著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.81-113, 2015-03-31

2012年12月,3年ぶりに政権に復帰した自由民主党は,日本経済の再生を最優先課題に掲げ,「強い経済」を取り戻すための経済政策パッケージ「アベノミクス」を更年後1月初めに打ち出した。それは「3本の矢」によって政策目標を達成しようとするものであり,第1の矢(金融政策),第2の矢(財政政策)は2013年前半に順次発射され,第3の矢(多様な側面を含む成長戦略)はその後1年半のうちに徐々に取り組みが進められてきている。本稿は,この政策パッケージの内容と特徴を整理するとともに,その評価を2年弱経過した時点(2014年秋)において試みたものである。その結果(1)この政策パッケージの発表と取り組みに伴って円高の修正(円安化)が進む一方,株価が急上昇するなど市場は政策を当初高く評価した,(2)それに伴い景気回復,企業の業績改善,雇用情勢の改善などがみられ日本経済におよそ6年ぶりに明るさが戻っている,一方(3)金融面で超緩和を継続してもそれが今後大きな追加的効果を持つかどうかは疑問が多い,(4)財政面での支出拡大(大幅な補正予算)の効果は専ら短期的なものであり経済の構造変化に結びつく項目は多くない,(5)政策パッケージにおいては短期的視点と長期的視点が混在し十分に整理されていない面がある,(6)最初の2本の矢(金融政策と財政政策)はいわば時を買うための手段にとどまるので,日本経済の長期安定成長にとっては,第3の矢をはじめ未着手の大きな課題である財政収支改善の道筋確定(いわば第4の矢),そして日本経済の構造変革の実現に結びつく大きな視点からの対応(生産性向上,強い円の指向など)が残された課題である,などを主張した。
著者
田中 桂子 豊 浩子
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-23, 2016-03-31

本稿では大学教育におけるクリティカルシンキング(CT)の議論について考察する。CTの概念は、従来の論理主義がフェミニストや批判的リテラシーからの批判を受けて、新たな概念が模索、形成されつつある。日本の大学では昨今、CT教育の必要性が強く言われながら、CTの概念や教育の内容、方法に関する議論が広く共有されているか不明の点も多い。日本の学生がCTを学ぶことは困難ではないかという議論も存在する中、現在、日本のCT教育研究者間では、日本の学生がCTを育成・発揮する際に文化的価値観が抑制要因となるとされ、それを考慮した「協調型CT」や実践方法も提案されている。日本の学生に対するCT教育実践は試行錯誤の段階だが、CT教育には良き学習者・市民としての思考力を鍛え、さらには社会を批判的に見て変える力が育成される可能性がある。また、英語教育における実践からも、社会を問い直す複眼的なCT教育の可能性が示唆される。【論文/Articles】
著者
戸谷 浩
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.50, pp.129-149, 2017-03

【研究ノート/Research Notes】■特集テーマ 「マイノリティの視点から」/Special Topic: From the Perspective of Minorities
著者
サンベック リー
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.48, pp.25-47, 2015-10

日本の為替政策に関しては多くの先行研究があるが、70 年代半ばから後半までの期間を包括的に分析した先行研究は比較的少ない。そのため当該期間における為替市場と為替政策に関する全体的な流れを把握するのが容易ではない状況にある。本稿では、まずこの時期の展開を時系列に沿ってなるべく前後隙間なく理解できるように、先行研究を参考にしながら、その他の学術論文、政府刊行物、当時の新聞や経済雑誌の記事、回顧録を幅広く活用した。そしてその過程で、変動相場制と為替介入をめぐる当局者含む専門家達の認識が如何に変化し、その変化の要因が何であったのかを探った。結果、アメリカを筆頭とする海外からの圧力、保護主義台頭と市場開放への恐れ、投機資本による市場圧力、そして「国際金融のトリレンマ」による金融・為替政策上の制約が大きく作用したことを明らかにした。【論文/Articles】
著者
浪岡 新太郎 NAMIOKA Shintaro
出版者
明治学院大学国際学部
巻号頁・発行日
vol.39, pp.35-62, 2011-03-30

現在,フランスには約370 万人のムスリム系移民出身者が定住している。彼らは,そのイスラームへの帰属意識を理由としてフランスへの帰属意識をもつことができないのではないかと疑われている。市民の平等や政教分離といったフランスの基本的価値が,政教一致や男性優位主義のような「イスラームの基本的価値」と矛盾するのではないかと主張された。こうした状況を背景に,彼らのフランスへの帰属意識を強めようと,フランスの基本的価値を教え込むためのシティズンシップ教育の強化が主張されている。本稿は,①彼らにとってフランスの基本的価値は,その排除や差別の経験から実感されておらず,②実際にはシティズンシップ教育で教えられる基本的価値はマジョリティに優位に機能しており,③彼らにとってイスラームへの帰属意識は,排除や差別にもかかわらずフランスの基本的価値を遵守することを可能にする点でシティズンシップ教育の役割を担っていることを明らかにした。【論文/Article】
著者
藤嶋 亮
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.39, pp.63-86, 2011-03