著者
石垣 琢麿 丹野 義彦 井上 果子 岡田 守弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、わが国ではこれまでほとんど調査されていなかった中高大学生の妄想的観念を比較検討し、青年期のメンタルヘルス向上の一助とすることを目的にしている。まず、Petersらが開発したPeters, et. al. Delusion Inventory(PDI)の日本語版(山崎ら,2004)を、中学校教師の協力を得て日本の中学生に適用できるよう改変し、中学生用PDIを作成した。この尺度を用いた調査結果から、中学生にも妄想的観念と考えられる思考は存在し、とくに中学2年生からそれが増加する傾向がみられた。高校生と大学生には成人版PDIを用いた調査を実施したが、PDI得点分布には大きな違いはみられなかった。なお、中学生と高校生では、女子生徒のほうがPDI得点は高かった。原質問紙では、妄想的観念の有無だけでなく、その思考の苦痛度・心的占有度・確信度の各側面を調査することが可能である。妄想的観念に関する苦痛度・心的占有度は大学生のほうが高いが、体験頻度は中学生のほうが高いことが示唆された。加えて、中学生・大学生ともに、妄想的観念と対人不信感および敵意が強く関連することがわかった。これは、成人で確認された結果とほぼ同じであり、青年期前期から成人と同質の妄想的観念が出現しうることが示唆された。また、妄想的観念をもつ成人には、「性急な結論バイアス(Jump to Conclusion:JTC)」とよばれる認知的特徴があることが知られている。本研究では、ベイズ理論に基づいた心理学実験を、大学生を対象にして実施した。その結果、妄想的観念を多く体験する大学生が確率的判断を行う場合には、JTCに関連する「情報収集量が少ない」というバイアスが存在することが示唆された。

言及状況

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

収集済み URL リスト