著者
下村 祐介 南條 千人 熊崎 大輔 大工谷 新一 高野 吉朗
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】 運動プログラムを立案する際に筋力増強訓練と有酸素運動を組み合わせることが多い。先行研究では血液検査を用い、筋力増強訓練後に有酸素運動を実施した方が筋力強化に対し効果的であるという報告もある。今回の研究目的は、筋力増強訓練と有酸素運動の実施順序を変える事により、筋力および心肺機能に対してどのような効果の違いを明らかにする事とした。 【対象者と方法】 対象は、研究の説明を受け、同意書に署名した実験上支障が無いと判断された成人男子10名(21.1±0.3 歳)20脚である。運動期間は4週間とし、運動期間の間は2ヶ月間の無運動期間を設けた。有酸素運動(Aerobics training以下、AT)後に筋力増強訓練(Muscle training以下、MT)を行った期間をAM期とし、MT後にATを行った期間をMA期とした。MTは、下肢筋力強化マシンを用い、膝伸展運動を実施した。運動負荷量は、膝関節60度屈曲位での等尺性収縮にて測定した最大膝伸展筋力値(100%MVC)の70%とした。ATは自転車エルゴメーターを用い、運動強度はカルボーネン法を使用し、目標心拍数を50%に設定した。筋力増強の効果判定は大腿周径、最大膝伸展筋力を測定すると同時に、表面筋電図にて大腿直筋、外側広筋の筋積分値(IEMG)を測定した。ATの効果判定はトレッドミルを使用し、呼吸代謝モニターにて最高酸素摂取量(peak VO2)を測定し、AT Windowデータ解析ソフトを用い解析した。統計解析は、大腿周径、最大膝伸展筋力、IEMG、peak VO2についてAM期、MA期での運動実施期間の開始時と終了時の値を各々対応のあるt-検定にて比較した。 【結果】 大腿周径及び最高酸素摂取量はAM期、MA期とも有意差を認めなかった。IEMGは、AM期、MA期各々285.6±171.5V・Sから316.0±248.9V・S、318.8±174.5V・Sから347.3±196.1V・Sと増加したが有意差は認めなかった。膝伸展筋力はAM期に232.3±46.4Nmから209.9±46.0Nmへと低下傾向を認め、MA期は221.7±54.1Nmから276.2+53.8Nmへと有意な増加を認めた(p<0.01)。 【考察】 心肺機能はAM期、MA期ともに有意な効果は認めなかったが、筋力はMA期で増強が認められた。今回の筋力増強は大腿周径に変化はなく、IEMGが増加傾向を示したことから、運動単位動員数の増加によるものであると考えられた。先行研究では、筋力増強訓練の前に有酸素運動を行うことで、筋力増強に必要な成長ホルモンの分泌を抑制するという報告もあり、今回AM期と比較してMA期に筋力増強効果が得られたと考えられた。
著者
和田 治 建内 宏重 市橋 則明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.9, 2009 (Released:2009-09-11)

【目的】 身体回旋動作は,日常生活やスポーツにおいて頻回に用いられる。身体回旋動作では,骨盤や脊柱に回旋以外の運動が運動連鎖として生じるとともに,回旋側に重心が移動すると考えられている。したがって,重心位置に近い骨盤や脊柱の運動連鎖は重心移動に大きな影響を与えることが予想される。しかし,身体回旋動作における骨盤や脊柱の運動と重心移動の関連性に関する報告は認められない。本研究の目的は,身体回旋動作における骨盤および脊柱の運動連鎖と側方重心移動量の関連性を明らかにすることである。 【方法】 対象は,書面にて本研究への参加に同意の得られた健常成人男性17名(23.3±2.9歳, 全例右利き)とした。測定課題は立位での身体回旋動作とした。開始肢位は,両足部踵骨中心間を対象者の足長とし,足角は10゜に規定した。また,動作中は両手を腹部の前で組ませた。対象者には,3秒間の静止立位の後,3秒間で後方へ身体を回旋し3秒間で正面に戻る動作を左右交互に3回ずつ行わせ、左回旋3回の平均値を解析に用いた。計測には三次元動作解析装置 (VICON社製)を用い,身体回旋動作時の側方重心移動量(+; 回旋側)を算出し,各被験者の足長で正規化した。次に,対象者の側方重心移動量の平均値を求め,その平均値より側方重心移動の大きい群(以下; L群)と小さい群(以下; S群)に分けた。また,動作時の骨盤と脊柱(胸郭と骨盤の角度変化量の差)の矢状面/前額面/水平面での角度を求め,各々について静止立位時から最大身体回旋時の角度変化量を算出した。対応のないt検定を用いて,骨盤および脊柱の角度変化量を2群間で比較した。有意水準は5%とした。 【結果】 身体回旋動作時の側方重心移動量は平均11.3±12.7%であり,L群は19.2±11.6%,S群は2.5±6.9%であった。骨盤の運動では,L群はS群と比較して,前傾角度変化量が有意に大きかった(L群;3.0±3.9°, S群;-1.1±3.3°, p < 0.05)。前額面・水平面では有意な差は認められなかった。また脊柱の運動では,L群はS群と比較し,屈曲角度変化量が有意に小さく(L群;1.4±6.2°,S群;8.5±4.5°, p < 0.05),回旋角度変化量が有意に大きい結果となった(L群;34.9±4.8°, S群;28.5±7.4°, p < 0.05)。前額面では有意な差は認められなかった。 【考察】 今回の結果より,身体回旋動作時に側方重心移動量の大きい群では,小さい群と比較して,脊柱回旋角度が大きく、同時に骨盤前傾が大きく脊柱屈曲が少ないことが明らかとなった。回旋側への大きな重心移動を伴う回旋動作では,運動連鎖として,骨盤前傾が脊柱屈曲を減少させ回旋可動性を増大させていると考えられる。一方,骨盤後傾を伴う回旋動作では,回旋に伴う脊柱屈曲の増加により脊柱への力学的ストレスが増大し,障害発生につながる可能性があると考えられる。以上より,身体回旋動作を伴う動作において回旋側への重心移動を促すためには,骨盤を適度な前傾位で保持し,脊柱の屈曲を少なくしながら回旋させることが重要であると考えられる。
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
大工谷 新一 小野 淳子 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.7, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】 筆者らはスポーツ外傷後の神経筋機能を評価する目的で,理学療法評価に電気生理学的検査を取り入れている.今回,スポーツ動作中に足関節内反捻挫を受傷したバスケットボール選手に対する電気生理学的検査で特異的な所見を得たので報告する.【対象】 対象は本件に関する説明に同意を得た21歳の男子大学バスケットボール選手であった.診断は左足関節内反捻挫(II度損傷)であった.現症としては,応急処置が奏功した結果,腫脹と疼痛,可動域制限はそれぞれ軽度であった.筋力検査は疼痛のため不可能であった.ADLレベルは,歩行は疼痛自制内で可能であるものの,段差昇降には時間を要し,走行は不可であった.【方法】 電気生理学的検査として,ヒラメ筋からH反射を導出した.具体的には,筋電計Viking Questを用いて,安静腹臥位で足尖をベッド外へ出した状態の被験者の膝窩部脛骨神経に電気刺激を16回加えて,H反射を記録した.電気刺激強度は,振幅感度を500μV/divとした画面上でM波出現が同定できる最小強度とした.H反射の記録後,同部位に最大上刺激を加え,最大M波を記録した.H反射振幅とM波振幅の平均値を求めた後に各々の比(振幅H/M比)を算出して,受傷前,受傷後3日,受傷後1ヶ月の振幅H/M比を比較した.【結果】 受傷前,受傷直後,受傷後1ヶ月の振幅H/M比は,非受傷側で0.17,0.88,0.21,受傷側では0.62,1.23,0.58であり,受傷直後に顕著に増大していた.また,得られた波形の外観上の特徴として,受傷直後の受傷側には長潜時反射様の律動的波形がH反射出現後に記録された.【考察】 振幅H/M比は脊髄神経機能の興奮性を示す指標である.また,下肢における長潜時反射は脳幹または大脳皮質の興奮性を表す指標となる.本症例では,受傷直後に両側についてヒラメ筋に関連する脊髄神経機能の興奮性に著しい増大が認められた.また,通常は安静時には導出されない長潜時反射も受傷直後の受傷側において記録された.これより,本症例においては足関節内反捻挫の受傷によって,一過性の脊髄神経機能の興奮性の増大が両側性に認められ,受傷側においては脳幹より上位の神経機能の興奮性も増大していたことが明らかとなった.この機序としては,受傷そのものによる脊髄神経機能への影響と,受傷した状態でADLに適応する過程で脊髄神経機能に及ぼされる影響の2つの観点から考慮する必要がある.受傷そのものによる脊髄神経機能への影響としては,疼痛を回避するために脊髄反射が亢進していた可能性や腫脹による関節内圧の変化などが考えられ, ADLに適応していく過程で脊髄神経機能に及ぼされた影響としては,受傷直後の不安定感や疼痛を回避するために,ヒラメ筋などの足関節周囲筋群の緊張性収縮を常時亢進させた状態で姿勢保持や動作遂行を繰り返していた影響があった可能性が推察された.