著者
中村 昌允
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 = Journal of engineering ethics (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-84, 2008-12-25

集団食中毒事件、JCO臨界事故、そして、最近でも「再生紙への古紙配合比率の偽装」「建築強度の偽装」など、技術の信頼を揺るがすような事故やトラブルが発生している。今回は、これらの事件における技術者の行動に焦点をあてて、技術者の責任を考えてみたい。共通している事は、そこにいる技術者が、実際の現場で判断し行動していることである。それだけに、技術者は科学技術がもたらす危害を防げる最も大きな可能性を有している。21世紀は科学技術への依存度がますます高くなり、一般社会人にとっては、技術者の存在が安全・安心の担保となる。技術者は、各専門分野のプロフェッショナルとして、技術に忠実に判断し説明責任を果たしていくことが、社会からの信頼を得ることになる。
著者
橋本 英樹
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 = Journal of engineering ethics (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.25-42, 2018-11-15

大井川鐵道井川線に日本唯一のラック式鉄道がアプト式により建設され,1990年10月に営業運転を開始してから28年が経過した.ここは 90‰(90/1000)の勾配,橋梁,トンネル,半径100m(R100)の曲線が混在するリスクの大きな区間であるが,開業以来,無事故で運行を続けている. このラック式鉄道の計画,建設,試運転そして営業運転に対して中心的な役割を果たしたのは当時,大井川鐵道の取締役副社長・技師長であった白井昭である. 本稿では,白井昭の技術者としての具体的な取り組みに改めて注目しながら,技術者倫理をについて考える.
著者
瀬口 昌久
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-30, 2017

「研究活動の不正行為への対応等に関するガイドライン」を受けて,多くの大学では研究資料の10年間保存を決めている。本論文では,研究資料10年間の保存という設定の妥当性を検討し,次にデータの保存に関して過去の研究不正と企業におけるデータ改ざん事件を概観したうえで,名古屋工業大学で行った「研究情報の適正な取り扱いを促す研究倫理教育を推進するプロジェクト」をもとに,電子化された研究資料の適正な保管の課題について論じる。
著者
小出 裕章
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-44, 2014

「原子力発電所は決して大事故を起こさない」と宣伝されてきた.しかし,残念ながら福島第一原子力発電所で破局的な事故が起きた.どこにどのような責任があり,一人ひとりの人間,特に技術者が原子力に対してどのように向き合うべきか論じる.
著者
杉原 桂太
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 = Journal of engineering ethics (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.99-121, 2007-11-30

技術者は専門職であるという認知は日本の社会では定着していない。このことは技術者倫理分野における社会契約モデルが技術者に当てはまっていないことを意味する。そゆえに、技術者が倫理規定に従うべき理由づけや、技術業に就く者が特別の責任を負うべき理由として社会契約モデルは採用できないという見解には一定の説得力がある。しかし、社会契約モデルは技術者倫理分野において重視されるべきは、日本の技術者の専門職化を促そうとするものに他ならない。つまり、社会契約モデルを技術者に適用しようとするコンテクストにおいて技術者倫理分野が注目されている。そこで、倫理規定や責任について社会契約モデルと関連づけておく必要性があることになる。
著者
前野 隆司
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 = Journal of engineering ethics (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.45-80, 2014-11-07

講演者はこれまで,人とロボットの身体と心の研究や,幸福学,イノベーション教育等についての研究・教育を行ってきた.同時に技術者倫理教育も行ってきた.講演ではこれらについて概説する.
著者
中島 秀人
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-14, 2008

本稿では、ラングドン・ウィナーの「人工物の政治」という観点を批判的に発展させ、「技術者倫理」が「技術倫理」へとさらに展開されるべきことを論じる。古代において、プラトンやアリストテレスは技術と政治を相関するものと捉えた。だが、産業革命期にこの視点は失われ、技術、そして科学技術が人間を支配する傾向が生じた。さらに、冷戦によりリニア・モデルが優勢になると、人工物は必然的な知識としての科学の成果であるという理解がなされた。しかし、1980年代以降、リニア・モデルの限界が理解され始めた。近年では、科学を担う科学者だけでなく、技術者の役割の重要性が認知されるようになった。このような変化は、作られた人工物の社会的影響だけでなく、どのような人工物を作り出すのかを倫理的に検討する条件を生み出している。
著者
比屋根 均
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.51-77, 2012

本稿は,筆者が技術者倫理教科書『技術の知と倫理』において取組んだ,技術者に無意識のうちに倫理的配慮の足りない判断をさせる要因の追究について,その後の発展も含め纏めたものである.無意識的な要因によって倫理的配慮を不足させていることは,従来の技術者倫理が倫理的想像力を増すことで配慮を行き届かせる戦略を採っているにも関わらず,誠実に仕事に取組む多くの技術者からは不評であり続けており,しかし非倫理的と受け取られるような不祥事や社会対応が続いているという事実から浮かび上がる.本稿ではその無意識的な要因を次の 4 つに分けて論じる.1.学習生活と社会人生活とのギャップへの無自覚,2.判断を誤らせる科学・技術の真実性への誤解,3.独善的態度にさせる判断の客観性への錯覚,4.感じ方の主観性への認識の欠落,である.1 では,長年の学習生活で身につけてきた生活術が,社会人・技術者生活には通用しないこと,及びその認識の浅さが,誤った判断や行動の原因になりえることを指摘する.2 では,理論優先の科学・工学等の教育が,現実よりも理論的であることを真実と感じてしまう性癖を生んでいることを指摘する.3 では,科学的・工学的判断は正しく客観的な価値判断でもあるかのように錯覚している可能性を指摘する.4 では,技術者が本質的に全く客観的には判断できる存在ではないことを明らかにする.本稿は,このような無意識的な要因を指摘し理解させることを,技術者倫理の必須の内容とすべきことを,結論として主張する.
著者
中里 公哉
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.143-171, 2007

航空会社の技術者は、最も人命の安全に関わる仕事に携わっているといえる。航空機整備の責任者を長く務めた技術者としての経験を通し、日航ジャンボ機墜落事故などのさまざまな飛行機事故の分析と教訓から、いかにしてヒューマン・エラーを防止し、航空機の安全を守るかについて論じる。
著者
瀬口 昌久
出版者
名古屋工業大学技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-28, 2007

法律で義務づけられた障害者用施設等を完了検査後に撤去して営業していたホテル東横インの不法改造問題は、経営倫理の欠如や単なる法令違反に尽きない大きな倫理的問題を提起した。それはハートビル法や建築基準法などの法令違反にとどまらず、バリアフリーやユニバーサルデザインという社会の根幹的なデザインに関わる倫理問題である。本論は、まず東横イン不正改造問題の事例を検証し、次に「ユニバーサルデザイン政策大綱」の理念のもとに「ハートビル法」と「バリアフリー法」が統合された「バリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)」の可能性と問題点を、「障害をもつアメリカ人法」との対比を軸に考察する。