著者
峰島 厚
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.82-87, 2008-08
被引用文献数
1

障害者自立支援法施行後、安倍内閣は「再チャレンジ支援総合プラン」・「成長力底上げ戦略」による「就労支援施策」を重点とする障害者施策を打ち出した。障害者自立支援法が一般就労への移行を重視しているのと同じく一般就労を一面的に重視するものではあるが、それとは異なった性格を有している。安倍内閣の「就労支援施策」は、労働者としての労働条件、身分保障を問うことなく、少しでも働いて稼ぎ納税者になり、「福祉の支え手」(福祉の対象(使い手)でなくなる)となることをねらったものである。それは、格差と貧困のもと福祉ニーズをもつにいたった人々を雇用対策の対象にすりかえ、劣悪な労働条件で身分不安定のままに働く底辺労働者としてかり出すという、貧困と格差温存の、そして結果的には福祉ニーズの縮減、福祉施策の縮小に目的があった。そして国民の批判を受けて失墜した安倍内閣に代わって福田内閣が誕生するが、本論ではここ数年の国の施策を分析し、この福田内閣のもとでも「社会福祉の機能強化」を名目として再び障害者自立支援法による障害者の介護制度と介護保険制度との吸収合併がねらわれていると問題提起した。
著者
白石 恵理子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.110-117, 2006-08

青年期は、第2次性徴のような身体的変化によって特徴づけられる青年期前期と、アイデンティティや価値観の確立といった心理的な成熟を特徴とする青年期後期に大きく分けられる。本稿では、知的障害や発達障害のある青年が青年期後期にあたる18歳から20歳の時期にどのような変化を見せるのかを、3人の事例から具体的に明らかにしようとした。思春期・青年期前期は自我の再構成の時期にあたり、障害青年においてもさまざまな揺れや葛藤をみせる。青年期後期においてもそうした「行きつ戻りつ」の姿を示しつつ、新たな社会的関係のなかで、徐々に自己決定が可能になったり、自らの要求の主体になりゆく姿がいずれの事例でもみられた。ただし、その具体的なあらわれかたは、障害の程度や発達段階、さらに青年期に至るまでの生育歴・教育歴等々の複雑にからみあった要因によって、きわめて個性的であり、一面的な理解に陥らないようにしなければならない。
著者
櫻井 宏明
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.211-216, 2006-11

発達的には1歳半をこえていても発語が困難な重度肢体障害者には、コミュニケーションを支援するために、適切なコミュニケーションエイドを導入することは有効である。学校教育でコミュニケーションを支援するといったときには「伝える手段」を補うだけでなく、「伝える主体」の能力を育てるという視点が重要である。ことばには「コミュニケーションのツール」の他に、「思考のツール」、そして「自己との対話のツール」という役割があると言われる。コミュニケーションエイドを利用して、集団の中でコミュニケーションの能力を育てるとともに、認識力や自我を育てるアプローチが重要である。
著者
丸山 啓史
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.32-39, 2011-11

障害のある乳幼児を育てる母親の就労保障という観点から,59人の母親を対象とするインタビュー調査をもとに,母親の就労に関して注目すべき問題を提示した.1)障害のある子どもを連れて療育機関に通わなければならないことが母親の就労を制約している.2)祖母などによる援助があることで母親が就労しやすくなっている.3)子どもを保育所に入所させるために仕事を始めた母親が多い.4)障害のある子どもの母親が就労することに対して否定的な意識がある.最後に,障害のある子どもの母親に対する見方の転換が必要であることを論じた.「母親は子どものケアの良き担い手であるべきだ」「母親は子どものことを優先すべきだ」という見方について,問い直しが求められる.
著者
巖淵 守
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.217-220, 2006-11

コミュニケーションに障害のある人への支援に関する研究分野として日本にも導入されている拡大・代替コミュニケーションに関して、近年、科学的根拠をベースとした実践が欧米で注目を集めている。コミュニケーション支援の技法や技術が、どの程度の効果があるかについての客観的・定量的なデータが求められる背景、データ取得や分析のためのツール、コミュニケーションエイド利用にまつわる研究の例など、日本でも今後議論の対象になることが予想される話題を中心に欧米の現状を紹介する。
著者
藤田 紀昭
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.42-47, 2012-05
著者
小野川 文子 高橋 智
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.21-31, 2010-11

全国の特別支援学校(肢体不自由)寄宿舎に入舎している児童生徒とその家族の生活実態調査を通して,彼らの「生活と発達の貧困」の実態や寄宿舎教育のニーズを検討し,そうした困難・ニーズに対応していく寄宿舎教育の役割や課題を明らかにすることを研究の目的とした.全国の特別支援学校(肢体不自由)63校の寄宿舎利用の保護者,寄宿舎指導員,教員(舎監)を対象に郵送質問紙法調査を実施した.調査期間は2008年9月〜11月.回収状況は保護者398人(回収率32.8%),寄宿舎指導員82人(69.5%),教員(舎監)60人(50.8%)であった.障害児の家庭生活は限られた人間関係と単調な生活を余儀なくされ,そのことが障害児の発達に大きな影響を与えているが,その問題はほとんど改善されず放置されている.また,障害児を支える家族の生活は,介助等に伴う身体的負担をはじめ,保護者が病気になっても十分な治療もできない状況,身近に相談できる相手もいない孤立した子育ての状況が浮き彫りになり,そのことが精神的負担となっている保護者も多い.その問題は子どもの障害が重ければ重いほど,あるいは経済的に困難であればあるほど深刻であることが明らかとなった.障害児の支援を行うためには,保護者の健康・就労問題を含めて,障害児家庭全体を総合的に支える支援が不可欠であり,障害児の発達の視点にたった生活支援が重要である.それゆえに,障害児の生活支援と発達支援の双方の役割を果たしている特別支援学校寄宿舎は重要な社会資源である.
著者
松井 亮輔
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.105-113, 2008-08
被引用文献数
1

2006年12月に国連総会で採択された障害者の権利が2008年5月3日に発効したことで、障害者差別禁止法制定に向けての各国の取組みがさらに加速することとなると予想される。しかし、ADAの経験からも明らかなように、障害者の雇用機会の均等と待遇の平等を実現するには、差別禁止アプローチだけでは不十分である。EU諸国がEU指令のもとに取組んでいるように、差別禁止アプローチと雇用率制度など、積極的差別是正措置の組み合わせがより効果的であろう。さらに、障害者の就労実態を本格的に改善するには、それらの組み合わせに加え、障害者の能力開発をすすめるための教育や職業訓練の向上、社会的企業や協同組合等、地域ベースの多様な働く場の創出など、総合的な取組みが不可欠と思われる。そして、こうした総合的な取組みが実効をあげるための前提として、障害者も含む、すべての人がディーセント・ワークにつきうるような社会的条件整備が求められる。
著者
柴田 久美子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.32-40, 2010-11

北海道には知的障害高等養護学校が14校あり,職業教育を行っている.12校ある寄宿舎併設校は,働く力とともに生活する力を育てる1日24時間の教育を行い,学校から社会への移行支援と卒後支援に力を注いでいる.ここ数年,高等養護学校への進学希望者の著しい増加で,大規模化の一途をたどっている.新入生の実態も変化し,発達障害や精神疾患を抱える生徒が増え,通常の高校を中退してくるケースもある.生徒の多くは,いじめや不登校を経験しており,子ども時代を子どもらしく生活できておらず,遊びや友だち関係を十分体験することがないまま育ち,主体性や自己の確立という点で弱さがみられる.しかし,親元を離れ,様々な他者と深くかかわる日々の生活の営みの中で,徐々に自己の形成へと向かう姿がみられる.高等養護学校の寄宿舎は,青年期に必要な自分づくりと自立への力を育てる可能性があり,特別支援教育においては,通学保障や生活保障だけではない新たな現代的役割を担っている.
著者
片岡 美華
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.294-302, 2008-02

OECDの調査結果によると、23ヵ国中、ほとんどの国で読み書き障害を一つの障害カテゴリーととらえて支援の対象としていた。支援を提供している場は各国によってばらつきがあり、ベルギーやフランスでは特別学校を中心に、カナダやスペインでは通常学級を中心に支援が行われていた。読み書き障害に関する用語の使われ方と定義は国により異なる。イギリスではディスレキシアが、アメリカでは学習障害が、オーストラリアでは学習困難が日常的に用いられている。スカンジナビア半島では読み障害など厳密に区分された語が用いられている。教育制度においては、イギリスでは特別なニーズ教育のもと支援が提供され、ディスレキシアフレンドリースクールが提唱されている。アメリカではIDEAに基づき、無償の適切な教育が提供され個別教育計画に従って支援が行われている。オーストラリアでは「3つの波」モデルによって、予防的観点、早期介入、そして継続的支援が提供されている。
著者
猪狩 恵美子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.41-47, 2008-05

近年、いくつかの自治体で就学猶予・免除となっていた成人障害者の養護学校入学が始まり、その教育成果が明らかになっているが、入学が認められない自治体も多い。筆者らは、就学猶予・免除の成人障害者の教育権保障について、各自治体の受け入れ状況や入学が実現した経過を明らかにし、成人期の教育ニーズと学校教育の果たす役割を検討した。実現の背景には学校教育を求める保護者・当事者の強い願いと運動があり、希望者全員に対する一日も早い実現が求められる。さらに、成人期に配慮した授業実践は重症児(者)の生涯教育を充実させる課題を提起している。学校教育か、社会教育かという択一的選択ではなく、学校教育で明らかになった成人期の発達の可能性を発展させていくことが求められている。
著者
高橋 智 中村 美樹
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.60-65, 2010-02

日本の学校に在籍する障害を有する外国人児童生徒本人とその保護者及び学級担任に調査を行い(東京都内の小・中学校の特別支援学級・通級指導学級及び特別支援学校高等部に在籍する外国人児童生徒本人4名,その保護者5名及び学級担任7名.調査期間:2006年11月〜2007年1月),障害を有する外国人児童生徒の困難・ニーズと彼らに対する支援の実態を明らかにした.とくに母親の抱える情報不足・地域参加の困難に起因する社会的孤独感が子どもに不安を伝え,学校との関わりに閉鎖的傾向をもたらすことが明らかとなった.本人・保護者が閉塞的な学校・地域との関係から脱却し,双方向的な関わりが可能となるような支援を構築していくことが急務である.また,本人は文化的背景の肯定的受容,アイデンティティの形成や帰属意識の希薄さ等の困難を有しており,さらに不安定な生活展望が長期的な支援を困難にしていた.このような困難・ニーズの実態を踏まえ,単純な受け入れ論ではなく,多文化社会が抱える複合的な諸課題に対処して具体的支援を構築していく必要がある.
著者
金澤 誠一
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.2-11, 2010-02

本稿は,三つの部分から成っている.第1に,貧困概念についての検討である.貧困概念は,この間大きく変化している.絶対的貧困論から相対的貧困論へと貧困概念は拡大してきた.しかし,相対的貧困論もまたそのあいまい性を露呈しているのが現代社会の特徴である.そのあいまい性を克服するために,新しい最低生活の指標を作ることが試みられている.また,それに基づく現代のナショナルミニマム論が展開されている.第2に,現代の貧困の原因・捉え方について,20世紀末の福祉依存型文化論による福祉国家への攻撃からパネル調査による社会的排除論に基づく能動的福祉・エンパワーメントへの展開とその問題点を指摘し,現代社会における福祉国家の再構築の必要性を述べている.第3に,「最低生計費」試算を行い,それを基軸とした「最低生活の岩盤」の形成の必要性を展開している.
著者
浅井 春夫
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.12-20, 2010-02

子どもの貧困への社会的関心が集まりつつある.わが国の子どもの貧困率は14.2%であり,ひとり親世帯の貧困率は54.3%となっている.この数値はOECD加盟国30ヵ国のなかで低位にある.とくにひとり親世帯は最悪の状態にある.子どもが貧困生活を生きるということは,親・保護者からの期待値が低いなかで生きるということであり,希望を早い時期から奪われている現実がある.それに対してわが国の貧困削減政策はほとんど機能していないのが実際である.新政権のもとで子どもの貧困削減政策をどのように具体化するのかが問われている.その点に関わって,本稿では基本的な視点と当面の具体的な政策の方向と内容を提起する.
著者
磯野 博
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.33-42, 2010-02

本稿は,無年金障害者問題をとおして障害者の貧困を社会階層論的にとらえ,障害者の貧困が,不安定・低所得(低年金)障害者問題であることを示している.そして,障害当事者団体が行った調査を踏まえ,そのような障害者の貧困が,障害者の趣味・娯楽など,社会参加にも影響を与えていることを示している.そのうえで,今後の障害者の所得保障について,障害者の所得保障の中心である障害基礎年金のあり方をとおして問題提起している.その主な論点は,障害基礎年金の社会手当化であるが,今後の障害者の所得保障では,就労と所得保障のあり方を一体に論じる必要性についても言及している.