著者
中川 美緒 樋口 智子 寺岡 由貴 曽我 賢彦
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.36-42, 2019 (Released:2019-01-15)
参考文献数
6
被引用文献数
2

口腔粘膜障害の創部保護を行い,疼痛を緩和する医療機器 「エピシル® 口腔用液」(ソレイジア・ファーマ株式会社,東京)が2018年4月に保険適用された。しかし,本邦で本機器の疼痛緩和効果および使用感等についての報告はない。そこで本院で造血細胞移植を受け,口腔粘膜障害の疼痛を訴えた4名の患者を対象とし,症例研究を行った。使用後5分において,4人のうち3人でペインスコアが減少し,その後30分から120分にかけて口腔内疼痛は概ね同等で推移した。2名が味覚の変化および刺激感について,1名が不快感について 「少し気になる」 と回答したが,使用後2時間の評価時間の後,全員が継続使用を希望した。有害事象および機器としての不具合の発生はなかった。エピシル® 口腔用液は,造血細胞移植患者を対象として,疼痛をはじめとする口腔粘膜障害による不快感を緩和することを示唆した。
著者
Yuho Najima Kazuteru Ohashi
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.125-132, 2017 (Released:2017-07-18)
参考文献数
53
被引用文献数
11

Acute graft-versus-host disease (aGVHD) is one of the most frequent complications after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation (HSCT). First-line therapy for aGVHD usually consists of corticosteroids, but almost half of patients fail to respond, and more than 60% eventually die. Although several treatment options have been developed as second-line therapy, currently, no established strategy for steroid-refractory (SR) aGVHD is available. Mesenchymal stem cells (MSCs) have unique immunoregulatory properties that make them attractive for use in salvage therapy for SR-aGVHD. Following the striking clinical course reported by Le Blanc’s group, many clinical trials have shown favorable results of MSC infusions for SR-aGVHD. In Japan, two clinical trials were performed. Following the favorable results of clinical studies, MSCs have become the first approved stem cell drug for SR-aGVHD. This therapy is called TEMCELL. In this review, we briefly summarize the current status and problems with MSCs in Japan. Now that this cell drug is available to all eligible patients, a post-marketing study is needed to answer crucial clinical questions.
著者
澤田 明久 井上 雅美
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-11, 2014
被引用文献数
1

1964年にEpstein-Barr virus(EBV)が発見されて半世紀が経った。慢性活動性EBV 感染症(chronic active EBV infection; CAEBV) は「EBV 関連T/NK細胞リンパ増殖症(EBV-associated T- or NK-cell lymphoproliferative diseases; EBV+T/NK細胞LPDs)」のひとつで,かつ典型的疾患である。診断は「Okanoらの診断ガイドライン(2005年)」に従う。確定診断にEBV+T/NK細胞の増殖(実際的にはEBV 量の高値とT/NK細胞への感染)を証明する必要がある。しかし,末梢血を用いる検査はいまだ保険未収載であり,病変組織の生検は侵襲を伴う。急変するリスクがあり,診断がつけば免疫化学療法により症状の鎮静化を図りつつ,同種hematopoietic stem cell transplantation(HSCT)の準備を併行して進めることが肝要である。多剤併用化学療法,同種HSCTと治療を進める中で,十分な症状のコントロールが得られない場合には躊躇なく緊急移植に踏み切る。前処置はreduced-intensity conditioningがよい。移植成績は骨髄移植と臍帯血移植で差はなく,全生存率>90%と良好であり,成人例(~40 歳)の場合も小児と同様の治療戦略で遜色ない成績が得られつつある。
著者
正岡 徹
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.24-30, 2018 (Released:2018-01-15)
参考文献数
9

1960年代の白血病の死亡率は100%であった。我々は白血病が治るとは夢にも思わず,苦痛を少なく,見送ることが治療目標であった。大阪成人病センターで1963年成人急性白血病の治癒例を経験し,白血病治療の希望が生まれた。化学療法での効果が不十分で骨髄移植に進んだ。無菌室,成分採血,抗ウイルス剤,抗真菌剤,免疫抑制剤,コロニー刺激因子など多くの新薬の開発導入とともに適合同胞間骨髄移植は1984年から急速に成績が改善した。設立請願署名運動をうけて骨髄バンクが設立され,次いで臍帯血バンクも設立され,これの基盤強化を図る 「移植に用いる造血幹細胞の適切な供給の推進に関する法律」 も制定された。これには多くの方々の善意と支援がささえになっている。
著者
山口 博樹
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.16-22, 2021

<p> 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia,AML)は,近年の遺伝子変異解析技術の進歩によってその発症や再発に関与をする多くの遺伝子変異が発見された。こうしたゲノム解析の結果は予後因子や微少残存病変マーカーとして臨床応用をされるだけでなく新規の分子標的薬創薬に貢献をしている。実際に欧米からは第一世代FLT3阻害薬,IDH1/2阻害薬,BCL2阻害薬など多くの新規薬剤が登場をし,本邦からも第二世代FLT3阻害薬のGilteritinibやQuizartinibの登場でAMLの治療成績が向上しつつある。しかし欧米とのドラッグラグが依然として大きく,欧米の治療ガイドラインを本邦の実臨床にあてはめることはできない。そこで本稿では現在の本邦でのAMLの実臨床において遺伝子診断によるAMLの予後層別化や同種造血幹細胞移植の適応を概説する。</p>
著者
黒澤 彩子 田島 絹子 遠峰 良美 吉内 一浩 福田 隆浩 公益財団法人日本骨髄バンク
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.60-69, 2019
被引用文献数
1

<p> 骨髄バンクコーディネート終了時のアンケート調査より,幹細胞提供行動と,ドナーの心理社会的要因の関連を検討した。対象は健康理由または患者側の理由による終了例を除外したドナーとし,2017年4月~5月を調査期間として870人にアンケートを発送,385人より回答を得た(終了群315人,提供群70人)。ロジスティック回帰では,本人の協力度が非常に高いこと,不安が少ないこと,職場・家族の調整や説得が難しくないことが,幹細胞提供に至りやすい有意な要因であった。献血回数11回以上であることは,単変量解析にてオッズ比2.5を示した。雇用状態にあるドナーの検討では,年休のとりやすさが幹細胞提供に至りやすい有意な要因であった。終了群における提供できなかった理由は "仕事への影響" が43%,"家族の反対" 21%,"家庭生活への影響" 15%,"リスク・不安・怖さ" 11%であった。本調査から,幹細胞提供に関連する要因として,ドナー本人の協力度や職場・家庭生活の調整などが抽出された。今後,より詳細な大規模調査により,ドナーの心理社会的要因と,幹細胞提供行動の関連を検討し,具体的な施策につなげたい。</p>
著者
中川 美緒 樋口 智子 寺岡 由貴 曽我 賢彦
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.36-42, 2019
被引用文献数
2

<p> 口腔粘膜障害の創部保護を行い,疼痛を緩和する医療機器 「エピシル<sup>®</sup> 口腔用液」(ソレイジア・ファーマ株式会社,東京)が2018年4月に保険適用された。しかし,本邦で本機器の疼痛緩和効果および使用感等についての報告はない。そこで本院で造血細胞移植を受け,口腔粘膜障害の疼痛を訴えた4名の患者を対象とし,症例研究を行った。使用後5分において,4人のうち3人でペインスコアが減少し,その後30分から120分にかけて口腔内疼痛は概ね同等で推移した。2名が味覚の変化および刺激感について,1名が不快感について 「少し気になる」 と回答したが,使用後2時間の評価時間の後,全員が継続使用を希望した。有害事象および機器としての不具合の発生はなかった。エピシル<sup>®</sup> 口腔用液は,造血細胞移植患者を対象として,疼痛をはじめとする口腔粘膜障害による不快感を緩和することを示唆した。</p>
著者
佐久間 英規 小野 翔矢 早川 泰平 佐藤 春樹 小澤 幸泰 宮村 耕一 大岩 伊知郎
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.78-83, 2019 (Released:2019-04-15)
参考文献数
20

同種造血幹細胞移植では口腔粘膜障害を認め,骨髄抑制に起因する敗血症などを合併しやすい状況になる。今回,検討症例を同種造血幹細胞移植患者のみに限定し,同種造血幹細胞移植時における口腔粘膜障害の重症化抑制に影響する要因について検討したので報告する。調査期間は2011年4月~2015年3月までとし,調査項目は年齢,性別,幹細胞ソース,HCT-CIスコア,HLA適合度,前処置強度,放射線全身照射線量,Methotrexate(MTX)投与の有無,造血幹細胞移植の骨髄抑制の有無,現行のoral management実施(2013.4~)の有無,造血幹細胞移植前のprofessional mechanical tooth cleaning(PMTC)の有無とした。口腔粘膜障害の重症度と関連が疑われる項目(P<0.2)として年齢(P=0.0560),造血幹細胞移植前のPMTCの有無(P=0.0021)が選択された。更に,ロジステック回帰分析を行うと,造血幹細胞移植前のPMTCの有無(P=0.0017,オッズ比0.3692)のみが選択された。2017年7月以前の骨髄抑制や出血傾向がないのにPMTCを実施していない症例と2012年8月以降のPMTCを実施した症例で検討したところ,PMTCを実施した群で有意に口腔粘膜障害が軽減していた(P=0.0024)造血幹細胞移植前のPMTCは口腔粘膜障害の重症化を抑制する重要な支持療法であることから,造血幹細胞移植前のPMTCを全例に実施するべきことが示唆された。
著者
青 雲 金森 平和 黒川 峰夫 宮村 耕一 伊藤 俊朗 衛藤 徹也 片山 義雄 前田 哲生 小寺 良尚 飯田 美奈子 鈴木 律朗 山下 卓也 福田 隆浩 大橋 一輝 小川 啓恭 鬼塚 真仁 近藤 忠一
出版者
一般社団法人 日本造血細胞移植学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.6-14, 2012
被引用文献数
2

造血幹細胞(骨髄,末梢血)ドナーの実態を把握し,将来におけるドナーの安全性,満足度を更に向上させる目的で,日本造血細胞移植学会ドナー登録センターに2006年4月から2010年3月までの間に集積された血縁ドナー年次アンケート結果の一部であるドナーの意見(ドナーの声)を解析し,満足度および不満の内容を,骨髄ドナー,末梢血ドナー間で比較した。提供に際しての,満足度(不満度)は両提供法に差は無かったが,不満を表明したドナーにおいてその不満が身体的なものに起因する割合は,骨髄ドナーに多かった。身体的不満の内主要なものは各種疼痛,特に疼痛の遷延であり,採取手技,使用機器(採取針のサイズ等),採取に際しての説明等に対する採取チームの配慮により改善可能と思われた。