著者
古木 明美
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.106-110, 2001-08-30
参考文献数
3
被引用文献数
3

聴覚障害児にとって,圧倒的に多い聴覚障害をもたない子どもたちの中で共に育っていくことは,さまざまな困難に出会うことを予測させる.本稿では,初めに幼児期のインテグレーションにおける支援を筆者の所属する施設に併設のルーテル愛児幼稚園でのインクラス指導の実践を中心に報告した.学齢期は,本人を取りまく環境への支援が大きく,学校,学級担任への情報提供や問題解決のための協力など言語聴覚士としての役割について述べ,本人や本人を取りまく環境へのさまざまな支援をまとめた.聴覚障害児が自分を認めて聴覚障害をもたない者ともかかわっていくような気持ちを育てるための幼児期・学齢期のインテグレーション支援のあり方を考察した.
著者
MENN Lise 田中 裕美子 荻野 恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.127-138, 2005

言語障害をもつ人々の言語産生能力を,ナラティブで評価するのは難しい.しかし,ナラティブ能力の測定法は,言語障害が一次的なものか認知障害と合併しているものかにかかわらず,また発達性(SLI,精神遅滞,自閉症)であっても,後天性(流暢・非流暢性失語,認知症,脳外傷等)であっても,コミュニケーション能力の全体像を把握する過程において欠かせないものである.今回の発話サンプルには,語彙や統語能力の問題を含む幅広い言語の問題がみられる.また,いくつかの物語の内容を混ぜ合わせたり,必要な情報を提供しようとしないなど,認知/情動障害から二次的に生じていると思われる問題もみられる.現在使われている一面的な測定法は,このような問題を把握するためには十分でない.それぞれの言語において,研究者は信頼性・安定性・感度・妥当性のある多面的な測定法を開発することが必要である.
著者
涌井 恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.63-73, 2003-08-30 (Released:2009-11-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究は発達障害児集団において短期援助スキル訓練を行った後,強化の随伴単位をペアとする集団随伴性が標的行動(相談やりとり)に及ぼす効果と自発的な援助行動の会話調整機能について個人随伴性と比較した.その結果,対象児3名中2名には,集団随伴性が標的行動の獲得に及ぼす効果は明確には示されなかった.介入終了後の集団随伴性の理解度についてのアセスメントから,残りの1名は集団随伴性の相互依存性を全く理解しておらず,実際は集団随伴性期に漠然とした個人随伴性による強化が働いていたことが示された.先述の2名は,相互依存性を理解していたものの,ペアの強化まであといくつ正反応が必要か逆算できず,また,ペアの不足(誤反応)分を自分が補えることを知らなかった.自発的な援助行動には三者三様の結果が示された.本研究から,発達障害児集団に集団随伴性を適用する際に考慮すべき条件の1つとして対象児の数的処理能力が指摘された.
著者
山本 正志
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.96-100, 1998-08-30
参考文献数
2

精神発達遅滞児に対するコミュニケーション指導は,子どもが意欲をもって自律的に取り組むことが中心になると考えた.その方法として授業をグループで指導し,指導をゲーム化することを試みた.授業例としてオリエンテーリングやしりとり,身振り歌を報告した.この方法は子どもの意欲を引き出すことに成功し,またいろいろなレベルのコミュニケーション課題を導入するのも容易だった.しかし学習効果の測定はできなかった.
著者
小林 久子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.71-78, 1990-10-31 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

1重度失語症例の9年間にわたる訓練の経過を報告する.症例は初診時63歳の右利き男性.右片麻痺と構成障害を伴い,観念運動失行も疑われた.自発語はわずかな残語のみで,発話開始時には発語器官の模索行動が顕著であった.最初の3年間,言語機能の改善を目的とした訓練をおこなったが,目立った改善はなかった.また指差しやジェスチャー,描画は拙劣でそれらを単一の代用コミュニケーション手段として活用することはできなかった.そのため日常のコミュニケーションに困難を示した.4年目より語用論に基づいた治療法PACE (Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness)を家族の協力を得,また他の患者とともにおこなった結果,描画やその他の手段を併用することが可能になり,また伝達の内容は目前にはないことがらの報告や要求へと広がった.その結果,日常のコミュニケーションは改善し,コミュニケーション意欲の向上が見られた.
著者
林 耕司
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.41-45, 2006-04-30
参考文献数
3

「命を救うような気持ちで言葉を聴いてほしい」「良い環境とは周囲に響き合う魂があることである」「ゆっくり話し良く聞いて虹の橋」筆者はこのようなコミュニケーション障害者が語ってくれる言葉たちに力を得てコラボレーションセラピーを展開してきている.コミュニケーション障害の現場はSTの手によって深く耕され,滋養を与えられていかなければならない.そのためにはコミュニケーション障害者とコミュニケーションパートナー(家族・専門家・会話ボランティア)が協働し,心を響かせ合いながら具体的な方策を展開し,より良い環境を創り上げ未来を切り拓いていく必要があると考えている.この協働=響同作業をコラボレーションセラピーとよびたいと思う.次の4つの方策を展開している.(1) 芸術活動を通した楽しみの共有.(2) 会話ボランティアの養成.(3) コミュニケーション障害者を取り巻く専門職への教育.(4) 失語症友の会支援やグループ訓練の継続.
著者
斉藤 佐和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-10, 2002-04-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
32

ダウン症は特異な言語障害をもつとされ,言語のさまざまな側面の研究が積み重ねられてきた.しかしいまだ不明の点も多く,研究途上である.ここ10数年の国内外の研究を概観し,まとめた.その結果,以下の知見が得られた.(1)言語獲得以前のコミュニケーション能力については,反応の弱さがあるものの,さまざまなタイプのコミュニケーションを行っており,逸脱や大幅な遅れはなかった.(2)構音の誤りは,浮動性が目立ち,口腔器官の器質的障害や舌運動の拙劣さ,筋緊張の低下など運動能力のみでは説明ができず,なんらかの中枢性の障害が予想された.(3)言語表出は,精神年齢に比し発達が遅れた.しかも語彙と構文で異なった発達を示し,語彙の発達が先行した.健常児の発達過程との比較,他の発達障害児との比較では,研究により異なった結果を示した.(4)言語発達の個人差が目立ち,理解,表出の発達のバランスを考えてもさまざまなサブグループが存在する可能性が考えられた.(5)サイン指導が言語理解・表出を発達させるために効果的であることが立証された.しかし日本におけるダウン症児者の言語理解,表出発達に関しての研究はいまだ少なく,これからの課題である.
著者
大井 学
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1994-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
92

「自然な方法」による3つの言語指導法,相互作用アプローチ,伝達場面設定型の指導および環境言語指導に関連する最近の研究を展望し,それらの理論的な背景,技法,効果,今後の方向について検討した.大人との相互作用が子供の言語獲得に及ぼす影響に関する研究に基づく相互作用アプローチは,相互作用を改善し既有の伝達技能の使用を促す効果があるが,それによる新たな言語構造の獲得を示す証拠はない.また高い指示性と低い応答性という仮定の他に指導のモデルを求める必要がある.慣例化された活動が子供の伝達と言語理解を促すという研究結果を基礎としている伝達場面設定型の指導は,標的とされた伝達技能の改善に効果が認められているが,活動の選択や行動連鎖の形成方法について検討する必要がある.応用行動修正技法を基礎とする環境言語指導は,先の2つのアプローチとの交差によって,「自然な方法」による言語指導の発展に寄与することが期待される.
著者
峪 道代 住田 恵子 井脇 貴子 山本 基恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.131-139, 1994-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
22

大阪府立母子保健総合医療センターにおいて出生した超未熟児の学齢期における言語能力検査を実施した.対象児44名(男20名,女24名)の出生体重の平均は871.6g(SD 158.9),在胎週数の平均は27.2週(SD 1.9)であった.検診時の年齢は7~9歳で,合併障害をもつものが14名含まれていた.知能検査が実施できた43名の平均知能指数は94.4(SD 16.4)で正常範囲内であった.語彙指数の平均は理解86.8(SD 17.3),表出88.1(SD 16.0)で同年齢児に比べて有意に低い成績を示した.口腔器官運動は,巧緻性は低いがoral diadochokinesisは同年齢児と比べて差はなかった.構音の成熟に遅れを示したものは多かったが,特徴的な構音の誤りは認められず,構音障害の出現率は同年齢児と差がなかった.これらの結果は,過去に報告された同様の研究結果と一致するところが多かった.同時に行われた心理,耳鼻科など他領域の検診結果との関連を検討することが今後の課題である.
著者
小薗 真知子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.65-71, 1997-09-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

4名の失語症者に対し非言語的表現の訓練として絵を主体にした葉書(以下「絵手紙」)を描くことを指導した.4症例は非麻痺側の手を使い,十分に絵手紙を習得し,表出意欲の亢進と自発性の向上を認めた.郵送された絵手紙を受け取った患者の家族や友人等の喜びの反応が,患者の自信を増大させ,QOLを向上させたと思われた.今回の経験により,絵手紙の指導は失語症者の訓練法の一つとして有効に利用できると考えられた.
著者
斉藤 佐和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.48-56, 1988-10-01 (Released:2009-11-18)
参考文献数
15

正常児7名を生後8ヵ月から15ヵ月まで縦断的に追跡し,言語表出の発達とUzgiris-Hunt精神発達順序尺度の発達との関係をみた.その結果,単純な表象,身近な事物の概念化,不充分な音声模倣の能力が備わると同時に始語が出現した.また,表出語数が20語を過ぎるあたりから表示機能をもつ語の比率が大幅に増加した.表出の発達の良い被験児ではUzgiris-Hunt精神発達順序尺度の下位尺度のうち,物の永続性と音声模倣の発達が良好であった.
著者
小林 久子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.35-40, 2004-04-25 (Released:2009-11-19)
参考文献数
10

失語症を克服するのではなく,失語症とともに生きるという視点でのコミュニケーションの環境づくりという立場から,失語症者と社会とのコミュニケーション上のスロープとなる「失語症会話パートナー」を養成した.3年間に,失語症者をもつ家族,ホームヘルパー,看護師,ボランティアを含む88名を養成した.養成は6ヵ月間にわたり4回の講習とその合間を縫った5回の実習で構成されていた.細かいグループ討論とロールプレイ,実際に失語症者と会話をする機会をもつ実習を必須とした.このうちボランティアの定着率は84%である.東京で開始したが,同様の試みは少しずつ広がりをみせている.通常の社会生活への参加や介護保険を含む医療・福祉のさまざまな現場で,失語症者が有しているコミュニケーション上のバリアを取り除き,失語症者が生きやすい社会を作る一助となることを願っている.
著者
藤澤 和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.23-29, 2004-04-25 (Released:2009-11-19)
参考文献数
11
被引用文献数
1

話しことばのない青年期の自閉症者1名に対し,シンボルと文字を使ったコミュニケーションの個別指導を3年間行った.その結果,話題を共有した相互的なやりとりが増えた.生活場面でも,自発的なコミュニケーション行動が増加し,両場面で他者の視点を理解したコミュニケーション行動が認められた.本事例では,AAC手段による指導や情緒的に安定できる日常的な人間関係が,自閉症の対人機能に改善をもたらしたと考えられた.
著者
高泉 喜昭 石田 宏代
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.40-46, 1999-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
1

重症心身障害児施設に入所している重症心身障害児者(重症児者とする)に対し,より自発的な意思表出を目的に補助代替コミュニケーション(以下AAC)を導入した.その結果,彼らの生活やコミュニケーション行動に変化がみられ,AACは重症児者にとってQOLの視点から意義あるものと考えられた.しかしながら,AACの意義を実現していくためには重症児者個人の諸能力の検討だけでなく,援助する側のAACに対する知識,考え方など,重症児者をとりまく環境の面も含めた多角的,相互的視点に立った援助体制が必要と考えられた.特に施設という環境にあっては,重症児者のニーズをふまえ病棟職員を中心としたチームアプローチが重要な援助体制であると思われた.
著者
吉田 敬 長塚 紀子 荻野 恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.100-108, 2005-08-31 (Released:2009-11-19)
参考文献数
34

本稿では,成人の脳損傷者の談話・会話データの発話分析について考察した.分析対象,データの量,データの種類,分析方法といった発話分析に際して考慮すべき観点を述べた後,先行研究を概観した.さらに,形態統語論的な観点と談話分析的な観点から,流暢性失語症者と認知症者の発話の分析を試みた.流暢性失語症者の発話では助詞の誤用のような形態統語論的な誤りが目立った.認知症者の発話では形態統語論的な誤りはみられず,脱文脈の命題が用いられるなど談話レベルでの不適切さがみられた.最後に,対象者,分析目的,データ収集・分析に要する時間などを考慮し,適切な分析方法を採ることの重要性について強調した.