著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.133-137, 2021-04-30 (Released:2022-04-30)
参考文献数
7

これまでは分子シミュレーションの方法について説明してきた.これからは,分子シミュレーションから得られた座標と運動量(分子動力学法のみ)を用いて得られる熱力学的性質,構造的性質,輸送係数,スペクトルの計算方法について説明する.これらの諸量は,実験的に測定される量であるので,分子シミュレーションの方法の検証ができると同時に,自然界で起こっている現象を分子シミュレーションにより原子レベルで詳細に調べることが可能である.今回は,熱力学的性質の計算方法について説明する.
著者
中川 恒
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.267-273, 2017-10-31 (Released:2018-10-31)
参考文献数
7

本連載では短距離古典分子動力学シミュレーションコードのGPGPU 化の方法について解説する. 連載第一回目は短距離古典分子動力学シミュレーションの基本アルゴリズムについて概観したのち, ホットスポットである相互作用計算のGPGPU 実装と最適化手法について紹介する.
著者
山下 雄史
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.83-91, 2015-04-30 (Released:2016-04-30)

医薬品開発を論理的・効率的におこなうためには, 医薬品候補と標的タンパク質の結合に伴う自由エネルギー変化の定量的予測が必須である. 従来法での不十分な精度を改善するため, 近年, 全原子分子動力学法を基盤とした様々な予測手法の創薬応用が試みられている. 本稿では, こうした予測手法を支える重要な理論を振り返りながら, タンパク質系における自由エネルギー予測の難しさの本質を議論する.
著者
宮﨑 裕介
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.45-50, 2022-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
15

本稿では,まず全原子分子動力学シミュレーションを用いた代表的な抗菌ペプチドmelittin による膜細孔形成過程の自由エネルギー解析について解説する.次に,複雑な細孔形成の動的過程の解明に必要な長時間シミュレーションを実現するため開発した粗視化分子力場pSPICA について説明する.最後に,pSPICA を用いた粗視化分子シミュレーションで観測されたmelittin による細孔形成を含む脂質膜の形態変化について紹介する.
著者
近藤 寛子 吉田 紀生 城田 松之
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.283-289, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
21

電位依存性カリウムチャネルは細胞膜の脱分極により活性化されカリウムイオンを選択的に透過する.C型不活性化はチャネルの不活性化機構の1種であり,脱分極状態が続くことにより引き起こされるが,その分子機構はわかっていない.そこで,脱分極直後にC型不活性化が起こるためにイオン透過が殆ど見られないKv1.2のW366F変異体を対象とし,分子動力学(MD)シミュレーションにより電場中での動態を解析した.本稿では,MDシミュレーションおよび3D-RISM理論による解析結果から電位依存的な不活性化の機構を考察する.
著者
畠山 允 緒方 浩二 中村 振一郎
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.223-229, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
27

植物とシアノバクテリアの酸素発生中心について筆者らの考究と理論計算の結果を紹介する.特に酸素発生と水分解は光誘起電荷分離の結果として生じるという観点から,正電荷の担体たる正孔がプロトンに変換される事実を焦点にして酸素発生中心を議論する.酸素発生中心を形作る原子軌道や内外の水素結合ネットワークが如何にして電荷を整流するか,その滲み出しの詳細理解に迫る試みの一端として筆者らの古典分子動力学計算と量子化学計算により得られた骨子を述べる.
著者
石北 央
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.230-233, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
16

Photosystem II (PSII) におけるS0 → S1 遷移における基質水分子からのH+放出過程を解析した.Mn4CaO5錯体中のO5 部位からのH+放出はこの過程では起こりにくいことが明らかとなった.
著者
庄司 光男
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.238-242, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
19

光化学系II (PSII)は光合成において水分解反応を担っている.PSII 反応の分子機構は未だ多くが未解決であり, まさに議論が白熱している時期であるが,これまでの実験研究と理論研究についての理論化学研究からの一見解をまとめてみた.我々はS2 → S3 反応過程とS3 → [S4] → S0 過程における基質水分子の挿入反応過程について理論研究を進めてきているので,それらの解説を通じて,PSII における特異的反応機構を考察した.
著者
川上 貴資
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.234-237, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
5

光合成(PSII)の酸素発生錯体(OEC)で機能するCaMn4O5 クラスターの分子軌道計算では,UB3LYP (およびUB3LYP*(HF:15%), UB3LYP**(10%)など)が適用され,実験事実の解析に効果的である.このhybrid DFT 法の 精度を検証するには,最新の高精度計算手法を適用する必要がある.単核Mn モデルでの結果を報告する.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.270-276, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
14

分子動力学法(以下,MD法) は,モンテカルロ法とともに,統計力学の数値解法である.モンテカルロ法は,統計力学の物理量の期待値の公式を,ボルツマン分布を実現する乱数を用いた数値積分により求める方法であり,分子動力学法に比べてより直接的に統計力学と結びついている.一方,分子動力学法は,エルゴード仮説により,分子動力学法で計算される物理量の時間平均値が統計力学で定義される物理量のアンサンブル平均と等しいという仮定の下に統計力学の数値解法となっている.今回は,等温等圧アンサンブルと数値積分法の基礎とその計算方法について説明する.
著者
三上 益弘
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.252-257, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
8

分子シミュレーション(分子動力学法,モンテカルロ法)の計算において,多くの計算時間を消費する計算処理は原子に作用する力又はポテンシャルエネルギーである.その中でも,逆冪で減衰するクーロン力の計算は最も計算時間を必要とする.そのため,クーロン力の高速計算法の開発は,古くから始まった.Ewaldは,1921年にエバルト法を開発したが,コンピュータが誕生する以前だったので,本格的に利用が始まったのは1971年に溶融塩の分子動力学シミュレーションからである.その後,粒子メッシュエバルト法などが開発されたが,根本的に異なる方法は,もう一つの逆冪力である重力を用いる天体力学の分野で開発された,高速多重極子展開法である.ここでは,この二つの長距離力の高速計算法の基礎について述べる.
著者
山口 康隆
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.23-27, 2011 (Released:2012-02-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1

SPH法は,粒子を用いたメッシュフリーのマクロスケールの流体シミュレーション手法の一つである.本稿では,表面張力の影響を加味したSPH法を用いた液滴の液膜への衝突計算例を示した.クレーターの形成から表面張力の影響により現れる王冠状の縁,更に回復過程に現れるjet状の液柱の立ち上がりに至る現象の再現が可能であり,クレーター成長過程までは実験結果と定量的にも良く一致している.
著者
宮口 智成
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.155-158, 2016-07-31 (Released:2017-07-31)
参考文献数
13

一分子計測実験等で得られた分子軌道の時系列データ解析手法として, 時間平均二乗変位(time-averaged mean square displacement: TMSD) テンソルを用いた方法を提案する. 具体例として, 簡単な高分子モデル(レプテーションモデルと剛体棒状ポリマー) に対し, この解析手法を適応した結果を紹介する. 特に,TMSDテンソルの相関関数に生じるクロスオーバー現象から最も遅い緩和モードの緩和時間が得られることを示す.
著者
遠藤 克浩 湯原 大輔 泰岡 顕治
出版者
分子シミュレーション学会
雑誌
アンサンブル (ISSN:18846750)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.39-44, 2019-01-31 (Released:2020-01-31)
参考文献数
11

分子動力学シミュレーションは分子のふるまいを調べるための汎用的で強力な手法であるが,目的によっては巨大な系で長時間のシミュレーションを実行する必要があり,その計算コストは途方もないほど大きくなる場合がある.この計算コストの問題を解決するために,並列コンピュータを用いて計算を並列化することで計算に要する実時間を減らすことが実現されている.本稿では,並列に計算される短時間のシミュレーション結果から,機械学習によって長時間シミュレーションの結果を予測し,長時間シミュレーションを高速化する「MD-GAN」について紹介する.