著者
岡本 彩香 浅井 知浩 奥 直人
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.54-61, 2016-01-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
20

統計的に日本人の3人に1人以上が罹患するといわれるがんは、我が国の死因別死亡率の第1位を占めており、より有効な抗がん剤の開発が望まれている。筆者らは、低分子医薬、抗体医薬に次ぐ抗がん剤シーズとして、がんにおける異常なシグナル伝達を特異的に遮断し、がん細胞を選択的に細胞死へと導きうる核酸分子、特に低分子2本鎖RNAに着目した。2本鎖RNAの臨床応用にはDDS技術が不可欠であることが広く認識されている。筆者らはリポソームや脂質ナノ粒子を核酸のDDSに応用し、がん選択的な核酸送達および効率的なRNA干渉の誘導を示してきた。本稿では、筆者らが開発したポリカチオンリポソームや抗体修飾脂質ナノ粒子を用いたがんへの核酸送達について、近年の知見を紹介する。
著者
浅井 知浩 出羽 毅久 奥 直人
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.271-278, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
14

小分子RNA(small interfering RNA(siRNA)やmicroRNA(miRNA))を用いたRNA干渉療法は,疾患関連遺伝子の発現を選択的に抑制する治療法であり,がんなどの遺伝子発現異常に基づく疾患への応用が期待されている。しかし,RNAは生体内で分解され易く,細胞膜をほとんど透過しないため,医薬品化にはdrug delivery system(DDS)技術が必要である。核酸医薬開発においてDDS技術の重要性が一段と増す中,脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリーシステムは実用化に向けた研究がかなり進んでいる。本稿では,イントロダクションとしてRNA干渉療法の基礎とsiRNA医薬の特徴について記した後,脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリーシステムについて概説する。その後,我々が開発を進めている脂質ナノ粒子を用いたsiRNAデリバリーの研究成果を要約して紹介する。これまでに我々は,siRNAデリバリーのために複数のポリカチオン脂質誘導体を設計・合成し,様々な脂質ナノ粒子を調製した。そして,遺伝子のノックダウン効率を指標にしたスクリーニングを行い,脂質ナノ粒子の処方を決定した。さらに我々は,腫瘍へのターゲティングを目的として,ポリエチレングリコールで被覆した脂質ナノ粒子の表面をペプチドで修飾した全身投与型siRNAベクターを開発した。この全身投与型siRNAベクターを用いてがんの増殖に関与するmammalian target of rapamycin(mTOR)に対するsiRNAを担がんマウスに静脈内投与したところ,siRNAが選択的に腫瘍に集積し,有意ながん治療効果をもたらした。このことから,我々が開発した脂質ナノ粒子は,全身投与による腫瘍選択的siRNAデリバリーに応用可能であることが示唆された。
著者
髙栁 ふくえ 福内 友子 山岡 法子 安田 誠 馬渡 健一 奥 直人 金子 希代子
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸 (ISSN:24350095)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.177-185, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)

本邦における「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」では,患者が食事から摂取するプリン体摂取目標値が400mg/日以下とされている.著者らは,これまで,発酵食品に着目し,酒粕に魚を浸漬すると,魚のプリン体が減少することを報告した.本研究では異なる発酵食品で,和食の定番である西京味噌漬けを検討した.めかじきを同量の西京味噌に1日間と3日間浸漬した.食品中のプリン体は,当研究室で開発された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた2つの方法で測定した.方法1では,試料を酸加水分解し,プリン塩基にまで分解したものを測定し,総プリン体量を求めた.方法2では,酸加水分解は行わず,遊離プリン体を分子種別に一斉分析する方法を用いて測定した.方法1で測定した総プリン体の結果は,めかじき(1日)は149.7mg/100gで,プリン塩基別ではヒポキサンチン(HX)類の割合が最も多かった.めかじき(漬け3日)では,めかじき(3日)と比較してHXが有意に減少した.一方,西京味噌(1日)では,総プリン体量は40.9mg/100gで,西京味噌(漬け1日)のHXが有意に増加していた.方法2で測定した,めかじき(1日)および(3日)には,遊離プリン体として存在するイノシン酸(IMP),イノシン(Ino),HXが多く見られた.めかじき(漬け3日)のInoが減少し,西京味噌(漬け3日)のInoが増加した.さらに,西京味噌(1日)および(3日)と,西京味噌(漬け1日)および(漬け3日)を固液分離した結果,西京味噌(漬け1日)および西京味噌(漬け3日)の液体側にInoが存在していた.これらの結果より,西京漬けは,めかじきに多く含まれるHX類であるInoを減少させたこと,その多くが西京味噌の液体側に移行したことが示された.西京漬けは魚の調理法として,高尿酸血症・痛風患者の食事療法に提案したい献立の一つと考えた.
著者
岡本 彩香 浅井 知浩 奥 直人
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.54-61, 2016

統計的に日本人の3人に1人以上が罹患するといわれるがんは、我が国の死因別死亡率の第1位を占めており、より有効な抗がん剤の開発が望まれている。筆者らは、低分子医薬、抗体医薬に次ぐ抗がん剤シーズとして、がんにおける異常なシグナル伝達を特異的に遮断し、がん細胞を選択的に細胞死へと導きうる核酸分子、特に低分子2本鎖RNAに着目した。2本鎖RNAの臨床応用にはDDS技術が不可欠であることが広く認識されている。筆者らはリポソームや脂質ナノ粒子を核酸のDDSに応用し、がん選択的な核酸送達および効率的なRNA干渉の誘導を示してきた。本稿では、筆者らが開発したポリカチオンリポソームや抗体修飾脂質ナノ粒子を用いたがんへの核酸送達について、近年の知見を紹介する。
著者
小出 裕之 浅井 知浩 畑中 剣太朗 清水 広介 横山 昌幸 石田 竜弘 際田 弘志 奥 直人
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.129, no.12, pp.1445-1451, 2009-12-01 (Released:2009-12-01)
参考文献数
21
被引用文献数
10 12

Liposomes modified with polyethylene glycol (PEG) can stably exist in the bloodstream because the PEG on the liposomes attracts a water shell to the liposomal surface. Since these liposomes are long circulating nanocarriers, they are used as drug and gene delivery tools. Repeat injection of PEGylated liposomes, however, is known to induce the accelerated blood clearance (ABC) phenomenon. In the ABC phenomenon, PEGylated liposomes that are injected subsequent to the first injection are cleared rapidly from the bloodstream and accumulate in the liver, resulting in loss of their long-circulating characteristics. The induction of ABC phenomenon is related to the production of anti-PEG IgM from splenic B cells. To elucidate the mechanism of the phenomenon, we firstly examined the relationship between the induction of ABC phenomenon and the concentration of PEGylated liposomes, and observed that the high dose of those did not induce the phenomenon. Next, we investigated whether polymeric micelles trigger ABC phenomenon or not. Finally, the size-dependency of ABC phenomenon was investigated by use of variously sized PEGylated liposomes and polymeric micelles having PEG chains. Our data suggest that the initiation of ABC phenomenon would be size-dependent, and particles smaller than 30 nm did not induce ABC phenomenon. We anticipate that the elucidation of the ABC phenomenon will be helpful for the development of DDS formulations.
著者
岸本 成史 小佐野 博史 奥 直人 渡邊 真知子 安藤 崇仁 厚味 厳一 板垣 文雄 大藏 直樹 岩澤 晴代 長谷川 仁美 長田 洋一
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, 2021

<p>帝京大学薬学部では,4年次に統合型の演習科目「薬学統合演習1」を開講し,約300名の学生を対象に講義室内で薬物治療症例の問題基盤型学習を行っているが,2020年度はCOVID-19のパンデミックによりオンライン形式での遠隔授業として行うことになった.オンライン授業はオンライン会議システムと学習管理システムを組み合わせて用いて実施し,症例検討のスモールグループディスカッションはオンライン会議システムのブレイクアウトルーム機能を利用して行った.また,症例シナリオや授業の実施内容を極力変えず,履修者全員が確実に授業に参加できるよう考慮して授業を行った.授業終了後に学生が得られたと感じた学修成果や授業の満足度は,従来の授業と比べて差異がなかったことから,本演習をオンライン形式で行った場合でも,対面形式と遜色ない学修成果が得られたものと考えられた.</p>
著者
武田 厚司 奥 直人
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
雑誌
生体の科学 (ISSN:03709531)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.356-357, 2009-10-15

[用いられた物質/研究対象となった受容体] 亜鉛/NMDA受容体 記憶形成を司る海馬の亜鉛濃度は約300μMであり,他の領域と比べて高い。また,Timm's染色(亜鉛イオンが染まる)では苔状線維が存在する透明層が最も強く染色され,シャーファー側枝が存在するCA1放線層,貫通線維が存在する歯状回分子層も染色される。大脳皮質からの情報は貫通線維シナプス,苔状線維シナプス,シャーファー側枝シナプスの三つのシナプスで処理され,記憶される(図)。これらのシナプスはグルタミン酸作動性であり,グルタミン酸とともに亜鉛が放出される。特に,苔状線維ではすべての終末から亜鉛が放出される(シャーファー側枝では約45%の終末から)。細胞外に放出された亜鉛はグルタミン酸受容体などに作用し,グルタミン酸作動性シナプスの活動を調節する。
著者
奥 直人 浅井 知浩 清水 広介
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

花粉症などのアレルギー疾患では脱感作療法などが行われているが、根本的治療法はない。本研究では、アレルギーの基となる免疫細胞の活性を恒久的に抑える根本的治療法を開発する。すなわち薬物送達システムを利用し、特定の薬物を運ぶキャリアーに抗原を結合することで、抗体産生細胞に特異的にキャリアーを認識させ、特定の細胞のみに薬物を送達し細胞の活性を抑える新たな治療戦略を確立する。