著者
高畑 英樹
出版者
日本応用教育心理学会
雑誌
応用教育心理学研究 (ISSN:09108955)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.17-30, 2019-07-31 (Released:2022-12-19)
参考文献数
23

研究1で,九九学習においても,ワーキングメモリの役割は大きく,ワーキングメモリに課題のある児童には,ワーキングメモリへの負荷を軽減できる学習方法が重要であることが明白となった。研究2 では,ADHD 児とASD 児の障害特性とワーキングメモリとの2 要因をもとに,九九学習への配慮に必要となる要因の組み合わせの類型化を行った。その結果,認知特性と障害特性の両方に配慮のいるタイプ,認知特性のみに配慮のいるタイプ,障害特性のみに配慮のいるタイプ,配慮をあまり必要としないタイプの4 つに分かれた。ADHD またはASD のある4 事例による研究3 の結果から,九九学習でADHD 児とASD 児の障害特性や認知特性に着目したときの配慮や支援として,長所活用型学習方法の使用,特性に応じた学び方の保障,注意・集中の問題から起こるつまずきの予防という3 つの視点が大切であるということが導き出された。
著者
福谷 泰斗 皆川 直凡
出版者
日本応用教育心理学会
雑誌
応用教育心理学研究 (ISSN:09108955)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.47-60, 2022-02-28 (Released:2022-04-25)
参考文献数
42

本研究は,自己調整学習の理論に基づいて,まとめと学習活動の振り返りを記録するポートフォリオを中学校社会科授業の中でプログラムし,その成果を自己決定理論と関連づけて検討することを目的として行われた。そのため,まず,社会科を学ぶ理由について,生徒の自由記述をもとにして社会科学習動機づけ尺度を作成し,因子分析を経て標準化された尺度として完成させた。次に,社会科(歴史的分野)において学習者自身が既有知識と学習内容を関連づけながら記述するポートフォリオを導入した授業実践を行い,社会科学習動機づけ尺度を用いてその教育効果を検証した。その結果,内的調整,同一化的調整という2 つの自律的な学習の動機づけが向上し,他律的な学習の動機づけである取り入れ的調整が抑制されるという成果が得られた。
著者
福原 史子
出版者
日本応用教育心理学会
雑誌
応用教育心理学研究 (ISSN:09108955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.49-65, 2022-08-31 (Released:2022-10-03)
参考文献数
21

幼児期に獲得される,社会情動的スキルの重要性が指摘されている。本研究では,このうち,粘り強さ,挑戦力,情緒安定,意思表現力の獲得に影響を与える要因を検討するため,幼稚園の保護者に質問紙調査を実施し,158 名の回答を精査・分析した。具体的には,幼児要因として年齢,性別,兄弟姉妹の人数,自宅で夢中になっていることの有無とその内容,保護者要因として待つ姿勢及び自己選択の尊重,園の教育への関心度,母親の育児関与の割合を検討した。その結果,保護者の待つ姿勢,特に「身支度の際」に待つという姿勢が,粘り強さ,挑戦力,情緒安定との間に有意な正の相関を示し,粘り強さ及び情緒安定に関しては順序ロジスティック回帰分析でも有意な正の影響を与えていた。また,「片付けの際」に待つ姿勢は挑戦力及び家族への意思表現力に,「何かに失敗した際」に待つ姿勢も家族への意思表現力に有意な正の影響を与えることが認められた。さらに,記述式回答からは,待つことが難しい具体的な状況も明らかとなった。これらの結果から,待つことの重要性を踏まえた保護者教育や支援の必要性が示唆された。
著者
龍 祐吉 小川内 哲生 高瀬 加容子
出版者
日本応用教育心理学会
雑誌
応用教育心理学研究 (ISSN:09108955)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.3-17, 2022-08-31 (Released:2022-10-03)
参考文献数
41

これまでの研究においては,学業的延引行動と学業的不正との関係について他の関連要因を交えて詳細な検討が行われていなかった。本研究の目的は大学生の学業的不正に与える自尊感情,内発的動機づけ,学業的延引行動,試験準備の遅延,及び学年の影響について検討することであった。307名の女子大学生(平均年齢20.3歳, 標準偏差1.06歳) に質問紙法による調査を実施した。パス解析の結果,第1 に学年が上がるにつれて学業的不正は減少する。第2に内発的動機づけの低下は直接的及び間接的に学業的延引行動を促し,引き続いて試験準備を遅らせることを通じて学業的不正を助長すること,最後に自尊感情は学業的不正に直接的に影響を与えないが,学業的延引行動そして引き続いて試験準備を遅らせることによって学業的不正を促す可能性があることの結果が見出された。先行研究との比較に基づいて本研究の結果に関する解釈を行い,今後の課題についても言及した。