- 著者
-
神谷 亘
- 出版者
- 日本豚病研究会
- 雑誌
- 日本豚病研究会報 (ISSN:09143017)
- 巻号頁・発行日
- no.66, pp.1-4, 2015-08
コロナウイルスは、RNAをそのウイルスゲノムとして持つエンベロープウイルスである。コロナウイルスはニドウイルス目に分類され、その中にコロナウイルス科、そして、コロナウイルス亜科とトロウイルス亜科に分類される。コロナウイルス亜科はさらに、アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属の3つの属に分類される。アルファコロナウイルス属には、ヒトコロナウイルス229Eや豚流行性下痢ウイルスなどが含まれる。ベータコロナウイルス属には、2002年度に流行した重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome: SARS)コロナウイルスが含まれる。また、SARSコロナウイルスの発生から、おおよそ10年後の2012年度より中東で感染が拡がっている、中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome: MERS)コロナウイルスなどが含まれる。ガンマコロナウイルス属には、主に鳥類由来のコロナウイルスが含まれる。ヒトにおいて、コロナウイルス感染症は、SARSコロナウイルスの発生以前では、風邪の原因ウイルスの1つとして考えられており、強い病原性を示すウイルス感染症ではなかった。そのため、SARSコロナウイルス発生以前のコロナウイルス研究はマウス肝炎ウイルスの研究が牽引してきた。一方、獣医学領域においては、牛コロナウイルス、猫コロナウイルス、犬コロナウイルスなどそれぞれの動物種で固有のコロナウイルスが存在している。また、豚流行性下痢ウイルスも重要なウイルス感染症の1つであり、最近では2013年より日本国内において発生している。コロナウイルスのウイルス学的特徴は、ウイルス粒子表面に特徴的な王冠様の構造物(スパイクタンパク質)が存在することであり、このウイルス粒子の外殻構造がコロナウイルスの由来である。コロナウイルスのウイルス粒子は主に3つの構造タンパク質(Sタンパク質、Mタンパク質、Eタンパク質)から構成されており、その中に、おおよそ30,000塩基のRNAがウイルスゲノムとして取り込まれている。このウイルスゲノムは、RNAウイルスの中で最長であり、これがコロナウイルスの1つの特徴である。しかしながら、このように長いウイルスRNAゲノムを有するため、他のRNAウイルスで用いられている逆遺伝子操作系の取り扱いが非常に複雑で煩雑である。そのため、コロナウイルスの分子ウイルス学的な解析は、他のRNAウイルスに比べて遅れているように思われる。