シリアルグループ・小麦ふすまシリアルグループとも, 全期間を通して, 一日一回程度の定期的な排便回数を保った。この間の栄養素摂取状態は, 小麦ふすまシリアルグループは, 食物繊維とビタミンB<sub>1</sub>, B<sub>2</sub>と葉酸が非摂取期間に比べて有意に高い値を示した。玄米シリアルグループは, 主にカルシウムと鉄, ビタミンA・B<sub>1</sub>・B<sub>2</sub>, C, ナイアシン, ビタミンE, 食物繊維など, バランスよくビタミン・ミネラルと食物繊維の摂取量が有意に増加した。Fig.1と2は, それぞれ右目尻と右頬の水分量の変化を示しており, 玄米シリアル群で, 摂取期間の2-4週に, 水分量が増えていることがわかる。また, Fig.3は, 皮膚の弾力性の変化を示したもので, 有意差はないものの, やはり玄米シリアル群で, 摂取期間である2-4週に, 皮膚の弾力性が増えていることがわかる。Fig.4a~dは玄米シリアルを摂取した30代女性の皮膚のキメ写真である (キメとは, 皮膚の表面に広がる網目のような凹凸のこと。高い部分の &ldquo;皮丘&rdquo;, 皮丘の間を溝のように走る &ldquo;皮溝&rdquo;, &ldquo;毛孔&rdquo; で形づくられる。均一に整った格子状の美しい起伏が続く状態が, キメの細かい皮膚と言うことができる)。Fig.4aはウォッシュアウト前, Fig.4bはシリアル摂取前, Fig.4cはシリアル2週間摂取後, Fig.4dはシリアル摂取中止後2週間で, 摂取2週間後に皮膚のキメ, すなわち皮溝と皮丘の織り成す起伏が整ってきている。<br>以下にシリアルによる今回の試験成績をまとめる。ビタミン・ミネラルと食物繊維のバランスに優れた玄米シリアルは, 肌に問題のある若年女性の肌状態を改善させた。食物繊維の豊富な小麦ふすまシリアルは, 肌状態の改善に寄与しなかった。シリアルは, 若年女性の栄養素摂取状態を良くするのに寄与した。特にカルシウムや鉄, ビタミンA・B<sub>1</sub>・B<sub>2</sub>, C, ナイアシン, ビタミンE, 食物繊維など, 皮膚の健康にとって大切な栄養素の摂取増加に寄与した。
著者
永岡 謙太郎 平山 和宏 辨野 義己
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

私たちの健康維持には腸内細菌叢が深く関わっています。本研究では、マウスを用いた実験により、母乳中のアミノ酸代謝から産生される過酸化水素が乳子の腸内細菌叢の形成に関与していることを明らかにしました。過酸化水素は乳子の消化管内において外部から侵入してくる様々な細菌に対して門番の様な役割を担っており、乳酸菌など過酸化水素に抵抗性を示す細菌が優先的に腸内に定着していました。本研究結果は、母乳中に含まれる過酸化水素の重要性を示すとともに、アミノ酸や活性酸素による腸内細菌制御方法の開発につながることが期待されます。
著者
平山 和宏
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.151-162, 2008 (Released:2008-08-08)
参考文献数
1

細菌(原核生物)の分類学は,1980年代中頃から用いられるようになった16S rRNAをコードする遺伝子(16S rDNA)の塩基配列を基とした系統分類により劇的に変化した.現在の分類学によると,ヒトの口腔から大腸にいたる消化管内に生息する菌は,Archaeaの2門のうちの1門,すなわちEuryarchaeota門とBacteriaの26門のうちの8門,すなわちActinobacteria,Bacteroidetes,Fibrobacteres,Firmicutes,Fusobacteria,Proteobacteria,Spirochaetes,Tenericutesの各門に分布している.これらの消化管内に生息する菌およびその近縁の菌について,現在の分類学における位置をまとめた.
著者
平山 和宏
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.17-23, 2005 (Released:2005-07-05)
参考文献数
86
被引用文献数
4

近年大豆イソフラボン類の健康増進効果や疾病予防効果が注目されている.大豆イソフラボン類はエストロジェン様活性を示し,乳癌や前立腺癌,骨粗しょう症,高コレステロール血症,心疾患などに予防効果があることが示されている.大豆に含まれるイソフラボン類は主にgenisteinとdaidzeinであるが,発酵食品を除けばそのほとんどは配糖体として存在している.大豆イソフラボン類は配糖体のままでは腸管から吸収されないことが知られており,その吸収には加水分解によりアグリコンとなることが必要である.加水分解には腸内フローラの β-グルコシダーゼの活性も重要な役割を果たしていると考えられる.また,吸収された大豆イソフラボン類は肝臓で抱合されて胆汁中へと排出されるが,腸管内で脱抱合されて再びアグリコンとなって腸肝循環をする.この脱抱合に腸内フローラの β-グルクロニダーゼが関わっている.大腸に達した大豆イソフラボン類はさらに代謝されている.たとえばdaidzeinはエストロゲン様活性や抗酸化作用が強いequolと活性のない O-desmethylangolensinに代謝されるが,これらの代謝には腸内フローラの存在が必須である.daidzeinからのequolの産生には非常に大きな個体差があることが知られており,その個体差は腸内フローラの違いによるものと考えられている.このことは,同様に大豆イソフラボン類を摂取しても腸内フローラの構成の差により得られる保健効果が個体によって異なる可能性を示している.しかし,これらの代謝を担う菌種や菌株を分離,同定した報告は少なく,今後の研究が期待される.