- 著者
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前山 総一郎
- 出版者
- 八戸大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2001
フラタニティー(fraternitas)という中世的人的紐帯研究について、修道士中心に比較的古く(8世紀)から広まっていた祈祷兄弟盟約から、12・13世紀において叢生した俗人中心のフラタニティー(兄弟会)への変容過程について実態的解明を目指す本研究は、両者の移行形態であるコルヴァイ修道院領内の「信徒兄弟会」(fidelium frarternitas)を具体的研究事例とした。平成13年度は、ドイツ国ノルトヴェストファーレン国立公文書館にて史料Msc.I 132の調査をおこない、現存部分をマイクロフィルムにて収集した。帰国後、解読作業と電子情報化作業をおこなった。平成14年度は、各信徒兄弟会団体の実態の分析を以下3段階の手法でおこなった。1)史料検証をおこない、その結果、「人名リスト」の1350名が4つの「信徒兄弟会」団体の構成員であったことが判明した(Corvey2団体、Goslar1団体、Wulfelade1団体)。2)これらの団体と修道院(修道院長・修道院共住者団)との関係を、各規約および修道院機構をも確認しつつ解析した。その結果、信徒兄弟会4団体は共通して、(1)教会施設費等を集め修道院に拠出していること、(2)兄弟会の成員のために記念ミサ(memoria)が修道士により挙行されること等が確認され、修道院の祈祷活動をささえることを根底的理由とした結社団体と判明した。3)以上をうけ、俗人兄弟会形成との構造的連関の問題を検討した。その結果、「信徒兄弟会」が(1)俗人(信徒)の主体的形成によること、(2)拠点型結社(Ortsfraternitas)であること、(3)社会中層・下層等の多様な社会層から構成されたこと、という特質をもつことが判明した。以上の検証作業を通じ、本研究は、「信徒兄弟会」が帯びた新しい人的ネットワークの型が、12・13世紀に叢生する都市型俗人兄弟会と通底してこと(俗人の自主形成型・地縁型アソシエーション)をつきとめ、俗人兄弟会発生のメカニズムという、学界でもこれまで未知の領域に一定の見通しを提示し得たと考えている。