- 著者
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下澤 楯夫
青沼 仁志
西野 浩史
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2003
神経系はなぜ多数の繊維からなる束なのか?多細胞生物としての当然の帰結なのか?これらの疑問は、つまるところ、神経系は進化の上での如何なる淘汰圧への適応の産物なのか、またその適応にはいかなる拘束条件が付きまとったのか、を問うことである。情報の生成(観測)にはエネルギー散逸が避けられず、感覚細胞における情報のエネルギーコストは統計熱力学上の理論限界である0.7K_BT[Joule/bit]に近い。本研究は、細胞の熱雑音感受性は進化を通して達成した適応ではなく、生命の起源に遡る拘束であることを明らかにし、資源や危害が時間的空間的に偏在する生存環境は情報伝送(観測)速度増大の淘汰圧として働くこと、それに対する唯一の適応方策は神経細胞の並列化であること、を次のように明らかにした。1)気流感覚毛で、揺動散逸定理に従ったブラウン運動を観察できることを光学計測によって示した。コオロギ尾葉上の近傍にある二つの気流感覚毛のブラウン運動の無相関性の計測は達成できなかった。2)気流感覚毛のブラウン運動と感覚細胞の電気的応答の相関(コヒーレンス)の実証には至らなかった。3)神経細胞は熱雑音領域で動作しており、情報伝送素子としての信号対雑音比が極めて低いことを、実証した。4)計測と平行して、信号対雑音比の極めて低い神経細胞のパルス列からでも、介在神経へのシナプス加重によって信号を再構成できることを理論的に示した。確率統計学や情報理論で、標本の平均値が母集団の真の平均値から外れる確率が標本数の平方根に反比例して少なくなる「加算平均原理」に着目し、熱雑音に拘束された細胞でも多数による加算平均によって、熱雑音以下の信号の検出精度が向上することを示した。もちろん「束」の前提として多細胞化は必要であるが、多細胞化の直接的生存価自体も、「加算平均原理」で説明できることを示した