著者
塚越 康子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.45-56, 2015 (Released:2016-02-08)
参考文献数
9

本論文では児童養護施設における被虐待児との5年間の遊戯療法過程での箱庭や遊びの表現を取り上げ,被虐待児のクライエントにとっての守りとなったものを検討した。言語的表現が苦手なクライエントは,セラピストとの最初の出会いでの体験からセラピストへの安心感を持ち,心理療法初期から自己の内的世界を箱庭や遊びの中で自由に表現することに繋がった。母親との葛藤に直面化する日常の出来事が起こるたびに,彼の内的世界は大きく崩れたが,心理療法における場所や時間など治療的な枠組みとセラピストとの関わりが守りとなり,遊戯療法の中で内的世界を自由に表現した。さらに,箱庭や遊びで表現できることの守り,箱庭の枠や箱庭の中の柵の守りなど幾重もの守りが彼の自我の成長を促し,クライエントは主体的に生きていくことを選べるようになったと考えられる。
著者
坂井 朋子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.41-52, 2018

<p>本論文では,窃盗症と診断された女性との箱庭療法過程に見られた,循環的な成長について論じる。本事例は定着のしづらさが特徴で,ペアになる対象を求めて彷徨っていた。人に尽くして満足する自己愛的なファンタジーが自我と乖離し主導することに問題の本質があり,そのため強い守りとなる枠が必要であった。重要なのはその中で不安や葛藤を保持することである。箱庭は,セラピストも含む多様な「私」との交感の場で,囲われて省みられることによって「私」は純化され,固着から解放された。背景の出来事が意味のあるタイミングとしてとらえられ,途絶えていた体験の連続性が箱庭において結びついたことが,ひとつの鍵であったと思われる。閉塞的なペアのイメージが開放するものに変化する過程で,イメージと身体が一致する転機があり,家族や地域社会,風土と調和して生きられる「私」になった。</p>
著者
斎藤 清二
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.75-82, 2014

1991年から2000年の10年間に,84名の摂食障害患者(神経性食思不振症[AN]53名,神経性過食症[BN]31名)が,心理療法セッションにおいて,自身の病いの経験と夢について語ることを勧められた。12名の女性の患者(AN8名,BN4名,14歳から28歳)が研究協力者となった。これらの患者は8ヶ月から6年間経過観察され,全例が寛解に達するか,明らかな病状の改善を認めた。322編の夢の語りが収集され,物語分析法により質的に分析され,カテゴリー化された。研究協力者から報告された夢語りのテーマと構成概念は,以下のようなキーワードによって描写することができた。「孤立/混乱/自我同一性の喪失」「旅」「試練」「異界」「自己解体」「死と再生」。比喩的に言えば,研究協力者のメタ・ナラティブは,通過儀礼,変容,死と再生といったテーマに関連しており,それを通じて真の自己が実現される一種の「探求の物語」として描写可能であった。結論として,個人レベルの人生の物語だけではなく,超個人的あるいは元型レベルの物語を共有することが,摂食障害の患者を理解し,治療的に寄り添うことを続けるために重要である。
著者
長谷川 千紘
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.17-27, 2015

本稿では,「私がない」ことを訴える20代前半の女性の心理療法過程を報告する。クライエントは思春期に生じた自己像の揺らぎをきっかけに摂食障害や希死念慮を抱えてきた。面接当初,彼女は出来事の次元としては整った物語を語ったが,そこには彼女自身の内的リアリティが欠けていた。セッションのなかで彼女は"自分が空っぽ""自分が分からない"と感じていることが明らかになる。彼女の心理学的テーマはどのように自分自身に出会うかという自己関係の問題であったと思われる。本論文では8つの夢を通して,彼女の〈私〉という自己感がどのような状態にあって,どのように変化していったのかを検討する。
著者
赤川 力
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.41-50, 2013 (Released:2014-01-24)
参考文献数
11

本稿は,下着の窃盗をした不登校の中学2年男子生徒との事例研究である。このクライエントは児童相談所から児童自立支援施設に処置され,その後にスクールカウンセラーに依頼された事例であった。面接開始時は訪問面接であったが,最後には学校での面接に至った。このクライエントは,主に音楽のイメージを用いて表現してきた。考察では,3点について考察した。1.音楽を通して表現されたもの,2.通路としての音楽と「橋をかける」機能としての音楽について,3.ClとThとの関係性について,である。
著者
桑原 晴子
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.3-15, 2015 (Released:2016-02-08)
参考文献数
15

本論文は,緘黙傾向の不登校中学生女子の箱庭療法過程を提示し,場面緘黙の箱庭療法においてどのように身体的側面が意義をもつのかを検討することを目的とする。箱庭のイメージ内容の変化,箱庭制作時のリズムという身体的側面,そして箱庭療法のプロセスで生成する身体症状の3側面に意味深い連関が見られた。イメージ内容では,砂あるいは世界を水で分割し同時につなげることが繰り返された。また箱庭を制作する際に多様なリズムが生まれ,そのリズムを生み出すことが主体の感覚の生成につながったと思われる。また面接の転機に身体症状が生じたが,これらの身体症状をイメージとして捉えることが重要だと考えられる。そしてJungによる共時性の視座がこれらの相互連関するプロセスを理解し,その自律的展開を見守るうえで意義があることについて考察を行った。