著者
遠藤 邦彦
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.66-78, 1993-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
27
被引用文献数
1

左頭頂葉急性硬膜外血腫除去術後,複数の感覚系にまたがる感覚限局性失語を生じた1症例,および左被殻出血吸引術後,失語症と意味記憶障害を生じた1症例をもとに,物品呼称の神経機構を検討した.感覚連合野で分析された物品の形態,素材等の情報が下側頭回の意味記憶と照合され,それが何であるか認知され,意味記憶からの情報は語彙系を通して音韻像に変換され,左上側頭回に音韻像が把持され,その音を構音するための運動記憶が左下頭頂小葉から呼び出され,それに照らし合わせて左運動皮質が構音器官に指令を送ると考えられる.この情報処理過程の損傷部位に対応して物品の失認(感覚連合野と意味記憶系の離断),感覚限局性失語(認知系と言語系の離断),意味記憶障害(意味記憶自体の損傷),失語症(語彙・音韻系の障害)による呼称障害を生じると考えられた.これらの病態は病巣の広がりに対応して合併して生じうる.
著者
北野 市子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.120-124, 1998-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
4

「カ行の発音がおかしい」と訴えて来談した成人男性(以下クライエント)との面接事例を報告する.このクライエントには構音障害が認められなかったが,本人は仕事に支障をきたすほどの苦痛を感じており,心理的問題が疑われた.2回めの面接で筆者はクライエントに対して心理的問題の存在を指摘した.その後,クライエントは精神科を受診し,境界性人格障害(borderline personality disorder)の診断を受けた.今後,こうした心理的問題が言語障害の訴えとなって来談するケースが増える可能性がある.こうした事例にどのように対処するのか,ことばの問題がはらむ心理的諸問題に関し,STが臨床心理学的視点をもつ有用性について考察した.
著者
崎原 秀樹 綾部 泰雄
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.12-17, 2000-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

東京都吃音者講習会が吃音とどのように取り組んできたかについて検討した.この講習会は,東京言友会が東京都の委託を受けて1972年から始められた.講習会は,吃音問題を(1)生きる姿勢への取り組み,(2)話し方の工夫,の2つの視点から扱ってきた.またそのプログラムは全員被助言者・全員助言者の原則により進められた.言語や心理の臨床家として,このような取り組みに対してどう協力ができるのかについて考察した.