著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.85-103, 2016-03-31

本稿では、市場でも政府でもない第三部門としての非営利組織(non-profit organization,NPO)を取り上げ、その組織的特徴、機能、機能支援要因であるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の働き、日本における課題、などを論じた。その結果得られた主張は、末尾の「結論」に箇条書きしたとおりである。
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.105-122, 2016-03-31

本稿では、日本語として未だ使われることが多くないインテグリティ(integrity)に焦点を合わせ、その概念、構成要素、機能などを分析した。その結果、次の主張をした。(1)インテグリティとは、語源的に首尾一貫性を基本的意味として持っており、それに正直、誠実、公正などの倫理的意味や、説明責任などの要素も加わった複雑な概念である。(2)インテグリティを体得すれば a)どのような状況にも安心して対応できる、b)第三者からの信頼感が高まる、c)日々の生活を単純化できる、などのメリットがある(本稿ではこれらをシェリングの自己管理モデルを応用して分析した)。(3)インテグリティは、個人についてだけでなく、職業上のインテグリティ、組織のインテグリティなど多くの面で重要な規範になっており、それらが満たされる組織や社会は健全な良い社会になる。(4)日本では、インテグリティの概念を普及させる余地が依然としてかなり大きく、それは大学教育で達成すべき大きな目的の一つでもある。
著者
平山 恵
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.49, pp.25-49, 2016-03

1994年のルワンダの虐殺後にHIV感染による多重苦にある人々は何を「拠り所」にし、何を求めているのかを明らかにして支援の内容を再考する研究である。2001年に23人、2010年に100人のHIV陽性者より聞き取りを行い、質的および統計的に分析した。①配偶者からの感染者は、2001年には「家族」を頼りにしていたが、2010年は「政府やNGOなどの援助団体」や「医療従事者」を頼りにしていた。面接時は虐殺で「怒りと悲しみ」の感情が見られる人と、援助に「満足」しているか「諦め」ているために黙っている人に二分された。②レイプ感染者は2001年は住居や薬をもとめていたが、2010年は自分自身の教育を強く求めるようになった。③売春による感染者は「家族」を頼りにしていて「残される子供のケア」を求める傾向があった。④母子感染は2010年に現れた新たな感染経路で特に子供の感染者から「親が感染者と分かっているのになぜ自分を産んだのか」という「怒り」の声も聴かれた。【論文/Articles】
著者
丸山 真人
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院論叢. 国際学研究 = Meiji Gakuin review. International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.51-57, 1992-03-31

共同研究報告(1987-1990年度)『戦後日本の社会変動の研究―「高度成長」を鍵概念に―』
著者
孫 占坤
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.57, pp.97-100, 2020-10

【書評/Book Review】
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.48, pp.91-109, 2015-10

豊かさを測るため,これまで経済的尺度(経済成長率や一人あたりGDP)が重視されたが,近年その不十分さが強く意識されるに伴って「幸福」についての関心が上昇し,関連研究も増加している。本稿は,経済学的視点のほか,思想史,倫理学,心理学,脳科学などの知見も取り入れながら考察した試論であり,概略次の主張をしている:(1)幸福を考える場合,その深さや継続性に着目しつつ(a)気持ち良い生活(pleasant life),(b)良い生活(good life),(c)意義深い人生(meaningful life; eudaimonia)の3つに区分するのが適当である。(2)このうち(c)を支える要素として自律性,自信,積極性,人間の絆,人生の目的意識が重要であり,これらは徳倫理(virtue ethics)に相当程度関連している。(3)今後の公共政策運営においては,上記(a)にとどまらず(b)や(c)に関連する要素も考慮に入れる必要性と余地がある一方,人間のこれらの側面を高めようとする一つの新しい思想もみられ最近注目されている。(4)幸福とは何かについての探求は,幅広い学際的研究が不可欠であり今後その展開が期待される。【研究メモ/Research Memoranda】
著者
秋月 望
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.56, pp.1-14, 2020-03

【研究ノート/Research Note】
著者
VESEY Alexander
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.58, pp.1-30, 2021-03-31

In studies of early modern Buddhist social history, clerical-lay relations that center on the certification of danka (support families) are a major topic. The system of certification operated with general support from the Tokugawa bakufu and the many daimyo houses and it served as a means for keeping population records, but there is a long-standing proclivity among scholars to assess the danka system in negative terms. This assessment rests on examples of clerics who abused their position to extract wealth from lay families who were forced into being temple clients.This research paper draws upon a detailed clerical diary from a temple in Saitama and scholarship that provides data on phenomena such as the growth of empty (mujū 無住) temples to argue that peasants were not mere objects of subordination but also active agents with patronal authority who could and did exert influence over clerical/temple relations with the laity in rural villages.【論文/Article】
著者
岡部 光明
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.46, pp.19-49, 2014-10

「自分にしてもらいたくないことは人に対してするな」(禁止型)あるいは「自分にしてもらいたいように人に対してせよ」(積極型)という格言がある。これは,洋の東西を問わず古くから知られた倫理命題であり,一般に黄金律(Golden Rule)と称されている。本稿の前半では,その生成と発展の歴史を簡単にたどるとともに,この格言の意義を考察した。その結果(1)禁止型を積極型へ明確に変更したのはキリスト教の聖書である,(2)黄金律は宗教や文化を超えて道徳の基礎となっているので普遍性があり,またそれは相互性,論理整合性,人間の平等性といった重要な原則も主張している,一方(3)自分と相手の価値観に差異がある場合にはそのルールの適用に留意が必要である,などを主張した。本稿後半では,黄金律よりも視野を拡大し,世界中の多くの宗教や文化に共通する規範になっている利他主義(他人の幸せに関心を払う主義ないしそのための行動)を取り上げた。そして,利他主義の動機をどう理解すべきかについて,多様な分野(社会科学,生物学,神経科学等)の研究や実験結果を展望することによって多面的に考察した。その結果(1)人間は利己主義的動機に基いて利他的行動を示す場合もある一方,他人の利益だけを考慮して行動するケースも確かにあること,(2)利他主義(与えること)は与える人の健康と幸福にとって良い効果を持つこと,(3)この(2)のことが利他主義の普遍性を支える一つの要因になっている可能性があること,などを述べた。【研究メモ/Research Memoranda】
著者
大川 玲子
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.33-54, 2007-03-28

本稿ではインターネット上のイスラーム系ウェブサイトで行われているファトワー問答を資料として,現代の若者ムスリムがクルアーンをどのように認識し, 実際に関わっているのか, つまりその聖典観を明らかにすることを試みた。インターネットには世界中からアクセスがなされるため, 多様な出自の者たちの状況がうかがえるが, そこで共通して見られるのは理想と現実の乖離である。ファトワーを求める者たちは, クルアーンをアラビア語で正確に読み, 理解し, 礼節をもって扱いたいと望んでいるが, 現実にはそれは難しいため, 困惑し質問する。アラビア語を母語としていない, クルアーンをぞんざいに扱うかもしれない異教徒と接する, 気楽な状態でクルアーン読誦を聞きたいなど, さまざまな環境にいる者が存在するためである。彼/彼女たちはこういった乖離の状態のなかで, ムスリムとしてのあるべき正しい姿を模索しているわけだが, その背景にはクルアーンを読誦することで神からの罰ではなく報酬を得ることを願う意識が見られるのである。【研究ノート/Research Note】
著者
田中 桂子 豊 浩子
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review International & regional studies (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-23, 2016-03-31

本稿では大学教育におけるクリティカルシンキング(CT)の議論について考察する。CTの概念は、従来の論理主義がフェミニストや批判的リテラシーからの批判を受けて、新たな概念が模索、形成されつつある。日本の大学では昨今、CT教育の必要性が強く言われながら、CTの概念や教育の内容、方法に関する議論が広く共有されているか不明の点も多い。日本の学生がCTを学ぶことは困難ではないかという議論も存在する中、現在、日本のCT教育研究者間では、日本の学生がCTを育成・発揮する際に文化的価値観が抑制要因となるとされ、それを考慮した「協調型CT」や実践方法も提案されている。日本の学生に対するCT教育実践は試行錯誤の段階だが、CT教育には良き学習者・市民としての思考力を鍛え、さらには社会を批判的に見て変える力が育成される可能性がある。また、英語教育における実践からも、社会を問い直す複眼的なCT教育の可能性が示唆される。
著者
大川 玲子
出版者
明治学院大学国際学部
雑誌
国際学研究 (ISSN:0918984X)
巻号頁・発行日
no.50, pp.163-180, 2017-03

【研究メモ/Research Memorandum】■特集テーマ 「マイノリティの視点から」/Special Topic: From the Perspective of Minorities
著者
浪岡 新太郎 NAMIOKA Shintaro
出版者
明治学院大学国際学部
巻号頁・発行日
vol.39, pp.35-62, 2011-03-30

現在,フランスには約370 万人のムスリム系移民出身者が定住している。彼らは,そのイスラームへの帰属意識を理由としてフランスへの帰属意識をもつことができないのではないかと疑われている。市民の平等や政教分離といったフランスの基本的価値が,政教一致や男性優位主義のような「イスラームの基本的価値」と矛盾するのではないかと主張された。こうした状況を背景に,彼らのフランスへの帰属意識を強めようと,フランスの基本的価値を教え込むためのシティズンシップ教育の強化が主張されている。本稿は,①彼らにとってフランスの基本的価値は,その排除や差別の経験から実感されておらず,②実際にはシティズンシップ教育で教えられる基本的価値はマジョリティに優位に機能しており,③彼らにとってイスラームへの帰属意識は,排除や差別にもかかわらずフランスの基本的価値を遵守することを可能にする点でシティズンシップ教育の役割を担っていることを明らかにした。