著者
儀利古 幹雄
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

最終年度は、漢語複合名詞アクセント(例:末広町、運動会)の平板化に焦点を当てて研究を行った。はじめに漢語複合名詞に関する全体的な調査を行った結果、アクセントの平板化を起こしている度合いが著しい語群が観察されたので、それらを特に重点的に調査した。具体的には「~町」「~会」「~祭」といった漢語複合名詞について、そのアクセントが平板化を起こしているかどうか、起こしているとすればその要因はどういったものなのかを調査・分析した。調査の結果、「~町」「~会」「~祭」という漢語複合名詞のアクセントは、高年層から若年層へと世代が下るにつれて平板化を起こしていることが明らかになった。ただ、これらの語群のアクセントの平板化には、話者の世代という言語外的要因以上に、言語内的要因(言語構造的要因)が大きく影響を及ぼしていることも統計的に明らかになった。具体的に述べると、前部要素(「末広町」の「 末広」、「運動会」の「運動」)が3モーラである場合は4モーラである場合と比較してアクセントの平板化の進行具合が早く、また、2 モーラや5モーラ以上である場合はアクセントの平板化は起こらないが明らかになった。さらに、前部要素の末尾の音節構造が重音節の場合は軽音節の場合と比較して、アクセントの平板化の進行が遅いことも明らかになった。これらの結果は、アクセントの平板化という言語変化現象は、ただ単に「若者」が引き起こしているのではなく、言語構造そのものにも大きな原因がある、すなわち、アクセントの平板化を起こしやすい語と起こしにくい語がそもそも存在しているということを示唆している。この結果は、アクセントの平板化の原因として言語外的要因のみを重点的に扱ってきた従来の研究に対して一石を投じるも のである。
著者
窪薗 晴夫
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

学会・研究会・集中講義等を利用して、言語学専攻・専修を有する大学の教員および学生(学部生、大学院生)に対して聞き取り調査を行った。また国際会議に来日した海外の研究者から、海外(主に欧米)の主要大学における言語学プログラムに関して情報を得た。これらの調査の結果、海外の大学と比較した場合に、日本国内の言語学プログラムについて次のような状況が浮かび上がった。1.多くの大学において、大学院重点化の結果、学部生向けの授業や研究指導から大学院生向けの授業・研究指導にカリキュラムの重心が移り、10年前に比べると学部生用のプログラムの比重が小さくなっている。とりわけ、学部生向けの授業が減少し、大学院生向けの授業と合同になっているところが多い。この結果、学部レベルの教育が不十分であると認識している教員が多い。2.その一方で、大学院の教育が充実しているかというとそういうわけでもない。10年、20年前に比べ、大学院生の数が倍増しており、研究指導にかかる時間が倍増しているものの、大学院生一人ずつの研究指導という意味では、以前より充実しているとは言えない。また、合同の大学院演習や研究発表会に予想以上の時間をとられているという教員も多いようである。3.大学全体の予算削減や、学長や学部長レベルの政策的経費が増えていること等の影響で、講座や教員に対する研究費が削減されてきており、研究図書費が大幅に減少している。大学院生が研究遂行のために必要とする研究図書費用や実験費用を教員の科研費でカバーしているところも少なくない。
著者
相澤 正夫 田中 牧郎 金 愛蘭
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

国立国語研究所は、難解用語がもたらす言語問題への具体的な対応策として、「外来語」と「病院の言葉」を分かりやすくする提案を行なっている。これらの提案は、新しい外来語や医療用語のように一般になじみの薄い難解な用語が濫用され、国民一般の情報伝達に支障が生じている今日の社会状況を考えると、「情報弱者」を支援するための具体的な方策を提案している点において、「福祉言語学」を実践する新たな研究モデルの一つと位置付けることができる。
著者
A Bugaeva
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アイヌ語は消滅の危機にある。系統関係は不明で、いずれかの古い語族の名残であろう。アイヌ語の研究は、北東アジアの言語史、また人類の知性の多様性の理解において、重要な意義を有する。本プロジェクトでは、フィールド調査によって得られたアイヌ語の音声資料のコーパス構築を進めた。さらに、このアイヌ語資料のコーパスに基づいてアイヌ語動詞範疇に関する類型論的研究を行った。アイヌ語のヴォイス(充当、使役など)についていくつかの論文を発表し、またヴォイス標識の相互作用について研究を行ってきた。本研究はアイヌ研究を世界に広く知らしめ、人類の知的財産へのアイヌ語の言語的・文化的貢献の理解を助けるものになるだろう。