著者
長谷川 雅弘
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-46, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
9

アニメのビジネスは1960年代から拡大を続けてきたが、その根幹となるアニメ制作費の決定プロセスは明らかではない。本稿では制作会社に所属するプロデューサー3名へのヒアリングによって、制作費の決定プロセスを、その算出方法と交渉内容と共に明らかにするものである。
著者
萩原 由加里
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.51-60, 2020-09-30 (Released:2021-05-07)
参考文献数
18

『平成狸合戦ぽんぽこ』はスタジオジブリによって制作されたアニメーション映画で、 1994年 7月公開されている。原作・監督・脚本を高畑勲が務めている。本論では、日本におけるニュータウン開発が作品の中でどのように描かれているのか、またそのために高畑をはじめとするスタッフたちは、多摩ニュータウンを中心とした多摩丘陵の歴史を、どのような体験を交えながらアニメーション制作に取り込んでいったのか。多摩ニュータウンの成立過程と、それが本作にどう反映されているのかという視点から『平成狸合戦ぽんぽこ』という作品を分析していく。
著者
木村 智哉
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.17-30, 2020-09-30 (Released:2021-05-07)
参考文献数
9

本稿では、東京都労働委員会での審問記録を翻刻し、その意義について解説を加えている。これは東映動画における労使紛争の一側面を示す史料である。この史料には高畑勲や、後に東映動画社長となる登石雋一の思考過程、そして東映動画の労働慣行や職員の意識など、多くのトピックが表れている。こうした史料の分析は、過去の作家や作品の分析に拠ってきたアニメーション史研究の視点と方法論の刷新をもたらすだろう。
著者
木村 智哉
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.15-27, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
65

現代のアニメーション産業への関心に比べ、その歴史の研究事例は少ない。これは学術研究上のディシプリンや課題の説明が、アカデミアに不足しているからである。本稿ではその解決を試みる。歴史研究を例にとれば、ポピュラー文化に関する記述は、まず通俗的社会批評により始められた。そして次に、社会史によるメディアの政治性の研究が行われた。しかしこれらの研究は、社会批評や社会史の関心を再確認する過程に留まる傾向があった。人文・社会科学一般の方法論に視点を広げれば、産業や企業の役割よりもユーザーの営みに注目することが主流である。だがこうしたアプローチは、文化産業が組み込まれている資本の論理には関心が薄い。アニメーション産業史の研究は、ポピュラー文化と資本の論理の関係についての議論をもたらし、その構造がいかに歴史的に変化したのかの事例研究を導くことで、人文・社会科学の方法論と視点を更新する大きな可能性を持つ。
著者
バロリ アルバナ
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.53-66, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
25

アルバニアのアニメーションは社会主義時代の1975年から作り始められ、多くのヨーロッパの国々に比べるとより遅く誕生している。本論文では社会主義体制であった1980年代に製作された9本の大人向けアニメーションに焦点を当てる。社会主義に賛同していた人、洗脳されていた人もいれば、制度に迫害されて苦しんでいた人、不満を持った人、そして社会主義のメリットとデメリットをよく理解していた知識人もいた。作品をどのように受け取るかは見る人の立場によって違ってくる。社会主義体制においては制作者が政府のイデオロギーに従わないといけない現実があったが、芸術と政治的プロパガンダは矛盾する側面を持っている。このことはアルバニアの大人向けアニメーションではどのように表現され、さらに、政治的プロパガンダの強制下でアニメーション芸術家はどのように芸術としての自律性を保っていったのだろうか。
著者
佐野 明子
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.17-29, 2019-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
73

『桃太郎 海の神兵』(1945)の映像実験について検証する。おもに影絵アニメーション、ミュージカル映画、ドキュメンタリー映画、プレスコと透過光の採用に着目して映像テクスト分析を行う。同時に、物語映画の話法が適宜用いられることによって、多様なイメージが拡散することなくストーリー(日本の勝利)へ収束され、観客を吸引しうる作品となるさまを分析する。そして、日本のアニメーションでは描かれてこなかった本格的な「死」の表象が、『海の神兵』に現れている可能性について論じる。そのうえで、『海の神兵』がプロパガンダ映画であるとともに、殺人を正当化する戦争の根本的な矛盾を問いかけるような両義的な作品である可能性を示す。本論文では、瀬尾光世がプロキノ時代から培ってきた宣伝力と、たしかな演出力にもとづく映像実験によって、『海の神兵』が映像史上において稀有であり、かつ今日的な意義を有する作品であることを明らかにする。
著者
藪田 拓哉 佐々木 淳
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.25-35, 2021-03-31 (Released:2021-11-06)
参考文献数
18

本研究では、アニメーション療法の基礎研究として、アニメ視聴によって視聴者に生じた心理学的体験とその影響を実証的に分析、分類することを目的とし、アニメ視聴による心理学的体験と影響の構造化を行った。その結果、アニメ視聴による心理学的体験は【気持ちの高揚】、【気晴らし】、【共感的反応】、【現実への還元・関連】、【作品の構成要素に対して抱く魅力】、影響は【ポジティブな気持ちへの自己変容】、【自身のあり方の模索、変化】、【作品への関与と作品を越えた活動】で構成された。本研究によりアニメの心理学的体験はさまざまなポジティブな体験で構成されることが明らかとなった。またアニメの心理学的体験からその影響に至る体験過程についての示唆が得られた。
著者
藤原 正仁
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-32, 2016-09-07 (Released:2023-02-18)
参考文献数
76

本研究の目的は、今 敏のライフストーリーの観点から、今 敏監督の人間像、今 敏監督作品の創造過程、そして、今 敏監督と今 敏監督作品との連関について明らかにすることである。本研究では、アニメーション作品、絵コンテ、日記、ブログ、ウェブサイト、エッセイ、音声解説、記事などの資料調査に基づく質的研究の方法論を採用した。その結果、今 敏は、仕事と仲間とともに、アニメーション監督という職業を通して、アイデンティティを確立させながら、自らを表現しようとしていることが明らかにされた。今 敏監督は、絵を描くことによって、想像力を拡張し、創造性に富んだ新しいアニメーションの表現に挑戦し続けた。彼のアイディアは、現実と対峙し、予期しない出来事や偶然の出会いが源泉となっている。とくに、平沢進の音楽と筒井康隆の小説の影響を受けており、これらの世界観は、今 敏監督のアニメーション作品に活かされている。さらに、今 敏監督は、日常生活の中での想像力を作品に反映している。本研究の結論として、今 敏は、自らの人生の意味を探求しながら、アニメーション作品の中に、彼自身の人生のテーマを表現し続けたことが明らかにされた。
著者
アルト ヨアヒム
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.31-41, 2019-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本稿は、日本国民の第二次世界大戦についての集合的記憶における広島への原爆投下の役割から出発し、原爆投下を扱った「戦争アニメ」を取り上げる。戦争アニメのナラティブの方向を確認するために用意した分析モデルを利用し、主な論点は作品の時空間的な舞台によるのフレーミングに起きた変化である。さらに、各作品のそれ以外の特徴も簡潔に考察する。後者の特徴には例えば各作品の間に起きた「主人公」のキャラクターの変化と物語の中に起きる主人公の成長といった点が含まれている。また、有名ではない作品が広島への原爆投下のメディア的なイメージに与えた影響に対しての学術的な観察の欠如を本稿では批判的に焦点を当てる。最終的には、対象作品の特徴の社会的な背景も触れながら論じる。
著者
中島 信貴
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.49-54, 2018-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
9

1980年代初頭コンピュータゲームの黎明期、2D中心のゲーム映像は日本のアニメーション技法を取り入れながら進化をスタートさせた。21世紀からは3DCGの技術を取り入れハードソフトとも進化し、今日、VR(ヴァーチャルリアリティー)やMR(ミックスドリアリティー)の時代に入った。その過程で常にクリエイターに突きつけられてきた課題がアニメーション表現である。ハードウエアの厳しい制約の中で、いかに美的な動きを提供できるか問われ続けてきたゲームのアニメーション。その原点を考察する。次にゲームの原点である「遊び」の要素とアニメーションとの密接な関わりを論じる。最後にゲーム特有のアニメーションについて述べる。
著者
雪村 まゆみ
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.89-100, 2023-01-31 (Released:2023-02-11)
参考文献数
24

アニメ聖地巡礼の世界的な人気を背景に、その経済効果を期待している地域社会も多い。本研究の目的は、アニメ聖地巡礼がアニメーションをめぐるアート・ワールドをいかにして地域社会のなかで拡張していくのか、検証することである。まず、ロケハンや遠近法の開発を事例に、キャラクターだけでなく背景美術への着目度が高まったことを明らかにした。つぎに、能動的オーディエンスは、聖地巡礼の興隆以前からアニメーションの視聴にとどまらない消費を雑誌上で行ってきたことを指摘した。背景美術が着目されることで、聖地巡礼が盛んにおこなわれるようになったが、それは日常のありふれた場所であることも多い。現実空間と作品を結びつけることで、そこに新たな文化的価値が創出される。アニメーションをめぐるアート・ワールドが地域社会と重なり合いながら醸成していくことで、開発によって失われていた地域社会における中心が取り戻されようとしている。
著者
スティービー・スアン
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-15, 2017 (Released:2019-10-25)
参考文献数
25

アニメーションは命を持たない「モノ」(物理的客体)を動かし、その「モノ」に行為をさせる力が注目されてきた。人間や動物、そしてモノの「体」がどのようにアニメートされるかによって、行為者としての成り立ちが変わってくる。アニメーションにおいて、動きの形式は、特定の行為者性あるいは「自己性」を伴う。ドナルド・クラフトンはアニメーションを分析するためにアニメーションのパフォーマンスを、体現的パフォーマンスと修辞的パフォーマンスに分類して概念化している。本稿では、これらの概念をより詳細に把握し日本のテレビアニメの研究に活用することを目的とする。体現的演技という概念は、キャラクターの表現は、個別化された動きによって生み出され、内部と外部をもつ個人として成り立たせる。他方、修辞的演技は様々な仕草や記号化された表現を通して演技が行われるのである。そして、記号化・コード化された表現に頼るパフォーマンスとしては既存の表現を基にしており、それを異なる文脈で繰り返し採用するのである。これら2つの形式は、それぞれの両端において、「自己」についての異なる概念を制定する。体現的演技は、動きを示す「モノ」に近代的な個人主義の概念を演じさせるのに対し、修辞的演技は「個人主義的な自己」よりも、既存のコードを引用することによる複合構成的なものとしての「自己」を中心に据えるのである。