著者
杉山 登志郎
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.35-40, 2002-04-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
16

高機能広汎性発達障害への言語治療について私見を述べた.自閉症児への言語治療はすでに長い歴史を有する.集中的な治療が自閉症の根本治療としてもてはやされた時代もあったが,現在では他の発達障害と同様に,自閉症にもコミュニケーション全体の改善を行う一環として行われることが多くなった.もちろん従来の構音治療や語理解訓練も重要ではあるが,自閉症の言語障害の中核が語用論的障害であることが明らかになった今日,この語用障害への言語治療ができなくては,自閉症のコミュニケーション指導にはならないであろう.新世紀を迎え,自閉症児への言語治療が新たな展開をみせることを期待するものである.
著者
高橋 登
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.118-125, 2006-08-31 (Released:2010-04-21)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本論文では,学童期の語彙獲得の過程について検討した.子ども達は,学童期も幼児期に劣らず多くの語彙を日々獲得している.ただし,そのプロセスは幼児期とは大きく異なる.第1に,子どもの語彙理解は時間をかけて深く,また広くなっていく.第2に,一定の語彙を獲得すると,その要素の知識に基づいて,それを組み合わせた新しい語の意味を推測によって知ることができるようになる.そして第3に,学校での授業だけでなく,たとえ1日あたりの読書時間はささやかなものであっても,それが積み重なることで子ども達は多くの言葉に接し,文脈から新たな言葉の意味を身に付けていく.
著者
吉川 悠貴 菅井 邦明
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-11, 2005-04-30 (Released:2009-11-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1

本研究の目的は,高齢者に対する発話調節について,認知症高齢者に対する場合,および発話者が介護職員である場合の特徴を明らかにすることであった.介護職員,一般成人各24名に対して,発話ターゲットとして同世代の成人,健康な高齢者,認知症高齢者を想定させた模擬的な話しかけの課題を実施した.また各ターゲットに対して発話調節を行うことの適切さの程度についても回答を求めた.話しかけ音声6カテゴリー14指標について分析を行い,ターゲットが高齢者であること,および認知症高齢者であることで促進される発話調節が別個に存在すること,また介護職員の特徴として特定のスピーチ・レジスターが使用されることが示された.一方,適切さの程度の評価では,発話者にかかわらず,同世代の成人,健康な高齢者,認知症高齢者の順で単純加算的に発話を調節するのが望ましいと評価されていた.以上の結果から介護職員の特性を中心に考察を行った.
著者
大原 重洋 鈴木 朋美
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.15-22, 2004-04-25 (Released:2009-11-19)
参考文献数
20

自閉症児における疑問詞構文への応答能力の発達過程を検討した.対象は,自閉症児26名であり,統制群として知的障害児26名を選んだ.各対象児の応答可能な疑問詞の種類数を調べたところ,自閉症児も知的障害児と同じ順序で疑問詞構文への応答能力を獲得することが見いだされた.〈S-S法〉の段階における応答可能な疑問詞の種類数を比較検討したところ,自閉症群は,知的障害群と同じ〈S-S法〉の段階でも,応答可能な疑問詞の種類数が少なかった.自閉症児と知的障害児とでは,〈S-S法〉の段階と疑問詞構文への反応の関連が異なることが示唆される.
著者
山田 那々恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.36-40, 2006-04-30 (Released:2010-04-21)
参考文献数
5

実用的なコミュニケーション能力に対するアプローチとして,PACE訓練やAACの適用などさまざまなアプローチが実践されている.本稿では,日常生活のコミュニケーション行動の改善を目的に2症例に対してアプローチを試みた.重度失語症者に対しては,コミュニケーションの相互交流を中心に症例と家族にアプローチした.また,特定のコミュニケーション場面へのニーズをもつ症例に対しては,買い物の技能の向上に対してアプローチした.その経過から,日常のコミュニケーション行動に対してSTは,(1)伝達する・されるの両者にアプローチすること,(2)言語機能を把握した上でニーズを考慮し課題を設定,シミュレーションを行うこと,(3)伝達のメッセージが及ぼす心理・社会面を考慮すること,(4)言語機能のアプローチと併行して実施,(5)コミュニケーションを楽しむように促すことを支援していく必要があると思われた.
著者
鈴木 匡子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.222-230, 1996-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
9

喚語困難は,語産生,語選択,語義の各過程およびこれらの離断によるものの4種類に分けられる.喚語困難の種類と臨床的な失語症の分類とはほぼ対応しており,それぞれの喚語困難の解剖学的基盤は異なっていると考えられる.さらにPETによる正常人の研究から,呼称をする対象のカテゴリーによって脳の活動部位が異なることが報告されている.我々の施行したカテゴリー別視覚性呼称課題では,失語群で有意に成績が低下していたが,身体部位と野菜では有意差がなかった.語想起課題では,(1)流暢性失語と非流暢性失語で有意差がない,(2)左前頭葉病変群は左前頭葉病変のない群に比べて,身体部位,甘いもの以外で成績が低下していた.また我々の経験した語義失語例では,喚語困難と単語の聴覚的理解障害がみられたが,身体部位の呼称と指示は比較的保たれていた.単語の成立基盤はカテゴリーにより異なるため解離性の喚語困難が生じると考えられる.
著者
手束 邦洋
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.34-42, 1992-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
6

事例は42歳の単身の男性であり,脳出血によるウェルニッケ失語と右不全片麻痺を持っていた.彼は不安から自己を防衛するために言語障害を否認し,その否認を他者と共有しようとした.右上肢の麻痺と失職という現実を指摘する他者によって不安を喚起させられる度に,彼らを非難し自己合理化をはかった.彼は自己防衛を確かなものとするために言語治療者を必要とした.言語治療者は失語症状の改善をはかりつつ,彼のニードを受容して治療関係を維持し,生活史を傾聴することと新しい現実に目を向けるよう彼を促すことを通して治療関係を展開した.退院後,福祉施設への適応を進める中で,不安が軽減し彼のパロル行為を動機づける主要テーマが現実に即したものへと変わったとき,言語治療は終結された.失語症の言語治療の対象は,発話主体再自立へ向けての〈失語症状を伴うパロル行為〉であり,パロル行為を動機づける心的メカニズムの理解が重要と思われた.
著者
井上 あずみ
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.145-153, 2003-12-30 (Released:2009-11-19)
参考文献数
12

我々は言語発達遅滞児の視覚的弁別や単語の聴覚的理解・表出訓練で,はめ板や絵カードを用いている.しかし健常児のそれらの課題における達成度の詳細なデータは少ない.本研究は,1,2歳台児の健常児52名を対象とし,はめ板・絵カードを用いて,(1)事物名称の聴覚的理解と表出の習得年齢,(2)事物絵の視覚的弁別の習得年齢について調査し,さらに(3)健常児における聴覚的理解と視覚的弁別の関係を明らかにすること,また(4)対照群として生活年齢2歳2ヵ月から4歳4ヵ月で,発達年齢1歳前半から2歳後半の言語発達遅滞児12名についても同様の検査の一部を施行し,健常児と比較検討することを目的とした.その結果,本研究で用いた課題では聴覚的理解と視覚的弁別の関係は,健常児は2歳になると両者に差がなく発達するが,言語発達遅滞児の中には,比較的良好な視覚的弁別に比し,聴覚的理解が遅れるという健常児と異なる発達様相を呈す事例がみられた.
著者
嶋倉 優子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.21-27, 1991

難聴の発見が19~30歳であった脳性マヒ者(アテトーゼ型)5例について,難聴に起因する職業生活上の問題点とその対策について検討した.これらの事例は,難聴に起因する問題のために,全例過去に自主退職や解雇を経験している.難聴に伴う職業生活上の問題を軽減するために,職業訓練場面を通し,次のような援助を行った.(1)障害の自覚を促すための,聞き誤りのフィードバック.(2)コミュニケーションの成就体験の場の保障.(3)補聴器やテレホンエイドなどの視聴覚機器の活用.(4)コミュニケーション態度の改善.この結果,4事例は難聴による問題について自己対策が立てられるようになり,再就職が可能になった.
著者
松浦 晴美 本多 留美
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.41-46, 2005-04-30 (Released:2009-11-19)
参考文献数
5

介護老人保健施設(老健)等に勤務するSTは増加の一途をたどっているが,そうした場でのST業務のガイドラインは確立されていない.老健等のSTに対し2004年に小規模な調査を行った結果から,自分達の役割を病院のSTとは異なるものとして積極的にとらえている一方,さまざまな悩みを抱えている姿が見えた.本稿では,養成校を卒業したてのSTが老健に就職し,卒業校の教員達のスーパーバイズを受けながら,老健でのSTの役割や業務を模索していくようすを報告する.老健での経験を通じて,STの役割を「生活の場でのコミュニケーション,QOLの向上に関わる」「個人に合ったコミュニケーション環境を整える」「認知症の方への評価やアプローチを行う」「スタッフ,家族,地域住民にコミュニケーション障害への認識を高める働きかけを行う」と考えるようになった.こうした視点は,生活を軸にした新しいリハビリテーションの概念と通じるものである.
著者
高見 葉津
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
コミュニケーション障害学 (ISSN:13478451)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.102-110, 2007-08-30 (Released:2011-04-13)
参考文献数
27

わが国における食べることが困難な障害児への言語聴覚士(以下STと略す)の関わりについて歴史的経過を概説し,STが実践する支援についての考え方や方法について知見を述べた.支援を実践する際に大切なことは,まずは対象児の主たる基礎疾患によって発達上にみられる障害の特性を理解することである.そして出現する食べることに関する多様な困難性を子どもの全体像を理解した上で分析し,子どものライフサイクルを見据えながら養育者や家庭状況を考慮して,各ライフステージに必要な支援を実践する.子どもへのアプローチは,摂食・嚥下に関する感覚運動の正常発達を参考にしながら,子どもにみられる問題に対して仮説を立て,治療的アプローチを行い,そのアプローチの妥当性を検証しながら進める.そこには,STの独創性や工夫がなされることが望まれる.特にSTとしては,食べることはコミュニケーションや認知の発達に関連することにも注目していく必要がある.