著者
楠見 孝
出版者
日本サイエンスコミュニケーション協会
雑誌
サイエンスコミュニケーション : 日本サイエンスコミュニケーション協会誌 (ISSN:21874204)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.66-71, 2013-09

本論文では,心理学とサイエンスコミュニケーションの関係を2つの観点から論じた。第1の観点,サイエンスコミュニケーションへの心理学からのアプローチである。リテラシーを5つの階層に分け,科学リテラシーを,基礎的リテラシーと機能的リテラシーの2層を土台とする3層に位置づけた。これらは,教育によって順次形成される。さらに,科学リテラシーは,市民のための市民リテラシー,専門家のためのリサーチリテラシーという2層を支えている。サイエンスコミュニケーションにおいては,批判的思考の4つのステップ(情報の明確化,推論の土台の検討,推論,意思決定)が重要である。科学リテラシーと批判的思考を育成するためには,科学教育,博物館,科学ジャーナリズム,コミュニティさらにネットコミュニティの役割が大きい。そして,サイエンスコミュニケーションの研究のために心理学的研究法を適用することについて述べた。第2の観点,科学としての心理学におけるサイエンスコミュニケーションである。日本において,心理学が科学として扱われていない現状や,アカデミックな心理学とポピュラー心理学の乖離について市民を対象とした調査データに基づいて検討した。とくに,心理学は,市民が経験に基づいて豊富な素人理論をもっている。そのため,無知な市民に,科学的知識を提供するという欠如モデル的な考え方ではうまくいかないことを述べた。さらに,日本の博物館における心理学展示が少ない現状と,英国と米国の事例について紹介した。最後に,心理学とサイエンスコミュニケーションの両領域の共同による研究や実践の可能性について論じた。
著者
楠見 孝
出版者
日本サイエンスコミュニケーション協会
雑誌
サイエンスコミュニケーション : 日本サイエンスコミュニケーション協会誌 (ISSN:21874204)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.66-71, 2013-09

本論文では,心理学とサイエンスコミュニケーションの関係を2つの観点から論じた。第1の観点,サイエンスコミュニケーションへの心理学からのアプローチである。リテラシーを5つの階層に分け,科学リテラシーを,基礎的リテラシーと機能的リテラシーの2層を土台とする3層に位置づけた。これらは,教育によって順次形成される。さらに,科学リテラシーは,市民のための市民リテラシー,専門家のためのリサーチリテラシーという2層を支えている。サイエンスコミュニケーションにおいては,批判的思考の4つのステップ(情報の明確化,推論の土台の検討,推論,意思決定)が重要である。科学リテラシーと批判的思考を育成するためには,科学教育,博物館,科学ジャーナリズム,コミュニティさらにネットコミュニティの役割が大きい。そして,サイエンスコミュニケーションの研究のために心理学的研究法を適用することについて述べた。第2の観点,科学としての心理学におけるサイエンスコミュニケーションである。日本において,心理学が科学として扱われていない現状や,アカデミックな心理学とポピュラー心理学の乖離について市民を対象とした調査データに基づいて検討した。とくに,心理学は,市民が経験に基づいて豊富な素人理論をもっている。そのため,無知な市民に,科学的知識を提供するという欠如モデル的な考え方ではうまくいかないことを述べた。さらに,日本の博物館における心理学展示が少ない現状と,英国と米国の事例について紹介した。最後に,心理学とサイエンスコミュニケーションの両領域の共同による研究や実践の可能性について論じた。This article discusses two general frameworks for examining the relationship between psychology and science communication. First, the article discusses psychological approaches to science communication. Literacy has five layers. Science literacy is the third layer. It is based on basic and functional literacy, which are in turn formed by education. Science literacy supports civil literacy for citizens and research literacy for professionals; it facilitates receiving and sending messages in science communication. Critical thinking is important for science communication in four steps, namely, clarification of information, judging the credibility of information, inference, and decision-making. To improve science literacy and critical thinking, four approaches can be used: science education, museum exhibition, science journalism, and local and Internet community involvement. In addition, the application of psychological research methods to study science communication will be described. Second, the article discusses science communication in psychology. In Japan, psychology is not considered a science. A significant discrepancy is observed between popular and academic psychology in survey data of the general public. In science communication of psychology, the deficit model of public understanding of psychology is inadequate because the public has a naïve theory on the basis of their experience. In addition, psychology-related exhibits in museums are not as popular in Japan compared with the trend in the UK and the US. The article concludes by discussing the possibility of collaborative research and practice on psychology and science communication.