- 著者
-
遠藤 邦彦
- 出版者
- 日本コミュニケーション障害学会
- 雑誌
- 聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.1, pp.66-78, 1993-04-30 (Released:2009-11-18)
- 参考文献数
- 27
- 被引用文献数
-
1
左頭頂葉急性硬膜外血腫除去術後,複数の感覚系にまたがる感覚限局性失語を生じた1症例,および左被殻出血吸引術後,失語症と意味記憶障害を生じた1症例をもとに,物品呼称の神経機構を検討した.感覚連合野で分析された物品の形態,素材等の情報が下側頭回の意味記憶と照合され,それが何であるか認知され,意味記憶からの情報は語彙系を通して音韻像に変換され,左上側頭回に音韻像が把持され,その音を構音するための運動記憶が左下頭頂小葉から呼び出され,それに照らし合わせて左運動皮質が構音器官に指令を送ると考えられる.この情報処理過程の損傷部位に対応して物品の失認(感覚連合野と意味記憶系の離断),感覚限局性失語(認知系と言語系の離断),意味記憶障害(意味記憶自体の損傷),失語症(語彙・音韻系の障害)による呼称障害を生じると考えられた.これらの病態は病巣の広がりに対応して合併して生じうる.