著者
水内 俊雄 福原 宏幸 花野 孝史 若松 司 原口 剛
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修
雑誌
空間・社会・地理思想 (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.7, pp.17-37, 2002
被引用文献数
1

1. 差別と偏見の心象地理 : 1996年3月, 大阪市西成区の中学生たちが, 愛読していた少女向け漫画雑誌「別冊フレンド」の大阪を舞台設定とした連載で, あるコマ外に西成に対してコメントがあり, これは問題であると教師に訴える出来事があった。そのコメントは, 兄が高校を中退して家を出てからずっと西成に住んでいるという弟の台詞に対して, 「西成*大阪の地名, 気の弱い人は近づかないほうが無難なトコロ」と, 副編集長はわざわざこの西成のことを補足するために, 枠外にこのような注をつけたのである。その中学生の先生への相談は, 同和地区でもあり, こうした生徒への対応が敏速におこなわれ, 結局は西成区民全体が見逃すことのできない問題として, 雑誌社への謝罪などを訴える大きな動きへとつながっていった。……
著者
Pun Ngai Wu Ka Ming 水内 俊雄
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修
雑誌
空間・社会・地理思想 (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.8, pp.131-143, 2003

返還後香港は, 特に居住権のための苦闘という点から見れば, 一連の市民権の闘争に彩られてきたといえる。居住権運動は, 返還後香港の社会生活の焦点であった。そして香港では, 市民権とアイデンティティの意味や政治を競い合う, 新しい文化的かつ政治的な領域が膨らんできた(Ku, 2001)。コミュニティや帰属および文化という考え方が, もはや抽象的な概念ではなく, 激しい論争の渦中であり続けたのである。4年間続いたが, 香港市民になった中国本土生まれの子供たち, 期限超過の居住者が, 香港警察に逮捕され中国本土へ送還する動きが最終的にとられた2002年までには, この運動は沈静化してしまった。……
著者
Pred Allan 西部 均
出版者
大阪市立大学大学院文学研究科地理学専修
雑誌
空間・社会・地理思想 (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.9, pp.148-167, 2004

本稿は, 従来とは異なるタイプの地域地理学あるいは場所中心の地理学のために, 理論的基礎を提示するものである。その枠組みは, 時間地理学と登場しつつある構造化理論を集約したものに基づいている。それはまた, 景観として眼に映るさまざまな特徴の組み合わせとしてだけでなく, 絶えず生成する人間の生産物としても, 場所を概念化することで構築される。場所はひとつの過程とみなされ, その過程を介して社会的・文化的諸形態の再生産, おのおのの個人誌の形成, 自然の変形がやむことなく相互生成し, 同時に時間-空間の種別的な諸活動や権力諸関係が絶え間なく相互生成する。さらに, こうした諸現象が場所や地域の生成過程に織り込まれるときには, 普遍的法則にしたがうのではなく, 歴史的状況に応じてさまざまなやり方があると強調される。その枠組みからおのずと浮かび上がる三つの経験的論点について, 手短に検討される。