著者
加藤 純一 山口 一郎 山口 一郎 渡部 裕輝 加藤 純一
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、可視域ほど良い結像素子のない赤外域で良好な3次元像を結像素子を使わないデジタルホログラフィによって形成し、さらに位相の再生機能による干渉計測や顕微鏡機能の実現を図ることにある。まず広い範囲の可視光の3波長(He-Cdレーザー、636nm,537nm,441nm)を使い、位相シフトホログラフィによりカラー像の再生に成功した。この場合、ピエゾ鏡の移動によって与えられる位相シフト量は、中央の波長に対しては正しいが両端の波長では誤差を生じる。その影響をコンピューターシミュレーションにより見積もった結果、大きな影響のないことがわかった。再生における二種類のアルゴリズムの適用条件と像の違いを明らかにした。また移相板と偏光子を組み合わせたachromatic phase shifterを使って、この位相シフト誤差を解消した実験を行ない、良好な再生像を得ることができた。赤外の実験で波長830nm、出力30mWの半導体レーザーを使って、点物体、拡散物体、および位相物体の再生に成功した。位相の再生機能を利用して、鏡面や水面の形状を簡単な光学系で定量的に計測することができた。また拡散面の場合には、物体照射の角度の変更または物体の変形の前後に対する再生位相の差を取って、表面形状や変位分布を633nmのレーザーを使い、それぞれ10μm、10nmの感度で測定できた。結像レンズを導入した物体サイズの拡大も行なった。以上の結果から位相シフトデジタルホログラフィを赤外域に適用することによって良好な3次元像が得られ、可視光に対して不透明なシリコン結晶や生体の3次元計測への応用の見通しが立った。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我々は、未分化ES細胞からの栄養外胚葉およびtrophoblaststem (TS)細胞分化における転写因子Cdx-2の機能を解析するために、テトラサイクリンでOct-3/4の発現を制御可能なZHBTc4 ES細胞において、内在性Cdx-2遺伝子を、2回の相同遺伝子組み換えによって破壊した。この結果得られたCdx-2-null ES細胞は、親株のZHBTc4細胞と同様に、テトラサイクリン投与によって栄養外胚葉に分化し、FGF-4存在下にフイーダー細胞上でTS細胞に分化した。しかし、このCdx-2-null TS細胞は安定に自己複製できず、速やかに全て最終分化してしまった。そこで、これがCdx-2の発現に依存した現象であることを確認するために、このCdx-2-null ES細胞に、Tamoxifenで活性を調節できるCdx-2(Cdx-2ER)を導入し、これを安定に発現するES細胞株CNCRを樹立した。CNCR ES細胞は、Tamoxifen非存在下にテトラサイクリンを投与した場合では、TS細胞化したあと自己複製できなかったが、Tamoxifen存在下では、安定に自己複製出来るようになった。さらに、この条件でTamoxifenを除去すると、これらのTS細胞は速やかに分化してしまった。一方、このCNCR ES細胞にテトラサイクリン非存在下にTamoxifenを投与すると栄養外胚葉に分化し、さらにFGF-4/フィーダー細胞が存在するとTS細胞にも分化した。これらの結果は、Cdx-2の機能が、栄養外胚葉やTS細胞への分化に十分ではあるが必要ではないこと、しかし、その機能はTS細胞の自己複製には必須であることを示す。我々はさらに、Cdx-2非存在下にあって栄養外胚葉分化を制御する転写因子の候補としてTbr-2/Eomesodeminを同定し、現在その機能解析を進めている。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

テトラサイクリンで転写因子Oct-3/4の発現を調節することが可能なES細胞ZHBTc4において、テトラサイクリン投与後0,24,48、72、96時間目の細胞からそれぞれRNAを精製し、これを始原生殖細胞由来cDNAマイクロアレイで解析し、全ての結果の収集を完了した(理化学研究所・阿部博士との共同研究)。一方で、これらのサンプルをNIHの洪博士との共同研究により、23K cDNAマイクロアレイを用いても解析を進めている。今後、全てのデータの収集が完了次第、その解析に着手する予定である。テトラサイクリンで転写因子Gata6の発現を調節することが可能なES細胞G6SKOについては、その発現によって誘導される細胞が壁側内胚葉であることを最終的に確認した(Fujikura J et al.,Genes Dev.,2002)ので、現在マイクロアレイ解析用の時系列RNAサンプルを収集している。また、最近ES細胞における遺伝子マーキングによる解析から、従来均一と考えられていたOct-3/4を発現する未分化細胞集団が、さらに遺伝子発現パターンの異なるサブグループに分離可能であることを見出した。現在、これらのサブグループを系統的に純化する方法の開発を進めており、その進捗を見た後に、マイクロアレイを用いた系統的遺伝子発現解析に進む予定である。マイクロアレイ法による遺伝子発現解析の有効性は、洪博士との共同研究によるES細胞とTS(trophoblast stem)細胞の遺伝子発現比較検討により確認することが出来ているので(Tanaka, TT et al., Genome Res.,2002)、今後同様の手法を用いた上記サンプルの解析結果から、細胞分化のメカニズムの一端が明らかにされるであろう。
著者
永田 典子
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

プラシノステロイド欠損植物は、暗所で発芽・生育させると、もやしにならずに光形態形成をおこなう。一方、サイトカイニンを与えて暗所で生育させた場合も同様の変化がおこることが知られていた。このように、プラシノステロイドとサイトカイニンは、暗所での光形態形成に関して逆の効果を示すようにみえる。しかしこれまで微細構造レベルで両者の作用を比較した例はない。そこで、当該年度の研究では、色素体分化という側面からプラシノステロイド欠損とサイトカイニン過剰の作用を比較することを目的とした。特異的プラシノステロイド生合成阻害剤であるBrzを4μM添加した培地、またはサイトカイニンの一種ベンジルアデニン(BA)を250μM添加した培地で育てたものは、暗所から明所に移した時の緑化がcontrolに比べ早かった。BrzとBA両方を添加した培地で育てたものは、Brz単独、BA単独で育てたものと緑化の早さは同じ程度であった。BA培地にブラシノライド(BL) (1μM)を一緒に添加した場合でも、BA単独の時と緑化の早さは同じ程度であった。Brz処理及びdet2の暗所芽生えの子葉の色素体は、プロラメラボディの結晶構造を含む典型的なエチオプラストであったが、プロラメラボディの占める面積が無処理に比べ大きかった。一方、BA処理の色素体は、プロラメラボディの面積が小さく、むしろチラコイド膜が発達していた。以上のように、暗所での色素体の発達という点において、プラシノステロイド欠損とサイトカイニン過剰は独立の異なる作用を持っていた。さらに、暗所のBrz処理植物を光存在下に移して2時間後に電子顕微鏡観察したところ、渦巻き上に激しく発達したチラコイド膜が観察された。ブラシノステロイド欠損時には、これまでに知られていない、特殊なチラコイド膜発達様式をとる可能性がある。