著者
岸 玲子 吉岡 英治 湯浅 資之 佐田 文宏 西條 泰明 神 和夫 小林 智
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

いわゆる化学物質過敏症を疑って札幌市内1医院を受診した患者全員(30人)に基本調査票の記入を依頼し、男性2名を含む26名から回答を得た。平均年齢は44.5歳、発症からの経過年数は2-5年が10人、発症時と比べて症状が悪化した11名、症状頻度が増加した13名だった。ドイツのBeilerらが開発した化学物質過敏症尺度(IEI尺度)を用いた結果、主訴は「においを強く感じる、頭痛、集中力の低下、疲労感、眠気」であり、原因物質は「ある種の香水、塗料または希釈液、タバコや葉巻、ガソリンのにおい、整髪料、マニキュア」だった。化学物質曝露による「健康状態、職場や学校での能力、余暇、家庭生活、身体的能力」への影響の有訴が高かった。この結果、先行研究同様に本研究対象者にとってもいわゆる化学物質過敏症は複数の身体症状が長く続く状態であるといえた。このうち同意が得られた18名(内男性1名)に芳香療法(アロマセラピー)の介入を、無作為化クロスオーバー比較試験として実施した。IEI尺度、および不安尺度については、介入期間前後と対照期間前後の得点差には統計学的有意差は見られなかったが(p>0.05)、各回のアロマセラピー前後では気分尺度の6つ全ての下位尺度に有意な改善が認められた(p<0.05)。化学物質過敏症は臨床的な疾病概念が定義されていない。しかし患者にとって身体症状は事実であり、症状コントロールが必要であるにもかかわらず、現在までに有効性が示された療法はない。本研究は化学物質過敏症へのアロマセラピーの効果を初めて検討した。対象者数が少なく、アロマセラピー介入による症状改善効果は本研究では明らかにならなかったものの短期には気分の改善が認められ、対象者の多くは機会があればこれからもアロマセラピーを受けたいと答えたことから、本研究の課題を改善することでさらなる研究の可能性が示唆された。

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