著者
青木 慎
雑誌
IERCU Discussion Paper
巻号頁・発行日
no.239, 2014-11

本論は,流動性のわなの下に中央銀行が名目貨幣供給成長率(ないしは,マネタリー・ベースの成長率)を政策手段とするルールを使った安定化政策に関して,小域的な動学分析を行う.本論のモデルのフレームワークは,独占的競争市場モデルであるが,それに2つの仮定を追加した.第1に,価格の硬直性ではなく,不完全労働市場の仮定をおいた.第2に,名目利子率の下限の下では,貨幣と国債の不完全な代替性が生じるものとした.名目貨幣供給成長率(ないしは,マネタリー・ベースの成長率)に関する簡易的なルール(マッカラム・ルール(McCallun(1988),マッカラム(1993).))を導入し,動学分析を行ったところ,目標インフレ率の信認の程度によるが,長期均衡点は小域的にサドル均衡点となる.リーマン・ショック後の日本と米国のそれぞれにおいて,金融政策の積極性とインフレ率の関係が強く結びついている.本論はモデルを通じて,先進諸国の中で日本経済がデフレ経済からなぜ立ち遅れたのか,名目貨幣供給成長率(ないしは,マネタリー・ベースの成長率)に関するルールの視点から考察する.
著者
栗原 由紀子
雑誌
IERCU Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.257, 2015-09

本研究は,法人企業景気予測調査(財務省・内閣府)および法人企業統計調査(財務省)の調査票情報を用いて,外生的ショック発生時とその後の収束過程における企業予想の非対称性および個別企業の異質性を階層ベイズ・パネル順序ロジスティック回帰モデルにより明らかにした。 その結果として,国内需要に関して企業規模と予想の非対称性の関係は,リーマン・ショックと東日本大震災とで結果が真逆となることが示された。また,売上高経常利益率によってバイアスの傾向が異なっていたことから,収益性の高低差が,不安定な経済状況下における将来見通し(または,それに付随する事業計画設定等)の特性に影響する可能生が示唆された。さらに,アベノミクス前後に関する販売価格予想の分析結果からは,企業規模が大きい企業ほど,販売価格を過小に予想した結果が示されており,政権交代による経済効果に控えめな反応を示していた形跡が捉えられた。
著者
谷口 洋志
雑誌
IERCU Discussion Paper
巻号頁・発行日
no.252, 2015-05

中国首相の李克強氏は、遼寧省党書記時代の2007年に、GDP統計よりも電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資の3指標のほうが信用できるという趣旨のことを述べたとされる。本稿では、3指標のうちの電力消費量を取り上げ、実質GDPと電力消費量の関係、電力消費量の全国および地区別の動向などから、李克強氏の発言は支持できないことを論じる。
著者
谷口 洋志
雑誌
IERCU Discussion Paper
巻号頁・発行日
no.253, 2015-06

中国首相の李克強氏は、遼寧省党書記時代の2007年に、GDP統計よりも電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資の3指標のほうが信頼できるという趣旨のことを述べた。本稿では、3指標のうちの鉄道貨物輸送量を取り上げ、実質GDPと鉄道貨物輸送量の関係、鉄道貨物輸送の全国と地区別の動向などから、李克強氏の発言は支持できないことを論じる。
著者
平野 健
雑誌
IERCU Discussion Paper
巻号頁・発行日
no.274, 2017-02

近年、アメリカでは2度のバブルが発生した。1990年代末のITバブルと2000年代の住宅バブルである。前者の崩壊は2001年に軽微な景気後退で済んだが、後者の崩壊は2008年に深刻な金融恐慌をひきおこした。同じバブル崩壊の結果なのに、結果がこのように違うのは何故なのだろうか。実は1991〜2009年には、2回の景気循環という現象の背後で、実体経済の変動としては1回の産業循環しか存在していない。第二次世界大戦後、アメリカ経済は政府の介入によって恐慌の発生を回避してきたが、それは恐慌による過剰資本の調整を遅らせ、産業循環の期間を延長する作用をもたらし、同時に過剰資本が十分に廃棄されておらず停滞基調が続くもとでも景気拡大を再発させる能力を持つにいたった。1960年以降で見ると、少なくとも1960〜1990年と1991年以降今日までの2回の産業循環が存在する。2000年代は、この1991年以降の産業循環の中での停滞期に相当する時期であった。このような停滞期にバブルを発生させるためには、投資銀行はCDOを大量に発行せねばならなかったし、その最もハイリスクなトランシェを銀行自身で購入するというリスク・テイクをしなければならなかった。このことが2008年に金融恐慌が発生した直接的な原因であり、金融恐慌の実体経済的根拠である。