著者
加納 塁
出版者
一般社団法人 日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:24345229)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.33-36, 2022 (Released:2022-05-31)
参考文献数
19

Trichophyton interdigitaleおよびTrichophyton rubrumによる足白癬は,国民の4~5人に1人は感染しているため,国民病とも呼ばれている.治療薬の1つとして1990年代からテルビナフィン(TRF)が使用されているが,国内外の白癬から本剤に耐性を示す株の分離報告が増加している.しかしながら耐性株に対する疫学的調査は,ほとんど報告されていないため,われわれが実施した調査について紹介する. 2020年に東京,埼玉,千葉,静岡,兵庫,山口,熊本における210名の白癬患者から分離したT. interdigitale(82株)およびT. rubrum(128株)の210株からTRF耐性株を5株分離した.すべてT. rubrumで,TRFに対する最小発育阻止濃度は,32 mg/L以上を示したが,アゾール系抗真菌薬には感受性であった.またスクワレンエポキシダーゼ(SQLE)遺伝子のシーケンス結果から,全株にL393Fの変異が認められた.国内白癬患者の約2.3%は耐性株に感染し,T. rubrum感染に限定すると約3.9%の耐性率となることが判明した. 一方,インドにおいて2018年から,TRF耐性Trichophyton mentagrophytes/T. interdigitaleによる体部白癬が流行しており,ヨーロッパ,中国にも感染報告が相次いでいる.国内でも2020年から流行地域からの渡航者から感染が認められている.われわれは,この流行株の遺伝子性状,生理学的性状,病態から従来のT. interdigitaleとは異なる新種のTrichophyton indotineaeとして命名した.
著者
加倉井 真樹 加納 塁 原田 和俊 出光 俊郎
出版者
一般社団法人 日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:24345229)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.59-65, 2022 (Released:2022-08-31)
参考文献数
16

テルビナフィン耐性白癬菌がインドで増加しており,日本にも持ち込まれている.また,日本固有の菌と考えられるテルビナフィン耐性白癬菌による爪白癬や足白癬,体部白癬も報告されている.今回,テルビナフィン耐性白癬菌による広範囲体部白癬の親子例を経験した.19歳女性,体幹四肢に紅斑多発.ビホナゾールクリーム外用で軽快した.2年後,腰臀部下肢に紅斑が再発した.2年前と今回の両菌とも真菌培養と分子生物学的検査でインド由来のTrichophyton interdigitaleと診断した.テルビナフィン内服は無効であり,2年前と今回の両菌ともテルビナフィンが阻害するsqualene epoxidaseの遺伝子変異を有していた.この間,47歳父親が広範囲の体部白癬に罹患した.テルビナフィン内服は無効で,broth microdilution法による薬剤感受性試験で,テルビナフィン耐性白癬菌と判明.テルビナフィンが阻害する特有の遺伝子の変異を有していた.日本でもテルビナフィン耐性白癬菌が蔓延していく可能性があり,治療にあたり注意が必要である.
著者
掛屋 弘
出版者
一般社団法人 日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:24345229)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.73-76, 2023 (Released:2023-08-31)
参考文献数
26

日本医真菌学会では,これまでに代表的な深在性真菌症の診断・治療ガイドライン〔侵襲性カンジダ症(2013年),侵襲性カンジダ症に対するマネジメントのための臨床実践ガイドライン(2021年に改定),アスペルギルス症(2015年),クリプトコックス症(2019年)〕を発刊してきた.今回,澁谷和俊理事長を委員長に,発症頻度はまれであるが臨床的に重要な真菌症であるムーコル症,トリコスポロン症,フサリウム症,スケドスポリウム症,マラセジア症,および輸入真菌症(ヒストプラスマ症,コクシジオイデス症,パラコクシジオイデス症,ブラストミセス症,マルネッフェイ型ペニシリウム症),さらに注目されているCandida auris等を対象として,それらの眼病変や病理像の解説を加えた「希少深在性真菌症の診断・治療ガイドライン」を作成中である.また今回,設定した複数のクリニカルクエスチョンに対して有志によるワーキンググループがシステマティック・レビューを行い,新たなエビデンスの創出にも挑戦している.
著者
笠松 純 川上 和義
出版者
一般社団法人 日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:24345229)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.47-58, 2022 (Released:2022-08-31)
参考文献数
98

クリプトコックス症はCryptococcus neoformansによって引き起こされる日和見真菌感染症である.免疫系が正常な健常者では不顕性感染となることが多いとされる.一方,免疫低下を伴う基礎疾患をもつ患者や免疫抑制剤を使用している患者では髄膜炎など重篤な疾患を引き起こす.免疫系は自然免疫系と適応免疫系に大別され,感染症を引き起こす病原体によって異なるリンパ球サブセットが生体防御を担う.本稿では,クリプトコックスに対する自然免疫応答と適応免疫応答について解説する.さらに,それら免疫系の破綻によって生じるクリプトコックスの内因性再燃についても紹介する.これらの知見は,クリプトコックス症に対する治療薬やワクチンを開発するための新しい視座を提供する.
著者
蓮子 雅之 坪井 良治 稲垣 勝裕
出版者
一般社団法人 日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:24345229)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.39-42, 2020 (Released:2020-05-30)
参考文献数
8

ルリコナゾール爪外用液5%(ルコナック®爪外用液5%)の塗布で生じると報告されている爪変色に関して,ヒト爪を用いたin vitro 試験で原因と対処法を検討した.ルリコナゾール爪外用液5%の反復塗布によって爪表面に白色化が生じた.これはボディソープ洗浄および70%エタノール清拭で除去されたことから,爪表面における有効成分ルリコナゾールの析出が原因と推察された.さらに,ルリコナゾール爪外用液5%を塗布した爪を白色蛍光灯で10,000luxに保った人工気象器に入れて保持することで黄色化したが,上記対処法では完全には改善できなかった.これらの事実より,黄色化はルリコナゾールの光分解によるものと考えられ,爪表面だけでなく爪甲内に浸透・蓄積したルリコナゾールも光分解を受けることが示唆された.爪変色の対処法としては入浴時の洗浄と70%エタノール清拭が効果的であり,塗布部の光暴露は避けたほうがよいと考えられた.
著者
佐藤 俊樹
出版者
一般社団法人 日本医真菌学会
雑誌
日本医真菌学会雑誌 (ISSN:24345229)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.11-14, 2019 (Released:2019-03-04)

東北真菌懇話会は,1975年に東北大学皮膚科第4代教授の高橋吉定先生の門下生の方々が,東北から真菌の灯を絶やすまいと結集して設立した「みちのくピルツ同好会」が前身である.1989年に東北真菌懇話会と改称し,真菌に興味のある方は誰でも参加できるようになった.例会は年1回開催され30回を重ねている.永らく笠井達也先生が運営されていたが,2016年から出光俊郎先生が会長として携わっている.2018年からは日本医真菌学会支部会としても活動し,ハンズオンセミナーも開催している.皮膚科以外でも広い分野で参加を募り,また,些細な疑問でも相談できるような会を目指して,医真菌学に興味を持つ方々を増やすことができるよう,活動を続けている.