著者
渡邊 裕 新井 伸征 青柳 陽一郎 加賀谷 斉 菊谷 武 小城 明子 柴本 勇 清水 充子 中山 剛志 西脇 恵子 野本 たかと 平岡 崇 深田 順子 古屋 純一 松尾 浩一郎 山本 五弥子 山本 敏之 花山 耕三
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-89, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
11

【目的】摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床および研究は,依然として未知の事柄が多く,根拠が確立されていない知見も多い.今後さらに摂食嚥下リハビリテーションの分野が発展していくためには,正しい手順を踏んだ研究が行われ,それから得られた知見を公開していく必要がある.本稿の目的は臨床家が正しい知見を導くために,研究報告に関するガイドラインを紹介し,論文作成とそれに必要な情報を収集するための資料を提供することとした.【方法】日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌に投稿される論文は症例報告,ケースコントロール研究,コホート研究,横断研究が多いことから,本稿では症例報告に関するCase report(CARE)ガイドラインと,The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology Statement(STROBE 声明)において作成された,観察研究の報告において記載すべき項目のチェックリストについて紹介した.【結果】CAREガイドラインについては,症例報告の正確性,透明性,および有用性を高めるために作成された13 項目のチェックリストを説明した.STROBE 声明については研究報告の質向上のために作成された,観察研究の報告において記載すべき22 項目のチェックリストを解説した.【結論】紹介した2 つのガイドラインで推奨されている項目をすべて記載することは理想であるが,すべてを網羅することは困難である.しかしながら,これらのガイドラインに示された項目を念頭に日々の臨床に臨むことで,診療録が充実しガイドラインに沿った学会発表や論文発表を行うことに繋がり,個々の臨床家の資質が向上するだけでなく,摂食嚥下リハビリテーションに関する研究,臨床のさらなる発展に繋がっていくと思われる.本稿によって,より質の高い論文が数多く本誌に投稿され,摂食嚥下リハビリテーションに関する臨床と研究が発展する一助となることに期待する.
著者
山下 和樹 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B4P2150, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】Pusher現象を有する脳血管障害患者の姿勢保持能力に対するアプローチとして、垂直指標と視覚的手がかりの有効性が提唱されている。しかし垂直指標1つの提示では体幹回旋位、体幹側屈位等でも垂直指標を視覚的手がかりとし、直立位から逸脱した姿勢を学習するため本来の効果が半減する可能性がある。そこで本研究では坐位体幹直立位にて、垂直指標を患者の前方に直列で2本提示し、その2本の垂直指標が重なる位置で姿勢を保つように指示することで、端坐位保持時間の延長・坐位保持姿勢の改善につながる可能性を考え、pusher現象を有する2症例でパイロット研究を行った。【方法】対象は、右視床出血発症28日後の60代男性(症例1)、および左内包後脚のラクナ梗塞発症32日後の80代男性(症例2)であった。両症例ともcontraversive pushing臨床評価スケールは4点で、端坐位保持時間は1分未満であった。この2名に対し垂直指標未提示(以下未提示)、垂直指標1本提示(以下1本提示)、垂直指標2本提示(以下2本提示)の3通りの方法をランダムに用いて、端坐位保持時間の計測と姿勢変化の観察を3日間行った。垂直指標は、1本提示時は患者から1m前方に、2本提示時は1m前方および2m前方に設置した。口頭指示として未提示時は「姿勢をまっすぐして転倒しないように」、1本提示時は「棒のようにまっすぐ姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」、2本提示時は「棒が重なって見える所で姿勢を正して転倒しないように、しっかりみつめて」と指示した。端坐位時、両手背を転倒する直前まで大腿部に接地し、上肢又は体幹の一部がベッド面に接地するまでの時間を理学療法施行前に計測した。各試行の計測順は乱数表を用いて行った。計測時、患者に不安を与えないよう後方にセラピストが位置し、安全に配慮して行った。【説明と同意】患者には本研究の目的・内容について説明し、本研究で得た情報は本研究以外には使用しないこと、拒否しても一切不利益が生じないことを説明し、同意を得た。【結果】計測初日の坐位保持時間は症例1では未提示25秒、1本提示41秒、2本提示49秒、症例2では、それぞれ23秒、44秒、55秒と2本提示時に端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。両症例とも、計測2日目、3日目は端坐位保持時間が延長し、未提示、1本提示、2本提示の順に延長する傾向は同様であった。姿勢観察では未提示時に体幹側屈位が著明にみられた。1本提示時は未提示時と比べ体幹側屈は軽度改善もしくは変化なく、体幹回旋の発生がみられた。2本提示時は未提示時・1本提示時と比べ体幹側屈、回旋の減少がみられた。両症例とも4日目以降は静的坐位で直立坐位保持が可能となった。【考察】本研究では未提示、1本提示、2本提示の順で端坐位保持時間が延長する傾向が認められた。Karnath et al(2003)は、pusher現象例の視覚的垂直認知は正しくても、身体的垂直認知は非麻痺側に大きく傾いているため、両要素のギャップを埋め合わすために「押す」現象が生起する、としている。アプローチについては、垂直指標と視覚的手がかりの有効性に焦点が当てられており、症例に姿勢の認知的歪みを理解させること、視覚的に身体と環境の関係を認知させること、治療者によって視覚的手がかりを付与すること、その手がかりによって直立姿勢を学習することが重要であると述べている。しかし、1本提示では、頭頚部が床面に対し平行にある状態で体幹の側屈、回旋等が発生しても、その端坐位姿勢で視覚的に垂直位であると認識してしまう可能性が高く、それを口頭指示で矯正を図っても身体的垂直認知が障害されているため混乱を生じる可能性が高い。2本提示では、体幹直立位の状態で2本垂直指標が1つに重なる位置で姿勢を保つように提示することで、垂直指標が2本に見えれば姿勢が崩れていることを認識しやすくなり、誤った端坐位姿勢での学習を防ぐことができると考えられる。このため未提示・1本提示時に比べ2本垂直指標提示時の方が端坐位保持時間の延長に至ったものと思われる。【理学療法学研究としての意義】Pusher現象に対するアプローチとして体性感覚入力や視覚刺激入力を用いたアプローチ等が挙げられ臨床的にはいずれもある程度効果があるとされているが、どちらが有効な手段であるかは不明である。今回のパイロット研究では症例数は少なかったものの、1本提示、2本提示になるに従い、端坐位時間の延長傾向、姿勢改善がみられた。今後さらに症例を重ね2本垂直指標提示での坐位保持能力の効果を検討していきたい。
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.101, 2009

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。<BR>【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。<BR>【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。<BR>【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。<BR>【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第49回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2009 (Released:2009-09-11)

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
岩井 信彦 青柳 陽一郎 白石 美佳 大川 あや 清水 裕子 柿本 祥代
出版者
神戸学院大学
雑誌
神戸学院総合リハビリテーション研究 (ISSN:1880781X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-81, 2007-01
被引用文献数
1

回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者51例の日常生活活動(Activities of Daily Living ; ADL)を機能的自立度評価法(Functional independence measure ; FIM)を用いて、実際の生活の中で行っている活動「しているADL」を評価し、同時に理学療法室や作業療法室など限られた環境での潜在的な活動「できるADL」を評価し、その得点差の状況を比較検討した。その結果、入院時、低FIM群では更衣上半身、更衣下半身、トイレ動作で得点差が大きかった。一方、高FIM群では階段昇降、歩行で差が大きかった。さらにADL項目ごとの得点と「しているADL」と「できるADL」との得点の関係において、低FIM群ではその差は確認できなかったが、高FIM群においては得点が高いADLほど得点差が小さいという相関が確認された。このことから回復期脳卒中患者の「できるADL」と「しているADL」の格差の特性を知り、医療チーム全員が格差の早期発見と原因の解明に取り組んでいくことが重要であると思われた。