著者
越田 淳一 森山 典子 ごん春明
出版者
日本土壌肥料学会
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.865-874, 2005 (Released:2011-03-05)

九州各地の堆肥化施設23カ所から、牛糞、鶏糞、生ゴミおよび下水汚泥を原料とした堆肥計29点を採取し、糞便汚染指標菌(大腸菌群、大腸菌およびサルモネラ菌)について培養検査した。1)これら堆肥試料のCECは31.4-79.0cmol.kg(-1)の範囲(平均55.4cmolckg(-1))で、炭素率(C/N比)は7.6-25.4の範囲(平均15.3)にあり、他の性状と合わせ、多くが完熟堆肥であると判断された。2)デスオキシコーレイト寒天培地により大腸菌群が29点中11点(38%)から検出され、10(2)-10(6)cfug(-1)dry maerの菌数レベルであった。大腸菌群陽性堆肥試料4点のうち3点からの分離株は、大腸菌群に属するE.coli, E. vulneris, Panoea sp., Buiauxella agresisと同定された。しかし、Serraia marcescensのみが分離された試料が1点、本菌とE. coliが分離された試料が1点あった。大腸菌群には属さない腸内細菌科の細菌であるS. marcescensは赤色色素を生産するため、分離培地上で大腸菌群の赤いコロニーと誤認されたものと推察された。一方、得られたE. coli 5株は、病原大腸菌免疫血清試験ですべて陰性であった。3)堆肥試料12点についてクロモカルト・コリフォーム培地による大腸菌の直接培養検査およびMLCB寒天培地によるサルモネラ菌の検出を試みた結果、大腸菌はいずれの試料からも検出されず、サルモネラ菌は2点(17%)から検出され、その菌数は10(3)cfug(-1)dry maerのレベルにあった。4)堆肥原料(牛糞、鶏糞、生ゴミ等)8点のうち大腸菌群およびサルモネラ菌がいずれも6点(75%)から、大腸菌が5点(63%)から検出され、菌数はいずれも102-108cfug(-1)dry maerであった。5)堆肥製造施設6カ所における堆肥化過程での糞便汚染指標菌の消長を7例について追跡した結果、糞便汚染指標菌が減少して製品中で消失する場合、いったん消失するが製品で再度検出される場合、全く消失しない場合、原料から製品まで検出されない場合の4通りが観察された。発酵温度が高くてもサルモネラ菌などが生残する場合があり、その原因について、再増殖や交叉汚染の可能性を考察した。6)上記の諸結果に基づき、堆肥の製造過程における温度管理や交叉汚染防止などの適切な衛生管理の重要性を指摘した。
著者
石黒 宗秀 大島 広行 小林 幹佳 森崎 久雄 田中 俊逸
出版者
日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.274-278, 2014

土壌は,多量の電荷を持っており,多い場合は, 1m3あたり1 億クーロンに達する.これは, 1kW の電気ストーブを120 目問つけっぱなしにして流れる電気量に相当する.これに起因する特性は,土壌に様々な現象を引き起こす.アロフェン質火山灰土下層土にイオン溶液を種々pH で浸透させると,pH が高くなるほどカチオンは流出が遅れ,アニオンは流出が速くなる.これは,pH が高くなるほどアロフェン質火山灰土の負電荷量が増え,正電荷量が減ることにより,静電吸着量が変化するためである.アロフェン質火山灰土(B 層)をカラムに均一に充填し,種々のpH の1mM 塩化ナトリウム溶液を飽和浸透させて,その飽和透水係数を測定した.図1 に示すようにpHが高くなったり,低くなったりすると,飽和透水係数が小さくなる.これらの原因を検討するため,土壌の分散凝集実験を行った.1mM 塩化ナトリウム溶液中に土壌を加え,種々pH に平衡させて良く振とうし,振とう直後の濁りと,振とう静置12 時間後の濁りを濁度計で測定したところ,pH4 以下およびpH 10 以上で良く分散し,その間のpHでは凝集した.土壌が分散するのは,電気的反発力が発生するためである.分散しやすい条件では,土粒子表面近傍に形成される拡散電気二重層が厚くなり,そのため,土粒子同士が接近した状態では,拡散電気二重層が重なる.その状態においては,粒子間の濃度が外液中の濃度より高まるため,浸透圧差により土粒子間に反発力が働く.この電気的反発力の大きさを評価するため,ゼータ電位(土粒子近傍の電位)を用いて電気的反発ポテンシャルエネルギーを計算した.分散条件では,大きな値となり,凝集条件では小さな値を示し,飽和透水係数の変化と良く対応した.飽和透水係数が低下するのは,その溶液条件で電気的反発力が大きくなり土粒子が分散して,粗間隙を目づまりさせたためである.土壌の電荷特性とイオンの吸着状態は,イオン移動の遅速,土壌構造の変化,透水性の変化をもたらすため,養分移動,汚染物質移動,土壌侵食,農地の水利用,流域の水・物質循環等の農業や環境問題と密接に関係する.また,有機物で覆われた土粒子や微生物は,柔らかいコロイド粒子として,その界面電気特性を捉える重要性が指摘されるようになり,関連する現象の理解と応用が進展している.2013 年名古屋大会でのシンポジウムでは,界面電気現象の基礎理論を平易に解説した.そして,測定法と現状における課題,微生物の固体表面への付着,汚染土壌の修復技術についての研究の講演へと繋げた.難解なイメージがあり敬遠されがちな界面電気現象の基礎を理解し,今後の基礎及び応用研究の展開をもたらす機会となればと考える.