著者
長谷川 太祐 永田 勇樹
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.33-39, 2018-01-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
33

分子動力学シミュレーションを用いた水の振動分光計算と,最新の実験のスペクトルとを併せた解析から界面における水の分子スケールでの構造が明らかになってきた.本コラムでは研究を行った動機や過程についても話を交えながら,界面分光実験と理論計算の共同研究によって水の気液界面の微視的構造についてどれだけのことを明らかにしてきたかを簡単に紹介したい.
著者
山本 量一
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.173-178, 2019-07-31 (Released:2019-07-31)
参考文献数
8

概要 実験技術の進歩に伴い,アクティブマター(エネルギーを消費しながら自発運動する人工物の系や,微生物・細胞などの生物由来の系)に対しても,近年物理学的な視点から定量的実験が行われるようになってきた.外力や環境の変化によって非平衡状態がもたらされる通常の系とは異なり,構成要素の自発的運動によってアクティブマターは初めから強い非平衡状態にある.これらの系では特異な集団運動がしばしば出現するが,その物理的な機構や役割に対する理解はほとんど進んでおらず,計算科学的アプローチに期待が集まっている.最近のシミュレーションによる先駆的な試みにより,生体組織内部で見られる細胞の複雑な集団運動が簡単な機構で起こり得ることが示されつつあり,今後の発展に注目したい.本稿では,アクティブマターのモデリングに関する我々自身の研究例として,マイクロスイマー(粘性流体中を泳動する微生物や人工物)の集団運動,及び基板上で遊走・増幅する細胞の集団運動について概要を紹介する.
著者
八木 清
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-25, 2012-01-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
32
被引用文献数
1

分子振動スペクトルを計算するには,(1)ポテンシャルエネルギー曲面生成,及び(2)振動Schrödinger 方程式の効率的な解法が必要である.本稿では,我々の開発した方法論を中心に,量子化学計算による非調和ポテンシャル生成法と 3N −6 次元の量子多体問題の取り扱いを解説する.新しい非調和振動理論は 100 自由度系を分光学的な精度で扱うことができ,水素結合系の振動スペクトル計算に威力を発揮する.
著者
笠原 浩太 椎名 政昭 肥後 順一 緒方 一博 中村 春木
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.253-259, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
14

蛋白質における天然変性領域(IDR)は特定の立体構造をもたないフレキシブルな領域であり,リン酸化などの化学修飾を受けて蛋白質の機能制御を行うなど,重要な役割を果たしている.本研究では重要なDNA 結合蛋白質であるEts1 に着目し,そのIDR がリン酸化を受けることでDNA 結合親和性を低下させる制御メカニズムを理論と実験の両面から明らかにした.独自のマルチカノニカル分子動力学法(McMD)を用いて求められたリン酸化Ets1 および非リン酸化Ets1 のIDR の構造アンサンブルより,リン酸基がDNA 結合領域へ接触することで競争的にDNA 結合を阻害するメカニズムが示唆された.ここで明らかとなった重要なアミノ酸残基に関する種々の変異体について実験的な結合解離速度測定を行い,計算結果と整合することを確かめた.
著者
石山 達也
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.179-185, 2013-07-31 (Released:2014-08-26)
参考文献数
28

水と比べて氷表面では水素結合領域に非常に強い振動スペクトルピークがあらわれる.この特徴的なピークは,強度の差はあるが水表面,あるいは固/水界面においてもみられ,しばしば“ice-like peak”ともよばれている.今回,古典分子動力学シミュレーションとQM/MM 計算をカップルさせることにより,氷特有の強い振動スペクトルピークを再現することに成功した.また,水表面の“ice-like peak”について,最近の実験とシミュレーション研究から明らかになったことを報告する.
著者
三枝 俊亮
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.125-128, 2013-04-30 (Released:2014-04-30)
参考文献数
7

ペプチド中におけるアミノ酸残基の双極子モーメントを,ab initio MO 法を用いて計算した.αヘリックスとβシートについて独自モデルを用い,主鎖間水素結合や隣接する残基の影響を考慮に入れた双極子モーメントを計算し,重み付き平均化により構造異性体の双極子モーメントも考慮した.計算したアミノ酸残基の双極子モーメントを組み合わせることで,ペプチド全体の双極子モーメントを再現できることを確認した.また,光学異性体であるL-アミノ酸とD-アミノ酸で双極子モーメントが異なることを見出し,双極子モーメントを主鎖部と側鎖部に分割することで,その理由を解析した.
著者
齋藤 大明
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.77-82, 2015-04-30 (Released:2016-04-30)

分子ドッキング法は計算コストも少なく,薬剤スクリーニングを効率化・迅速化させるための基盤技術として創薬の研究・開発に用いられている.本稿ではリガンド−タンパク質系を対象にしたドッキングシミュレーションの基本的な計算手法・適用例について解説し,ドッキングシミュレーションの計算精度や適用限界について言及し,今後の課題について考察する.