著者
谷口 藤雄
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.286-291, 2009-02

京都府では中学校特別支援学級卒業生の過半数が高校に進学している.おりしも2008年度から高校でも特別支援教育体制の整備が求められている.しかし,高校ではこれまで特別支援教育の経験も実績もないため,一部で手探りの取り組みが進められている.特別な教育的ニーズのある生徒は,「格差」と「競争」の教育の中で,定時制や教育困難校,小規模校などに集中している.高校の「適格者主義」は現実の高校では生きており,特別支援教育の取り組みを困難にしている.京都府北部の農村地帯にある京都府立福知山高校三和分校(以下、三和分校)は6年ほど前から特別な教育的ニーズのある生徒の入学が増えてきた.小規模校で週4日の昼間定時制高校であること,農業科と家政科の専門学科で,座学だけではなく実習もあること,ゆっくり丁寧な指導が評価されたためと思われるが,年々困難な課題のある生徒が入学している.三和分校では,特別な取り組みではなく,誰でもできる特別支援教育の視点で授業改善や指導の見直しにより,ニーズや課題のある生徒の指導に取り組んでいる.しかし,年々課題も大きくなっている.
著者
折出 健二
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.108-115, 2007-08

共同とは、相互に承認し合う者どうしがコミュニケーションをつくりだしていく営みである。幼児期の段階では、子どもにとってまだ自己と他者のはっきりとした構図はなく、双方は融合的である。遊び、学習、作業、制作などの活動のなかで様々な他者(仲間や教師を含む)との出会いを介して、子どもは自己の二重化を経験しながら、社会的な人格を形成していく。子どもは、乳幼児期から少年期にかけて、この元基的な共同を踏み台にして自立に挑み、この過程で様々な他者との出会い、交流、相互承認をなしていく。それらが彼/彼女の人格的自立にもつながっていくのである。 新自由主義は、市場の競争原理によって、このような共同性を壊す作用である。子どもたちの暴力性もその影響下で発生している。その弊害に抗するものこそ、いまわたしたちが問うている〈つながり〉、相互の共同性の回復にほかならない。
著者
荒木 穂積
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.127-136, 2003-08

発達保障の思想の本質的特徴と関わらせて、子どもおよび障害者問題の国際的視点から論じた。障害者の人権保障、ノーマリゼーション、慈悲に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへのパラダイム転換など発達保障の思想の根幹をなす考え方が、第2次世界大戦後の国連を中心とした平和と人権保障の国際的活動の所産であることを論じた。21世紀の入り口にある今日、あらためて「21世紀を発達保障の世紀」とするべき時代状況があることを論じた。
著者
別府 哲
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.259-266, 2007-02
被引用文献数
1

誤信念理解で調べられる心の理論と、その発達的前駆体と想定される共同注意についての研究をレビューし、自閉症児がどのような機能連関でその能力を形成するのかを検討した。その結果、自閉症児においては、心の理論は、直観的心理化を欠いたまま言語による命題的心理化によって、共同注意は、社会的刺激への反応傾性に弱さを持ったまま汎用学習ツールによって、それぞれ補償することで形成されることが明らかになった。命題的心理化と汎用学習ツールは、認知能力に依拠しており、直観的心理化や社会的刺激への志向性は、意識下の情動と半ば生得的な社会的刺激への反応傾性に基づくと考えられる。この言語を中心とした認知発達による補償という機能連関は、健常児や知的障害児においてはみられず、自閉症の特異性を示唆する仮説と考えられた。この知見を自閉症の教育支援に適用する場合、情動共有を含めた相互主観的経験を教育的に保障することの重要性が示唆された。