著者
楊 善英
出版者
国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要
巻号頁・発行日
no.9, pp.95-105, 2005

日本キリスト教婦人矯風会(以下、矯風会と略記する)は、近代日本における廃娼運動を担った女性団体である。矯風会は1893年に全国的な組織となり、支部の新設や会員の増加に力をいれる一方、地域の女性団体との連帯を模索していく。矯風会は当時において、女性ネットワーク運動の先駆的なものであったといえる。さらに1923年の関東大震災に際しては、女性団体を糾合し震災救援活動を行い、東京婦人連合会の結成に至るまで、中枢的な役割を果たしていくことになる。また、焼失した遊廓の再建に反対する運動を繰り広げるとともに、東京連合婦人会の研究部を母体とする公娼廃止期成同盟会を組織し、多様な活動家や参加者を吸収しながら、廃娼運動の全国的な展開を図ったのである。かくして、廃娼をめぐる世論が急速に高まり、その反響は国内にとどまらず、朝鮮にも波及していくことになる。日本の廃娼運動記事や廃娼論が朝鮮の日刊紙やキリスト教関連新聞・雑誌に取り上げられ報道されるとともに、芽生えつつあった朝鮮の廃娼運動を刺することになったのである。本稿は、矯風会の機関誌『婦人新報』を主な資料として実証を行うと同時に、従来研究においてほとんど使用されていなかった『婦人公論』『婦女世界』や朝鮮で発行された『毎日申報』『基督新報』などの新聞・雑誌をも参考資料として扱い、関東大震災直後、女性間に活発化していったネットワークを背景にして、社会運動かつ政治運動へと発展していく廃娼運動に着目し、その展開過程で見られる廃娼運動に対する反応や世論、そしてその反響を検討したものである。
著者
角田 由紀子
出版者
国立女性教育会館
雑誌
NWEC実践研究
巻号頁・発行日
vol.9, pp.54-74, 2019-02-28
著者
坂田 静香
出版者
国立女性教育会館
雑誌
NWEC実践研究
巻号頁・発行日
vol.8, pp.111-126, 2018-02-28
著者
南茂 由利子
出版者
国立女性教育会館
雑誌
国立女性教育会館研究紀要 = Journal of the National Women's Education Center of Japan
巻号頁・発行日
vol.8, pp.71-80, 2004-08-01

アメリカ合衆国の著名な法学者キャサリン・A・マッキノンの提起するフェミニズム理論を検討する。まず、彼女の最重要課題が、セクシュアリティにおける平等であることを明らかにする。マッキノンは、現在のセクシュアリティ概念自体が男性優位社会の構築物であるとして、新たなセクシュアリティ概念の構築を主張するが、その具体的な内容は示さないままである。本稿は、それがマッキノン理論の根本的問題に由来すると捉えて、その克服方法を考察するものである。根本的問題とは、生殖の社会性という視点の欠落と、性別以外の社会的関係の無視である。それらを土台とするマッキノン理論は、「人種」、民族、階級等々の社会関係に規定されているセクシュアリティの現実を変革する具体的ヴィジョンを示すこともできない。男女平等をめざすにあたり、性別を理由とする不公正を正すうえで、セクシュアリティ追究の平等を中心に据える彼女の姿勢は、性別以外の人間の社会的諸関係を捨象したセクシュアリティ中心主義ともいうべきものである。それは、性別に限られない諸関係の中に位置づけられて生きている女性達の現実を打破する思想・運動の中心課題にはなりえない。マッキノンは、私的領域が女性抑圧の温床となることが避けられないとしてその廃止を提起する。それが誤った現状認識に立つ危険な提起であることを、本稿は論じている。ファリダ・アクターを主たる参照先としながら、公・私二領域論によっては社会の構造と人の営みを捉え得ないことと、マッキノンの提起が人の営みを国家が統括する法の監視にさらす危険を孕むことを明らかにする。近代以降広範に浸透した公・私二領域論を克服するためには、人間存在の二重性を再認識し、「個」を社会的に埋没させることのない民主的な社会関係の創造とともに、従来の公・私二領域という二元論を超える新しいイデオロギーの創造が必要とされる。