著者
布山 タルト
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.55-66, 2020-03-31 (Released:2021-05-07)
参考文献数
15

日本の初等・中等教育におけるアニメーション教育はどのような教育的意図をもって行われてきたのか。その歴史的経緯を明らかにすることを目的として、中学校の美術科に焦点をあて、同科目の教科書で扱われてきたアニメーション題材について調査を行った。計309冊の教科書から49の題材を抽出し、4つの時期に区分してその変遷を通時的に分析した。中学校美術教科書における最初のアニメーション題材は1955年に構成教育に力点をおいた教科書に掲載され、その題材は構成教育、メディア教育、創造性教育という3つのねらいを含むものであった。その後1970年代には新たに視覚的コミュニケーション教育の側面が加わり、2010年代以降に協調的コミュニケーション教育という方向性が生まれた。中学校美術のアニメーション題材は時代とともにその教育のねらいが多様化しており、現在は5つのねらいが多面的に含まれている。
著者
布山 タルト
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.3-16, 2019-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
19

アニメーション教育を「動きの探求教育」として捉え、その具体的な指導方法の一つとして、複数のアニメーション映像を画面上に並置して見比べる比較観賞教育の可能性を検討する。2本のアニメーション映像を順次再生条件のみで視聴した場合と、並置再生条件も加えて視聴した場合とを比較し、後者の条件において同一映像を2回目に視聴した時の評価に伸びが生じるかを検証した。その結果、特定の刺激映像の動きの「自然さ」の評定尺度において両群の有意差が見られ、並置映像視聴条件における得点の伸びのほうが大きかった。この評定尺度は、Osgood & Suci (1955)の3つの主要因子のうち「評価性因子」に対応するものと考えられ、並置映像視聴による効果が表れやすいのは同因子に関連した評価である可能性が示唆された。
著者
松本 淳
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.17-26, 2018-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
16

日本の商業アニメーションの世界で CG作品が存在感を増している。 2013年10月に放送された『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』がその起点となり、 2017年現在も1月より放送された『けものフレンズ』と、4月より放送されている『正解するカド』が話題となっている。これらに共通するのが、3DCGを作品制作に用いている点となる。3DCGがアニメーションに及ぼす影響は、単に制作手法に留まらず、アニメーションのビジネスひいては産業構造にも至る。本論文では、各作品のプロデューサーらへのヒアリングと先行研究を用いて、その考察を行いたい。
著者
布山 タルト
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.27-38, 2018-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
10
被引用文献数
3

日本の初等教育におけるアニメーション教育に関する歴史的知見の蓄積を目的として、小学校の図画工作の教科書の中でアニメーション題材がどのように扱われてきたかを調査した。計677冊の教科書から25の題材を抽出し、4つの時期に区分してその変遷を俯瞰した。本稿の通時的視点からの分析を通じ、図画工作教科書におけるアニメーション題材の発祥と、その後の変遷が明らかになった。またそれらの題材に通底するアニメーションの教育的意義には「ヴィジュアルコミュニケーション教育」としての側面と「経験主義教育」としての側面があることを示した。
著者
萱間 隆
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.39-48, 2018-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
30
被引用文献数
1

『くもとちゅうりっぷ』(1943)と『桃太郎海の神兵』(1945)は、アジア・太平洋戦争期の傑作として扱われてきた。そして、両作に関する研究が盛んになるにつれ、その政治的含意がさまざまな形で指摘されている。その一方で、これらに特徴的にみられるリップシンクについては議論されてこなかった。そこで本稿では、両作の制作に携わった政岡憲三に着目し、 2つの問いを検討する。 1つは、リップシンクがどのようにして取り入れられるようになったかである。この点については、フライシャーなどアメリカのアニメーションからの影響があった。もう 1つは、『くもとちゅうりっぷ』と『海の神兵』におけるリップシンクが何を表象していたのかであるが、これは「大東亜共栄圏」の建設など政治性が強く関係していた。この 2つの問いを考察することによって、戦前の政岡がアメリカの制作手法を模倣しつつ、輸入されたアメリカのアニメーションに対抗しようとしていたことを論じる。さらに、アメリカの作品の上映が禁止されたアジア・太平洋戦争期において、政岡は芸術性の高いアニメーションを制作することでアメリカに対抗しようとしていた。このような彼の思想と『海の神兵』の監督である瀬尾光世の思想とが、どのように異なっているかについても分析を行う。